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- 2017/03/07 掲載
「有能な上司によるトップダウン最強説」は本当なのか
予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

有能な上司による「トップダウン」は最強か
業務には必ず、目的があり実現手段がある。ひとたびあるミッションを遂行しようとの意思決定がなされたら、あとは当初の計画にしたがってそれを実行するのみである。しかし、あらゆる組織では、意思決定と実行が別の人間によってなされるかぎり、両者の間には「思っていたのと違う事態」が毎日のように生まれている。
それは、上司が意思決定をする際に頭の中で描く「セカイ」と、部下が実行する際に直面する「現実」との間には、誤差があるためだ。
「売上を増やせ」という指示をする上司の頭の中では「顧客へのコンタクトの量を増やせば売上があがるだろう」といった、ごくごく単純な話が頭のなかに浮かんでいて、それをポンと提示してしまうということが往々にしてある。
しかし、現場とは因果なもので、「顧客へのコンタクト量」と比例して、社内調整や報告データの入力など、余計なコストが雪だるま式に増えるのが通常である。
そのため、額面通りに「顧客へのコンタクトの量を増やして売上を増やせ」と指示しても、それがうまくいかないことも多い。
上司がそうした現実を考慮せずに、いたずらにその指示が「トップダウン型」に発せられた結果、「理不尽」の声が生まれるのである。
極端に言ってしまえば、トップダウン型の有能な上司とは、「余計な仕事を減らせる環境を整えて、顧客へのコンタクト量だけを増やすことに専念できる状況を作って、そのうえでコンタクト量を増やして、売上を増やせ」との指示を出す人なのである。
これは、「言葉足らずな指示はNG」ということではない。上司の「セカイ」でシミュレーションした際に、その指示を発したことによって何が起きるのかを頭の中で正確に計算でき、目的が達成されれば良いのだ。
トップダウン型マネジメントの「罪と罰」
不測の事態を避けるための最短ルートも知っている。万が一のことが発生した場合の備えた代替案も万全。経験豊富なトップであれば、そうした未知の部分にも目が届くので、ムダがない。
そんな上司がトップダウン型マネジメントをした場合には、言うまでもなく、とても効率的に業務を推進させることができる。
部下の側からしても、有能な上司は助かる存在だ。そうでない上司によって理解に苦しむ指示が発せられた場合、まず「なぜそれをする必要があるのか」と問うところから出発することが必要となる。
あるいは問うことすら許されず、それを受け入れるための精神的な修練にコストを費やすことになる。
有能な上司であれば、そういった必要もないし、指示通りに行動することで確実に成果が得られるので、「失敗したらどうしよう」と不安を抱える必要もない。
頭脳としてのトップと手足としてのメンバー。多くの人間は、必要のない責任を負うのは嫌なものである。
最終的な責任はトップが取ってくれるし、そもそも指示に従えさえすれば失敗の可能性も低いという認識があれば、安心して仕事ができる。
売上はしっかり上がって報酬も十分に分け合えるのであれば、とても幸福な人間関係がそこに成立する。
しかし現実では、なかなかうまくいかない。やはりトップダウンという言葉には「高圧的」「理不尽」「ノルマの押し付け」「ワンマン」というイメージがついて回るのである。
ダメなトップダウンとは、「目的と手段」が矛盾していて、現場が機能しない、ということである。
「そんなことは自分で考えろ」という上司もいる。それは「マネジメントの丸投げ」である。
もちろん世の中には、「そんなこと」を自分なりに考えて、要領よく上司の願いを叶えてくれる部下もいる。しかし、上司にとってそれは優秀な部下に囲まれて「ラッキーなだけ」である。
【次ページ】トップダウン型にはいつか限界が必ずやってくる
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