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  • 2022/02/22 掲載

“30分配送”がさらに進化、中国スマート物流事情。2社が共同で生んだ秀逸な仕組み

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スマートフォンで注文後、30分で配達をしてくれる生鮮ECサービスの利用が中国国内で拡大している。30分配送を支えているのが、分散型倉庫を多数配置する「前置倉(前線倉庫)」という物流手法だ。そして、この前置倉の考え方を生かして、家電の物流を変革した企業がある。家電メーカーの美的(ミデア)は、物流企業の安得(アント)と共同で独自の物流網を構築し、都市部でのEC注文の24時間以内配送を実現すると同時に、倉庫数は1/16、倉庫総面積は1/3にするなど物流コストを大幅に下げることに成功した。中国で進化するスマート物流の今をレポートする。

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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美的(ミデア)と安得(アント)が共同で構築した物流網を中心に、中国のスマート物流事情を解説
(Photo/SOPA Images/Getty Images)


「生鮮EC」の仕組みを応用、中国で進むスマート物流化

 中国で広がる生鮮ECは、スマートフォンで野菜や肉、魚、レトルト食品などを注文すると30分で配達をしてくれるサービスだ。以前は、新しいサービスを使うことに積極的な若い世代の単身者の利用が多かったが、コロナ禍以降、一般家庭にも利用が広がっている。大手は、2014年創業の「毎日優鮮」(ミスフレッシュ)、2017年創業の「叮咚買菜」(ディンドン)の2社だ。


 この30分配送を実現するために考案されたのが、「前置倉(前線倉庫)」という仕組みだ。短時間配送をするには、配達先である住宅地の中に倉庫を配置すればいい。分散型倉庫を多数配置し、センターで注文を受けると、配達先から最も近い前置倉に指示を出し、前置倉所属の配達スタッフが電動スクーターなどで配達する。

 今回紹介するのは、この前置倉の仕組みを家電の配送に応用した、家電メーカー「美的」(ミデア)と物流企業「安得」(アント)だ。両社は共同で「一盤貨」(1つの器で商品を扱うの意味、クラウド物流)と呼ばれる共同物流の仕組みを構築した。

 その結果、都市部で24時間以内配送、郊外でも48時間以内配送を実現し、設置工事が必要な大型家電の配送・設置もスマートフォンから1時間単位で好きな時間を指定できるようになった。加えてミデアは、倉庫数を従来の1/16、総面積を1/3にして、物流コストを大きく削減することにも成功した。そしてこの事例は、国家発展改革委員会が選出する「物流業製造業深度融合創新発展典型事例」50例の1つにも選ばれた。


驚異の“30分配送”を実現する「前置倉」の仕組みとは?

 生鮮ECの前置倉は、80平方メートルほどと小さい。ここに400~600SKU(Stock Keeping Unit:商品品目数)の商品を保管し、1日400件程度を配達するのが一般的だ。イメージとしては日本のコンビニに近い。ただし、店舗ではなく倉庫なので、立地条件を考える必要がなく、賃貸コストや運営コストなどは抑えられる。

 ただし、前置倉の最大の痛点は、商品ロスが発生しやすいことだ。1倉庫あたりの在庫数が小さいため、容易に需給ギャップが生まれてしまう。しかも扱う商品が生鮮食料品であるため、廃棄せざるを得ない。生鮮食料品はただでさえ粗利が小さな商品で、商品ロスは致命的だ。

 そこで、どの生鮮ECでも使われているのがAIテクノロジーだ。機械学習によって需要を予測し、在庫量を調整する。そのため、生鮮EC企業はエンジニアやデータサイエンティストが多く、生鮮小売業というよりもテック企業、データテクノロジー企業といったほうがしっくりくるほどだ。

 つまり前置倉は、「小さな分散倉庫を多数配置する」という設備面だけでなく、データテクノロジーによって管理されているスマート物流というシステム面があって初めて成立する。

 そしてアントは、この「分散倉庫」「データテクノロジーによるスマート物流」という2つの面に着目して、全国スマート物流「一盤貨」を構築した。

複雑すぎる従来の家電の物流、抱えていた3つの問題

 一盤貨の仕組みを一言で言えば、ミデアの物流をすべてアントが担当する共同物流だ。その意味を理解するには、まず一般的な家電の物流を理解する必要がある。

 一般的な家電物流は、非常に複雑な構造になっている。メーカーの工場から出荷された商品は、メーカーの物流拠点に配送される。量販店、ECそれぞれが独自の物流拠点を持っているため、メーカーの配送部門(または配送子会社)は、メーカー物流拠点からそれぞれの量販店、ECの物流拠点に商品を運ぶ。10の量販店チェーン、5つのECと販売契約をしていたら、15回の配送をしなければならない。

 その先の物流も複雑だ。量販店は、自社の配送部門が各店舗に配送する。また、EC注文を受けた場合は、物流拠点から直接出荷をする。

 小型家電の場合は、店舗では持ち帰り、ECの場合は宅配便企業に配送委託をするが、複雑なのは大型家電だ。店舗で購入した場合でもECで購入した場合でも、大型家電は通常の宅配便ではなく、専門の配送業者に委託をする必要がある。また、エアコンなど設置工事が必要な大型家電の場合は、電気工事資格を持った工事業者が必要で、工事案件としてまた別の専門業者に委託する必要がある。

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一般的な家電の配送の流れ。配送するプレーヤーがメーカー、量販店、大型配送業者、工事などの専門業者、宅配便とさまざまなため、非常に複雑

【次ページ】従来の家電物流の3つの問題、それらを一気に解決した仕組み「一盤貨」とは?

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