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- 2018/05/31 掲載
リカレント教育とは何か? スクー社長の森 健志郎に聞く「日本特有」の問題点
リカレント教育とは何か
企業の終身雇用が機能していた幸せな時代、社会人にとって仕事のスキルとはあまり関係ないことを「学習する」という行為は、ほとんど重視されなかった。しかし今や、次々と新しいテクノロジーが仕事を変革し、同じ会社が30年、50年存続する保証などまるでない。新しいことを学習し、新しい仕事に就く、学習と仕事の「リカレント」(反復、循環)が必要になっている。政府も、少子高齢化時代に求められる「人づくり革命」において、高校・大学に進学しなかった人や出産・育児等で離職した人など、誰にとってもいつでも学び直し・やり直しができる社会を作るため、「リカレント教育」をキーワードに制度や環境の整備を検討している。
リカレント教育とは、もともとはスウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンの提唱した概念で、1970年代にOECD(経済協力開発機構)により取り上げられてから、国際的に知られるようになった生涯教育構想のことだ。日本では「回帰教育」や「循環教育」と訳されることもある。生涯にわたり学習と仕事のリカレント(反復、循環)を続けられる教育システムの必要性を説いている。
このように今、にわかに注目を集め始めたリカレント教育について、「世の中から卒業をなくす」というミッションを掲げ、国内最大規模のオンライン動画学習サービス「Schoo(スクー)」を運営するスクー 代表取締役社長 森 健志郎氏は次のように語る。
「海外では、有給休暇を使った教育制度やコミュニティカレッジが普及している国も多く、就職して一定期間が過ぎたら、再び個人で学び直し、新しい仕事をするというように、教育と仕事のリカレントサイクルが繰り返されています。一方日本では、キャリアを中断して外部で学ぶケースは少なく、企業内研修として社内で活躍できる人材を育てることが普通でした。そのため、リカレント教育はもう少し広義の『社会人の学び直し』、企業で働きながら学んだり、生きがいのために学んだり、広い意味で社会人として学習していくことを含む言葉として使われているように思います」(森氏)
とは言え、仕事を続けながら限られた時間で学習することは難しい。加えて「日本の特異性に根差した問題もある」と、森氏は指摘する。
リカレント教育が難しい「日本特有」の問題
「たとえば、働き方改革や人づくり改革において、フリーランスの人を増やそうという試みがあります。しかし日本の場合、社会人教育は企業の研修に負うところが大きく、フリーランスの方々が学べる場が少ないという課題があります。個人で活動する人こそ、学び続けなければならないのに、です」(森氏)学習に対するモチベーションも、日本ならではの問題がある。海外ではそもそも満足に教育を受けられない国も多くあり、そうした国で「現状から抜け出したい」と考えている人たちは学びに対して貪欲で、学習のモチベーションはかなり高い。人生を変えられるチャンスにもなるからだ。
「しかし、日本は義務教育が充実しており、就職すれば誰もが一定水準の生活をおくれる恵まれた環境にあります。そのため単純な、面白くない教育コンテンツを提供するだけでは、なかなか学びを継続できないのです」(森氏)
つまり日本のリカレント教育では、「学習の面白さ」や「継続のしやすさ」を提供する場、プラットフォームがより重要になるわけだ。従来の環境では興味を示さなかった人たちも、学べるようにしていくことが裾野を広げることになる。
「私は、学びたいと思ったときにユーザーが触れやすい素材として、動画コンテンツが適していると考えています。なおかつ、コンテンツとして面白いもの。我々のサービスでは、動画を活用して学習のモチベーションの維持をお手伝いできるシステムを作っていきたいのです」(森氏)
動画を活用することで、リアルタイムでコミュニケーションが取れたり、他ユーザーとともに学べるようなインタラクティブな環境を構築でき、敷居の低い学びのプラットフォームを構築できると森氏は語る。
国土の広い米国とはユーザーのニーズが違う
「前職のリクルートのとき、マネジメントとロジカルシンキングの企業内研修で動画を見る機会があったのですが、それがまったく面白くありませんでした。学習意欲があったにも関わらず、結果的にあまり学べませんでした。そのとき、単に動画を見るだけでなく、人とコミュニケーションできる場があれば、もっとやる気が出る面白いコンテンツを作れるのでは? と感じたのです」(森氏)
そしてリクルートを退社した森氏は、2011年にオンライン動画学習サービスを運営するスクーを興す。当時、日本ではまだ同種のサービスはほとんど普及しておらず、海外では、大学による大規模な公開オンライン講座の「MOOCs」(Massive Open Online Courses)が広がり、オンライン学習事業者として「Udemy」といった企業がようやく登場し始めたころだった。
「日本でも類似サービスがなかったわけではありませんが、当時の日本のスタートアップは、ビジネス的に米国の焼き直しが多い印象でした。しかし、米国のいわゆる『タイムマシンモデル』も、オンライン動画学習の分野では成功しませんでした。そもそも国土の広い米国とはユーザーのニーズも違いますし、前述の日本特有の問題もあったからだと考えています」(森氏)
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