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- 2019/05/08 掲載
波乱含みの自動車「生産」市場の動向、米欧中の規制はどんな影響を及ぼすのか
欧米と中国の摩擦が影響した2018年の自動車生産状況
IHSマークイットのマーク・フルソープ氏は「さらに2019年以降の短期展望でも、世界的に生産を縮小させる多くの罠が潜み、短期的な見通しは暗い」と指摘する。
まず、米国は「通商拡大法第232条」により、鉄鋼製品とアルミ製品に追加関税を課した。米国への輸入が「国家安全保障を損なう恐れがある」と判断したからだ。今後、自動車・自動車部品も課税がかけられるかもしれない。
一方、同社の米国に関する長期展望では、2018年の生産台数は1100万台で、2026年は1130万台だ。CAGR(年平均成長率)は+0.3%で、販売-3%、輸入-6%、輸出+14%になるという予測だ。
「ライトビークルに関しては。今後の台数の増加は難しく、直近の生産レベルを下回る停滞期に入るだろう。デトロイト3(GM、フィアット・クライスラー・オートモービルズ、フォード)のリストラも進む。中国向けの輸出は、税制度にかかわらず、現地生産が進むだろう」(マーク氏)。
排出ガス/燃費試験の新基準の影響で、生産量の減少が予想される欧州
欧州では、米国通商拡大法232条の懸念が広がることに加え、実路走行時の新試験サイクル「RDE」(Real Driving Emissions)の採用が決まり、路上走行に対する規制が始まっている。これは、ディーゼル車の台上試験と路上走行時の排出ガス量(NOx)に乖離があることが原因だ。乗用車の排出ガス/燃費試験の新国際基準「WLTP」(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)の施行も影響し、生産量が減少するという見立てだ。今後もWLTPへの対応により制約が発生し、欧州内での生産減が続く。
「欧州は反ディーゼルに傾き、ディーゼルはCO2削減にも役立たないというイメージが付いている。ディーゼル車が疑問視され、排出ガス測定がWLTPに変わった。これにより2018年に混乱が生じたが、その影響が2019年も上半期まで続く。フォルクスワーゲンやダイムラーなどにも影響を与えるだろう」(マーク氏)。
世界の自動車生産に負の影響を与える不透明なBrexitの行方
「最も象徴的な点は、日産が生産するミドルサイズのSUV型乗用車 X-TRAIL の動向だ。今年に入って、同社の欧州部門は、現地向けの次期X-TRAILの生産拠点をイギリスから日本の九州工場に変更し、生産を集約すると発表した」(マーク氏)。
ただし先日のことだが、イギリスはEUからの離脱の決定を今年10月まで延長することになり、半年の猶予期間が与えられた。EUとの間で「合意なき離脱」が懸念され、混乱が起きると予想されていたが、一時的に危機が回避された。とはいえ、まだBrexitの行方は予断を許さない。
IHSマークイットでは「Brexitのシナリオは、何らかの合意ありの方向で進む」(マーク氏)と予測している。
「我々は、イギリスとEUが物品についての自由貿易協定を維持するベースラインを想定している。サービス分野も、イギリスの事業者が個別にEUへの市場についてのアクセスを交渉し、合意を図っていくものとみている」(マーク氏)。
いずれにせよ、イギリスの自動車産業はリスク含み。前述の日産だけでなく、BMW、JLR(ジャガーランドローバー)なども、2019年第2四半期に生産調整を行う。マーク氏は「製造ストックがあるため、ディーラーへの影響は少ないものの、やはりサプライチェーンの影響は出る」と語る。
長期展望では、EU28ヵ国の欧州向け生産は微増するものの、米国向け輸出は厳しい状況が続く。2018年の生産台数1100万台に対し、2026年予測は1890万台ほど。CAGRは0.3%で、販売-0.3%、輸入+4%、輸出+24%になるという予測だ。
もちろん、輸出が多い日本も影響を受けるという見立てだ。合意なきBrexitに突き進んだ場合、10%は関税になり、各メーカーの自動車の生産台数も減少する。ホンダはイギリスから工場を撤退すると表明し、ヨーロッパ向けの輸出が多いトヨタの工場は生産を調整する意向だ。
日本の自動車生産台数は、2018年が920万台なのに対し、2026年の予測では900万台となり、CAGRは-0.4%で、販売-10%、輸入-8%、輸出+4%と厳しい状況になりそうだ。
【次ページ】米国との摩擦でマイナス成長の中国だが、今後も生産台数は伸長
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