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- 2017/03/08 掲載
岐阜県事例に学ぶインバウンド戦略 ターゲット国を絞って回す観光のPDCAとは?
「通過型観光」から「滞在型観光」へ
岐阜県といえば、世界遺産の白川郷・五箇山の合掌造り集落や長い歴史を持つ下呂温泉、古戦場の関ケ原などがあり、一見すると観光強者のイメージがある。しかし当時、それらの観光資源は「点」でしかなかったと古田氏は語る。
「目的の観光地だけ訪ねたら、次は他をめざして県を出てしまう。岐阜は通過される土地でした。点の集合であるかぎり通過型観光地にとどまるのです。産業として成り立たせるのであれば、滞在型観光地に発展させるとともに、観光客の対象を広げる必要がありました」(古田氏)
そこで大きく2つの戦略を立てた。1つは滞在周遊できるよう、岐阜の新たな観光資源を発掘すること。もう1つは潜在顧客の母数が大きいインバウンド需要を確実に引き寄せることだ。
後者には海外で評判になることで日本人も再認識してくれるだろうという目論見もあった。しかし、そのころ世界は岐阜が日本のどこにあるかも知らない状態。さて、岐阜県はどのようにして自らをアピールしていったのか。
「隣のおばあちゃんが作るぼた餅」も観光資源に
次は、新たな観光資源の発掘である。「岐阜の宝ものプロジェクト」として、県民から「これぞ岐阜の魅力」と思うものを新旧問わず幅広く投稿してもらった。結果として、1811件の観光原石が寄せられた。
なかには、「我が家の2階から見る夕日」「隣のおばあちゃんが作るぼた餅」といった投稿もあったという。古田氏らはこれを頭から否定せず、それは外国人を含め観光客が見たい、食べたい、体験したいと言ったら対応可能か、という視点で1つひとつ精査した。そうした中から、すぐにでも観光資源として活かせる岐阜の宝ものをまず5つ認定した。補助金も出すのだが、そこでは妙な公平性を捨て、認定資源のレベル(「岐阜の宝もの」、「明日の宝もの」、「じまんの原石」の3段階)に添っての補助率も設定。ほんとうにすばらしい資源(「岐阜の宝もの」)には100%補助するという方針を取った。
地元民の「名所」を観光客の「名所」に
そうして発掘した新観光地の1つに、「岐阜の宝もの」認定第1号の「小坂の滝めぐり」がある。下呂温泉から車で30分ほど行った下呂市小坂町には落差5m以上の滝が200ヶ所余り存在する。これまでは知る人ぞ知る名所として、シニアボランティアが周辺整備を行ってきた。岐阜県はこれをさらに支援し、数年がかりで専門ガイドも養成した。その中には英語で説明できる若い男性もおり、まずは若い女性に、続いて外国人に小坂の滝の良さを知らせていった。もう1つの例は、東濃地方の「地歌舞伎」だ。これは同地で300年もの歴史を持つ伝統芸能で、地元の歌舞伎保存会が郷土文化として継承してきた。これを観光資源の観点で見直し、公演のみならず、地歌舞伎を構成する要素、たとえば衣装や芝居小屋などを活用して体験型プログラムとして発展させた。現在では、「中山道ぎふ17宿」内の馬籠宿で夜楽しめる観光コンテンツとして人気を博している。「地歌舞伎」は海外での観光展示会でも大人気だそうだ(図1)。
【次ページ】ターゲット国を絞り込んだインバウンド戦略
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