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- 2014/06/23 掲載
東京大学 吉川良三氏の指摘する日本メーカーの2つの課題 復活のカギはM2M・IoT
グローバル化とデジタルものづくりへの対応で遅れを取る日本
「円高、高い法人税、厳しい労働規制、温暖化ガス排出規制に、諸外国との経済連携の遅れ、そして災害に端を発する電力不足。こうした六重苦が競争力低下の原因だという声があちこちで聞かれる。しかし私は、まったく違う原因を考えている。日本の競争力が失われたのは、社会のパラダイムシフトに対応できていないからだ」(吉川氏)
いま、日本メーカーが陥っているのは、クリステンセンのいう“イノベーションのジレンマ”だ。独創的な新技術におごり、グローバリゼーションとデジタルものづくりによって、破壊的なイノベーションが起こることに注目しなかった結果だ。そもそも日本メーカーは「イノベーション」を誤解しており、グローバリゼーションにより引き起こされたイノベーションを理解できていないと吉川氏は言う。
「イノベーションを技術革新と訳すのは間違い。既存の技術であっても、新しい組み合わせが市場に受け入れられたらそれはイノベーションだ。日本はユーザーの要求以上の技術革新を起こし続け、その新技術から来るおごりにおぼれた。その間に新興国はローエンド側のニーズを既存技術の組み合わせで満たしてきた」(吉川氏)
吉川氏はものづくりにおける環境の四大変化として、グローバル化、アナログものづくりからデジタルものづくりへの変化、グローバル市場の構造変化、国際的な勢力関係の変化を挙げた。その中でも特に強調するのが、グローバル化とものづくりのデジタル化への対応の遅れだ。グローバル化と国際化の違いを知り、市場のグローバル化だけではなく、調達、R&D、競争のグローバル化を理解しなければ、それに対応できる人財育成もできない。そうした変化の中でものづくりのデジタル化が進み、日本メーカーが得意としたアナログ的な微妙な味わいへのニーズは減る一方だ。
世界のニーズは使ってみたい、買ってみたいというわくわく感にある
グローバルで起きているものづくりの変化、新しいものづくりの考え方とはどのようなものだろうか。それを考える際のヒントとして吉川氏は、次のような話をした。「日本が考えているのは『ものつくり』。構造物としての『もの』をつくることだと思いこんでいる。しかし世界でいま求められているのは『ものづくり』。つくるべき『もの』は構造物とは限らない」(吉川氏)
使ってみたい、買ってみたい、こういうものが欲しかった、そんな“わくわく感”をマテリアルとして、サービスとして作り込んでいくことが求められているのだという。近年、革新的な製品として世界で人気を集めているのはそういう“わくわく感”がある製品であって、そこに詰め込まれている技術自体は目新しいものではない。そうした『もの』を考え出す力が、日本メーカーにはなくなってきていると吉川氏は嘆く。
「考える力を失いつつあることと並んで危機的なのは、日本のメーカーが垂直統合型のものづくりから抜けきれないという現状だ。考えた人がものをつくるのではなく、考えたものを別のどこかにつくらせる水平分業型に移行する必要がある。そのために重要な役割を果たすのがITであり、ソフトウェアなのだが、日本ではソフトウェアが軽視されすぎている」(吉川氏)
多様化するユーザニーズに応えるためには、従来のものづくりで重視されてきた「Q(品質)・C(コスト)・D(納期)」に加えて、F(Flexibility:柔軟性)、S(Safety:安全性)、E(Environment:環境)を考えて設計する必要がある。複雑性を増す設計には、ITの力を活かさなければならない。
【次ページ】グローバル化に対応する人材育成、組織の見直し
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