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  • 2020/08/04 掲載

日本だけでなく米国でも…「接触確認アプリ」が大失敗してしまったワケ

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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ロックダウンが解除され、経済活動が再始動したそのタイミングで、新型コロナウイルスの感染者数が再び爆発的に増加する米国。感染者の追跡による抑え込みが急務となっているものの、アップルとグーグルが共同開発したスマホ向けインターフェース(API)の仕組みを利用した接触確認アプリが、鳴かず飛ばずの不人気だ。感染拡大期にこそ役に立つアプリであるはずなのに、なぜ中国や韓国のように普及しないのか。日本版の接触確認アプリCOCOAの運用の参考にもなる失敗の理由を探る。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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期待された接触確認アプリだが、要となる普及率自体が上がっていない
(Photo/Getty Images)


米の接触確認アプリは、州ごとにバラバラ

 7月8日、厚生労働省は、6月19日に配信を始めたCOCOAの利用者の内、検査で陽性となった場合に発行される「処理番号」を入力して登録した人が、7月3日から8日まででわずか3人だったと発表した。同じ期間に国内で約1200名もの人がコロナに感染しているため、アプリとしての実用性には疑問符が付いた形だ。これから陽性登録者が伸びたとしても、ダウンロード数が約700万と極端に少なく、陽性登録も任意かつ不完全で、不具合の多発するアプリの利用者が実際に増えるのか、不安を抱える船出となった。

 米国においても、接触確認アプリの普及率は低い。まず、他国のような、国として共通のアプリというものがない。米テック大手謹製のAPIを使ったアプリ開発にコミットすることを公言するのは、アラバマ・ノースダコタ・サウスカロライナの3州のみ。一方でユタやサウスダコタの当局は、アップルとグーグルの共通APIに依存することなく独自のアプリを作り出し、互換性の欠如に拍車をかけている。

 各州が、アップルとグーグルが共同開発した感染者接触確認のインターフェース(API)を利用して独自の接触確認アプリを開発、あるいは当該APIに依存しないアプリを独自開発するため、開発や普及の効率が悪い。さらにユタ州では「Healthy Together」と名付けられたアプリが本来の接触確認ではなく、症状確認やPCR検査の予約など、別目的で使用されている。

 また、米Business Insiderの聞き取り調査に対し、コロラド・フロリダ・ジョージア・ハワイ・インディアナ・ルイジアナ・メリーランド・ノースカロライナ・オハイオ・オレゴン・テキサスなど17州が「スマホ向け接触確認アプリの開発計画はない」と明言しており、地元当局の強力な推進なくして成立し得ない接触確認アプリは、米国においては最初から失敗が運命づけられていると言える。

 このため、「最初から米疾病対策予防センター(CDC)がアップルとグーグルの力を借りて全米共通のアプリを開発すれば、各州の重複のムダが省けて普及率も高くなっただろう」とする声が根強い。


普及率が低い「納得の事情」

 感染の再爆発による接触確認のニーズは増加するばかりなのに、なぜ米国の連邦政府や州政府で普及への機運が盛り上がらず、積極的に国民や州民に推していないのだろうか。これは一見、当局者のパンデミック制御のニーズと矛盾するように見える。

 しかし、低普及率の裏には「納得の事情」がある。まず、中国や韓国のように当局が強制的あるいは半強制的にアプリをダウンロード・使用させる法的根拠や文化がないことが大きい。

 また接触確認アプリが技術的に未成熟な部分も、ダウンロードの少なさの大きな要因だ。そもそも、一定時間以上、感染者の近くに滞在していたとしても、必ずしも感染が起こったとは言えない。感染者との接触警告が2回か3回出され、自主隔離を要請されてもユーザーは我慢するかもしれないが、それ以上の頻度であればアプリを疎ましく思うだろう。また近くにいた感染者や、スマホの持ち主がマスクを着用していたかどうかも、アプリには判断できない。

 逆に、感染者のそばに長時間滞在しなくても、感染者が出自であるウイルスがテーブルなどの表面に付着し、そこから感染する可能性もある。ところがアプリには、ウイルスが見えないため、そのような状況を「安全」と判断してしまう。

 さらに3月以来、各州は感染爆発や死者急増の対応や都市閉鎖(ロックダウン)の実施、また経済の一時停止に伴う失業対策などで手一杯であり、感染追跡にまで手が回らなかったことも大きな理由だ。実際に感染追跡を行う首都ワシントンやニューヨーク、カリフォルニアなどの州においても、「接触警告」のシステムにすぎない接触確認アプリよりも、過去のパンデミックや性病コントロールで実績と正確性に優れた人手による追跡を採用するなど、当局側のIT利用に対する熱意が低いことがネックになっている。

 たとえばカリフォルニア州においては感染爆発当初、ニューサム知事がアップルとグーグルのAPI導入を発表しながら、2カ月後には2万人の接触追跡員を雇用する方針に転換している。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、「(接触確認アプリなどの)デジタルツールは(現時点において)人手による接触追跡を代替するレベルに達していない」と指摘する通りである。

 その、人手による接触追跡についても、アンソニー・ファウチ米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長が「うまく進んでいない。追跡できた感染の可能性がある人々に対して、電話による自主隔離要請を行うだけでは不十分だ」と主張している。電話をかけても、既知でない番号からの通話を拒絶されたり、電話で個人情報や濃厚接触者の詳細を提供することをいやがられたり、生活に制約が加えられることを嫌う相手も多い。このように、人手による追跡でさえ目的達成が困難である中、当局にとって接触確認アプリは、実用レベルに達するには程遠いのだ。

【次ページ】アプリが普及しない、最大のネック

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