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  • 2014/06/12 掲載

東京大学 森川博之教授が衝撃受けたグーグルの買収 IoTで生産性を改善できる3分野とは

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ICTのめまぐるしい進化によって、現在では異業種間をつなぐ新たなビジネスが生み出されている。またこれまでICTがほとんど活用されていなかった業種にICTを適用することで、大きな生産性を上げることが期待できる。その際に重要な鍵を握るのが、膨大で多種多様なデータの活用だ。データ活用による新たな価値創造について、東京大学 先端科学技術研究センター 教授 工学博士の森川博之氏が富士通フォーラム2014 東京にて語った。

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

レッド オウル
編集&ライティング
1964年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学理工学部卒業。89年4月、リクルートに入社。『月刊パッケージソフト』誌の広告制作ディレクター、FAX一斉同報サービス『FNX』の制作ディレクターを経て、94年7月、株式会社タスク・システムプロモーションに入社。広告制作ディレクター、Webコンテンツの企画・編集および原稿執筆などを担当。02年9月、株式会社ナッツコミュニケーションに入社、04年6月に取締役となり、主にWebコンテンツの企画・編集および原稿執筆を担当、企業広報誌や事例パンフレット等の制作ディレクションにも携わる。08年9月、個人事業主として独立(屋号:レッドオウル)、経営&IT分野を中心としたコンテンツの企画・編集・原稿執筆活動を開始し、現在に至る。
ブログ:http://ameblo.jp/westcrown/
Twitter:http://twitter.com/redowlnishiyama

モノにWi-Fiを付ければ、スマートフォンはデータ収集用のデバイスになる

 講演の冒頭で森川氏は今年ショックだった出来事として、米グーグルが、空調制御を行うサーモスタットという機器を製造/販売する米Nestという企業を32億ドル(約3,200億円)で買収したことを挙げた。

 このメーカーが作るサーモスタットは、米国の家庭内で壁に取り付けて使われているもので、無線LANが内蔵されており、収集したデータをWi-Fi経由で全てスマートフォンに集めることができ、また各種制御もスマートフォンからできるようになっている。

 森川氏は「このNestという企業は、いわばサーモスタットと火災報知機を作っているだけの会社。それにグーグルが32億ドルもの価値を見出したことが考えさせられる」と前置きした上で、「スマートフォンが爆発的に普及したことで、モノにWi-Fiさえ付いていれば、あらゆるデータをスマホに集めることができ、さらにはそれをクラウドに集めることができる。グーグルはこの買収によって、家中のデータを集めるきっかけを作ることができた」と指摘した。

 逆に考えれば、“今現在、インターネットにつながっていないモノ”にWi-Fiを付ければ、それらから収集されるデータを全て、スマートフォン経由でクラウドに上げることができる。その際にスマートフォンは、データを収集するためのデバイスとして位置付けられることになる。

「私はNestのことは数年前から知っており、スマートグリッドやHEMS(Home Energy Management System)のアプリケーションを考える上で核になる会社だという認識はしていたが、日本円でせいぜい100億円ぐらいだと思っていた。しかしそれに32億ドルの値が付いた。グーグルは、いわゆる端末の販売ではなく、そこから上がってくる膨大なデータに価値を見出したということになる」

Web 2.0以降、“モノの情報”を集める動きが加速している

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 続いて森川氏はこの10年間を振り返り、「データを集める動きは、Web 2.0から始まったと思っている」との見解を示した。

 Web2.0の特徴として、はてなブックマークなどに代表されるユーザーによる情報の自由な整理や、Amazonレビューなどユーザーによる貢献、ニッチな商品やサービスでビジネスを成立させるロングテールなどが挙げられるが、突き詰めればこれらは全て、必要なデータを収集するところから始まっている。

「データを集める機構には3つのタイプがある。まず“コンテンツ”を集める機構と“行動情報”を集める機構が、Web 2.0の時代から一気に進み出した。たとえば前者ならグーグルでインターネット上にあるコンテンツ、後者ならAmazonでユーザーの購買履歴といった行動情報を集めている」

 そして3つめ、現在では新たなデータとして“モノの情報”を集める機構が生まれ始めているという。いわゆるM2M(Machine to Machine)、あるいはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれる世界だ。先のサーモスタットもこの領域に含まれる。

「そこではセンサーがデータ収集用のデバイスとなり、これまで以上に膨大な数のセンサーが市場に出荷されるようになる。たとえば自動車部品などを手がける独ボッシュ(Bosch)は、今現在でも年間約16億個のセンサーを出荷しているが、今後数年間で1兆個、あるいは10兆個といった単位のセンサーが毎年出荷されるようになるだろう。そしてそれらのセンサーからネットワーク経由で膨大なデータが集まってくる。まさに新たなICT時代の到来だ」

生産性の低い産業セグメントに適用することがねらい目

 次に森川氏はICT産業について言及し、「かつてICTは最先端分野に位置付けられていたが、今はもう成熟期に来ていると言えるのではないか」と指摘した。

「創世期でこれから市場を拡大していくのと、成熟してから市場のシェアを守っていくのとでは、考え方もやり方も違ってくる。ICTも成熟期に来たのであれば、既にレガシー産業だという意識を持ち、他の産業セグメントをスマート化していく、あるいは生産性を上げて付加価値を高めるという取り組みをしていくことが、今後10年という長い年月にわたって必要になる。いわば“社会を支えるICT”という方向性だ」

 これからICTが社会に及ぼす影響は、約45年前に登場したPLC(Programmable Logic Controller)という制御装置が、世の中に与えた影響と同じかもしれないという。

 PLCは、コンピュータとセンサー、そしてアクチュエータ(=エネルギー変換装置)が一体化したもので、これによって自動車の製造工程では、それまで人手で行っていた作業を自動化できるようになり、生産性は劇的に向上した。

「ICTも同じような影響を与えていくのではないかと思う。つまり今現在、生産性の低い産業セグメントをピックアップし、そこにICTを、あるいはM2MやIoTを導入して、生産性を高めていく。これが今後、長い年月をかけて我々が取り組んでいくべき重要なテーマだと思っている」

【次ページ】日本がIoTで生産性を高められる3つの分野

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