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- 2016/10/13 掲載
早大 尾形教授とベッコフ川野社長対談、IoTによるAIとロボットの融合は何をもたらすか
「標準化」「モジュール化」がインダストリー4.0やIoTの本質
川野氏:私はシミュレーションや制御などの「ツールとしてのソフトウェア」が進化し、機械・設備といった物理的な機器をデジタル化する進化のプロセスと捉えています。
通信やデータ蓄積のコストはゼロに近づいており、こうしたデジタル化への環境変化が、新たな取り組みへの可能性を一気に広げたのが現状ではないでしょうか。
尾形氏:我々の立場からいうと、これまではロボットやシステムの開発といえば、それがハードに近ければ近いほど専門性が高く、分野ごとに「この研究室でなければ作れない」ということがありました。ソフトウェアはゼロからスクラッチで研究者や学生が作っており、同じ研究室でもロボットごとに制御プログラムが異なりました。
この10年で一番の変化は、なんといっても「モジュール化」です。誰でも使えるようにロボット、システムの標準化が急速に進んできています。ソフトもハードも仕様がオープンになり、別のシステムがどのプラットフォームでも動く時代になりました。
川野氏:メーカーも種類も違う機械、システム、装置をソフトウェアでオブジェクト化し、モジュール化していきましょうという流れが、ロボットだけでなく色んな分野で進んでいるのがインダストリー4.0やIoTです。「レゴブロックのように工場を造る」という表現があるように、自由に組み替えができる生産設備ができると、マスカスタマイゼーションのような世界が近づいてくるのではないかと考えます。
川野氏:要因としては2つあって、1つは標準化に対する期待、認知が進んだこと。もう1つは、汎用品の性能が専用品を追い越したことが挙げられます。
ロボット制御や工作機械の制御など、それぞれに専用の制御機器が必要という考え方から、制御システムの先にどんな機械や装置があっても、共通のシステムで制御が可能だという形に考え方が変わってきました。ですから、制御アルゴリズムはソフトウェアにして、パソコンから制御できれば、使いやすくて楽だという考えが受け入れられてきたと思います。そして、汎用パソコンのCPUの性能が飛躍的に向上し、例えば専用のロボットコントローラーやCNCを凌駕する場合も出てきていることも、こうした考えを後押ししています。
尾形氏:研究の仕方も徐々に変わってきており、その分野に特化した機械を作ることから、標準化が進み、自分の研究分野も標準的なプラットフォームに乗せていこうという考えに変わってきました。こうした動きともリンクしていると思います。
──AIとロボットは「知能」という意味では同じ研究だという考えが進んでいるのも、オープン化や標準化の潮流の一つなのでしょうか。
尾形氏:創生期は両者も同じ概念でした。なぜなら、ロボットの研究者は自律して動く機械を作りたいという思いを当たり前に持っていたからです。
1980年代以降、産業用ロボットや映像、音声などの要素がそれぞれ細分化しました。各分野がソサエティを作って、それぞれに専門家がおり、「まともなモノ」を作るのに精一杯でした。それが、ソフトウェアのモジュール化の基盤が揃ってきて、「ロボットOS」という考え方が一般化してきました。また、AIについては機械学習、ディープラーニングに代表されるような、どの対象にも依存しない非常に強力なツールが登場し、改めて両者の交流が始まりつつある状況です。
川野氏:産業界でも、さまざまな個別要素の技術が、汎用プラットフォームで動いて、組み合わせて使うことが短時間でできるようになってきました。異なる専門分野の企業やメーカーの製品を統合し、新しい付加価値を生み出すときに、業界やメーカーの枠にとらわれずにインテグレーションを進める取り組みとして、ドイツではインダストリー4.0というフレームワークを志向しています。
一方で、クローズドだが品質が担保されるような、業界に特化したプラットフォームを志向する動きもあります。このあたりの動向は、モバイルOSのiOS、Androidの位置づけに近いかもしれません。業界特化のクローズドな動きと、オープンなプラットフォームの動きがどのように共存し、最終的にはどう収斂していくかに注目しています。
産業界の参加によってロボットとAIはブームからムーブメントへ
尾形氏:たしかに、研究者の中には「このブームはすぐにでも終わる」という人がいます。AIブームは1950年代から60年代の第1次ブーム、1980年代の第2次ブームを経て、ディープラーニングの登場により第3次AIブームが到来しました。
これまでのAIブームでは、どちらかというと一部の大学が主導し、企業が参加する「パフォーマンス」の側面がありましたが、今回の第3次AIブームでは、産業界が本格的に参加し、これによって実際に収益を上げている企業がある点が異なります。
例えば、私が2014年にロボットに初めてディープラーニングを利用したという論文を発表したときに、論文のダウンロード数千件 のうち、7割近くはアメリカの企業でした。“儲けている企業”の反応速度の速さを実感しましたね。
──産業界の関わりが、単なるブームでなく新しいムーブメントを起こしているということですね。
尾形氏:我々研究者は、ロボットの基礎研究において何がどうなっているかはわかりますが、それがどうやったら世の中に普及していくかはわかりません。普及のための課題や、どういうデータをどう活用するかというのは、産業界との関わりで、初めて具体的に見えてきた感があります。ですから、今のブームを牽引するディープラーニングなどの技術がいきなり衰えることはないと考えます。
この研究では、ディープラーニングの学習データを集める手法として、人間がロボットからの感覚情報(カメラなどのセンサー画像)を監視しながら、遠隔操作で動作を行わせる「Wizard of Oz」という仕組みを活用しています。AIとロボットの2つを組み合わせ、神経系が司る動作と認知系が司る判断を丸ごとAIに学習させ、入出力の因果関係からロボットの各関節にあるサーボモータの軌道生成を行う研究内容に大変感銘を受けました。
当社はパソコンをベースに、モーターやセンサーなどを自動制御するオープンなシステムを手がけています。いわば、同じソフトを使って、パラメーターを変えることでロボットになったり、工作機械や成形機になったりするわけです。もし、ロボットが自分で判断してタオルが畳めるのなら、同じアルゴリズムを他の機械に応用していくことができる、これは面白いことになると直感しました。
【次ページ】AI台頭で人が不要になることはない?
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