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  • 2019/02/15 掲載

無冠になった羽生氏が「前竜王」ではなく「羽生九段」を選んだ理由

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永世タイトル七冠を達成し、将棋界で初めて国民栄誉賞を得た羽生善治氏が、平成元年の初タイトル獲得から初めて、すべてのタイトルを失う「無冠」となった。同氏には「前竜王」の肩書を用いる選択肢もあったが、あっさりと「羽生九段」の呼称を選択した。年齢的な衰えやAI研究の台頭という逆風にあって、現役の一棋士として精進する。その姿勢は、あらゆる職業人が模範としたい姿である。実は、同氏はそうしたスタンスを取り続けるための哲学を十年近く前に発表している。著書『結果を出し続けるために』だ。いまこそ読み返して、生きるヒントにしたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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初タイトル獲得から初めて「無冠」となった羽生善治氏
(写真:毎日新聞社/アフロ)

図解、羽生流、結果を出し続けてきたマインドセット

連載一覧
 もし羽生氏が竜王陥落してしまったら、一体どんな呼称になるのだろうか―――ここ何年か、将棋ファンの間では頻繁にそんな話題が取りざたされていた。「羽生九段」とは、筆者を含める一部のファンにとっては、天地がひっくり返っても受入れられない呼称だったのだ。なにしろ、平成元年以降、一度もタイトルを失ったことがないのである。

 そんなファンの思いをよそに、羽生さんはあまりにあっさりと「九段」の称号を選んだ。一体その動機はどこにあるのかと、最新のインタビューをいくら読んでもその胸中は計り知れないが、モヤモヤしている方々も、そうでない方々も、いまこそ「結果を出し続けるために」という一冊を読み返すことを是非ともお勧めしたい。


羽生善治著『結果を出し続けるために』
 トップアスリートといえば、「ひたすらNo.1の座に執着して、目標達成のためにすべてを犠牲にする」というイメージがある。ビジネスにおいても結果を出すため、揺るぎない意志や姿勢を持てと説く人は多い。

 意外かもしれないが、羽生さんが推奨するスタイルは、むしろその逆で「いかにそれを手放すか」ということを説いている。

 本書で羽生善治氏が推奨しているのは以下の三点だ。

・客観的な目で見る ・楽観的に考える ・本当には大切でないものを見極め、手放す

 驚くべきことに、これに加えて「幸せを実感するには、あまり高いハードルを設けないこと」なんて言葉さえ登場する。空前絶後の成績を上げた伝説の棋士の言葉として、信じがたいと思わないだろうか?

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案件を取り巻く自分と環境についての見極め

そうはいっても、なかなかうまくはいかない

 生きるうえでの「客観的、楽観的、手放す」というこの三拍子は「簡単そうだ」「普通のことだ」と感じるかもしれない。

 客観的に、楽観的にと口で言うのは簡単だ。しかし、人は客観的であるどころか、なにかと自分の主観に都合よく考えてしまうものであり、1つひとつの結果に執着し、一喜一憂する。

 また、過去の実績や栄光、ノウハウにしがみつく人なんて、企業の中を見渡せばいくらでもいる。人間は過去をそう簡単に手放せないのだ。

 結果を出し続けるためには、相応のリスクをとって、過去を手放し、自ら変化し続ける必要がある。しかし生きる上では欲もあれば不安もある。最善の一手が見えたとしても、執着や煩悩に阻害され、それを選択するのが難しいこともある。

 こうして考えてみると、羽生氏が「九段」を選んだことは、他者からの呼称や評価を、羽生氏自身が「手放せるものだった」ということを示している。

 しかしそれは、断じて易きに流れる安楽な道ではない。逆説的だが、その「手放す」姿勢があったからこそ、三十年という長きにわたって将棋界のトップオブトップに君臨し続けてこられたのだ、と考えるべきであろう。

【次ページ】大事なのは「瞬間風速」ではない

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