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  • 2018/10/29 掲載

日立 東原敏昭社長が語るデジタルの未来、複雑化する社会課題にどう立ち向かうのか

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デジタル化の進展は、人々の生活を利便にしてきた。しかし「光」となる価値が生まれる一方で「影」となる懸念も顕在化している。「Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO」の基調講演に立った日立製作所の東原敏昭氏は、「さまざまな社会課題をイノベーションで解決しながら、デジタル化による新しい価値を生み出し、豊かな社会を実現していく」と決意を語り、「Lumada」と「NEXPERIENCE」などによる取り組みと成果、そして未来社会のビジョンを示した。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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日立製作所 執行役社長 兼 CEO 東原敏昭氏

日立は社会課題の解決とQOLの向上を両立させる社会を目指す

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 基調講演に立った東原氏は、まず世界全般の動きに触れた。

「いま先進国は高齢化や都市化によって、人手不足が深刻化している。セキュリティに対する脅威もあります。世界の課題はますます複雑になり、いろいろな事故や災害も起きている。日本は地震などで社会インフラに甚大な被害が発生した」(東原氏)

 そのような中で、国連サミットで採択された持続可能な開発目標「SDGs」が徐々に広がりをみせているという。これは貧困や飢餓など、17の社会課題を解決するために、2016年から15年間をかけて世界が達成する目標を定めたものだ。

 経団連では、誰もが安全・安心な生活を送れる社会としての「Society 5.0」を通じて、このSDGsを柱とする企業行動憲章を改定した。政府もインクルーシブなSociety 5.0に向けた未来投資戦略2018を閣議決定し、産学官をあげて多面的な取り組みを始めている。

 東原氏は「SDGsやSociety 5.0に共通の未来社会を実現するドライバーはデジタル技術だ。世界ではスタートアップ企業が急成長し、人々の生活の価値観を変えるサービスが続々と登場している。特に中国では目を見張る動きがある。デジタル技術は生活者にも大きな恩恵を与えるが、光と影があり、新たな課題も生まれている」と指摘する。

 光の部分は、人々を時間と場所の制約から解放したことだ。効率化と省力化が進み、ビジネスチャンスも拡大した。一方で影の部分は、セキュリティ、格差拡大、シンギュラリティへの懸念などだ。こういった課題は、社会全体で考えていく必要がある。

「内閣府によるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のサイバーセキュリティの研究や、総務省のAIシステムリスクの研究も進んでいる。我々はデジタル化の影を認識し、豊かで持続可能な社会を目指す。社会課題の解決とQOLの向上を両立させ、想像力やアイデアによる協創で、光の価値を最大限に引き出す社会を実現する」(東原氏)

IT×OT×プロダクトによって現場の知を培ってきた日立の強み

 「日本には豊富なデータがあり、第4次産業革命でも競争力を維持できるだろう」ーーこれは世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長の発言だ。しかし、豊富なデータは存在していても、それだけでは価値は生まれない。価値創出につながるデータを見極め、活用することが重要だと東原氏は指摘する。

「我々は、これまでの経験を活かし、さまざまなデータによって、新たな価値を生み出していく。IoT時代になり、皆さまとともに価値を生み出せると信じている。ITとOTとプロダクトという3つの技術によって、現場の知を培ってきたのが当社の強みだ」(東原氏)

 日立のプロダクトに関する事例として東原氏が挙げたのがエレベータだ。この分野では中国でトップクラスのシェアを誇っている。広州の超高層ビルでは2017年に世界レベルのスピードを記録。鉄道車両の流体解析技術を生かし、空気抵抗を減らしたり、騒音を低減した。これにより高速性と乗り心地を実現したという。

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プロダクトの現場の知に関する事例。中国に納入された世界レベルの高速エレベーターは、鉄道車両の流体解析技術を生かしている

 次に挙げたのはOTに関するものだ。工作機械メーカーのオークマと協創し、顧客のニーズに応える生産性を追求した。生産の進捗と稼働状況を一元的に可視化できるように、日単位から時間単位へ進化させ、マスカスタマイゼーション対応の高効率な生産モデルに取り組んだ。

「この取り組みは、我々の大みか事業所で活用されている。工場の複数部門をつなぎ、人の作業やモノの状態を把握し、生産性を最適化する画像分析も可能だ。これにより、リードタイムは50%も短縮できるようになった。この現場は多くのお客さまに見学いただいている」(東原氏)。

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OTの現場の知に関する事例。オークマと協創し、マスカスタマイゼーション対応の高効率な生産モデルに取り組んだ

 3つ目は、ITにおける現場の知。第一生命との協創の例がある。顧客に持病がある場合は保険の契約ができない。そこで第一生命と日立のデータを組み合わせ、日数の予測モデルを可能にした。支払いリスクを予測することで、保険引き受け基準を緩和し、1ヵ月で300名を超える人が新たに加入できるようになった。この取り組みにより、新しいソリューション「Risk Simulator for Insurance」も10月から提供を開始した。

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ITの現場の知に関する事例。第一生命と協創し、保険の支払いリスクを予測。「Risk Simulator for Insurance」も発売した

現場の知のデジタル化、「Lumada」と「NEXPERIENCE」は現場をどう変えるか

 東原氏は「このようにIT、OT、プロダクトの3分野で現場の知を深めてきた。データのなかで何が重要で、どこに着目すべきかという点が分からなければ、価値は見い出せない」と強調し、現場の知を価値創出につなげる「Lumada(ルマーダ)」について説明した。Lumadaは日立のデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称だ。

「Lumadaの語源は“イルミネイテッドデータ”だ。デジタル技術だけでなく、お客さまと課題を共有する顧客協創方法論である“NEXPERIENCE”を包含した価値創出基盤となるもの。NEXPERIENCEは、デジタルソリューションをお客さまとの協創によって作りあげる。将来の課題へ向き合い、解決方法を導き出す」(東原氏)

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日立の顧客協創方法論の「NEXPERIENCE」を包含した価値創出基盤が「Lumada」だ。いわばベストプラクティスのようなものだ

 このLumadaとNEXPERIENCEにより、同社は2016年5月以降、数多くのソリューションを提供してきた。たとえば「IoTコンパス」は、独自のデータモデルを活用し、製造現場の業務データなどを紐づけ、AIでデータ分析を行い、生産プロセス全体を支援する。

「IoTコンパスにより、データ整理の時間を大幅に削減した。継続的でタイムリーな分析とデジタルツインの仕組みで、事象発生前に影響を確認できる。このソリューションは、すでにトヨタ自動車で先行評価していただいている」(東原氏)。

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Lumadaのソリューション事例「IoTコンパス」。継続的でタイムリーな分析とデジタルツインの仕組みで生産性を改善する

 とにかく課題を見つけ出し、将来ビジョンを描くことが重要だ。またプロダクトの価値も検証する。価値検証でポイントになるのは事業性。社会科学的な観点も含め、事業へのインパクトを可視化する必要がある。

「NEXPERIENCEにより、普段使わない頭を使えるようになった。双方が意見を出し合い、新事業を開発できた。グループ内の異業種の知識を活用し、AIでリコメンドするなど、人間の限界を超えるサポートをしたいと考えている。世の中の社会課題は複雑化している。まずお話を聞くことで、お客さま自身も気づきが得られるかもしれない」(東原氏)

 このように新たな価値創造のために、多様な専門家が解決していく。日立は、その協創のアプローチが必要だという。

【次ページ】西日本鉄道との協創、福岡のバスはどう変わったのか

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