• 会員限定
  • 2016/06/03 掲載

企画部門は、営業の「一度始めたことがやめられない病」に「それ、無駄」といえるか

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
「営業」にせよ、「広報」にせよ、はたまた「人事」にせよ、その部署名とはすなわち、その企業組織において発揮することが期待される「機能」を指した名称である。企画系部署もその例外ではなく、ある一定の機能が期待されているわけであるが、彼らがその機能として期待されるのは、現場での営業活動そのものではなく、「営業活動がより生産性の高いものとなるような施策の立案、実施」という、若干、抽象化されたものである。企画チームへの評価とは、本来であれば組織全体の生産性向上への寄与に応じてなされるべきところであるが、この抽象性には、大いなる罠が存在する。現場を持たない「企画」という部署は、ともすると現場への負担を増してしまうだけの存在に堕してしまうリスクを常にはらんでいる。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

photo
現場を持たない「企画」という部署がすべきこと

経営会議のお決まりパターンとは

 多くの企業においては、定期的に経営会議なる会議が開かれ、その名の通り、経営上の課題についての討議が行われる。

 そこでの主なトピックとは、営業・製造部門における損益状況、新規投資案件の進捗状況、財務・経理、人事といったところがお決まりのメニューである。

 企業によって、議論の切り口に多少の違いはあれど、そこで問題にされていることはたったひとつ、「一体いかにして成果を出すか=利益を創出するか」ということである。そして、そこで槍玉に挙げられる筆頭者はおおよそ、営業部門の責任者になりがちである。

社長「随分長いこと営業目標の未達成が続いているが、これはいったいどうなっているのか。市況から言っても、そんなに高すぎる目標でもないと思うのだが。このままいくと我が社だけ成長率が低迷したまま、同業他社に取り残されるのと違うか」

営業部長「ははっ 言い訳のしようもございません」

社長「ちゃんと日々の行動管理はできておるのかね、既存顧客ばかり回って新規にあたってないのと違うか?先TEL案件はその場でクロージングできとるのか?」

営業部長「ははっ 普段から、きちんと指導をするようにとマネージャーにも指示しているのですが・・・」

社長「きちんとって、どれくらい徹底できてるの。ちょっとそれ、ちゃんと数字とって報告してくれる」

 冷や汗が止まらない営業部長。もし仮に、心のなかで「いやいや、あんな目標、達成できるわけないやろ・・・」と思っていたとしても、それを「できない」と表明することは日本的組織におけるマナーから反することである。

 ともあれ、責任者たるもの、それが未達成である現実と向き合わなくて良いという話にはならない。組織のいかなるところに課題があるのかを発見し、それを解決するのが彼または彼女の責務である。

営業部長はなぜ「一度始めたことがやめられない」のか

 ということで、そのブレーンたる営業企画チームの仕事がここに発生する。経営会議が終わるやいなや、営業部長は片腕としている営業企画担当者を捕まえて、このような会話が繰り広げられることになる。

営業部長「営業マンの行動管理ってどうなってたっけ」

営業企画「行動管理って、一日あたりの顧客訪問件数ですか」

部長「そう、それ、そういうやつ。なんか数字とってたよね。いま営業電話の件数って目標ラインに乗っかってるんだっけ」

企画「営業電話の件数までは数字とってないですね・・・いまのフォーマットでとってるのは、あくまで訪問の件数なので」

部長「新規と既存の区別ってしてるんだっけ」

企画「新規案件か定期訪問かの区別はしてますけど」

部長「いや、顧客単位での新規と既存が見たいんだよね」

企画「・・・データを加工すれば、なんとかそれらしい数字は出せますけど・・・ちなみに、顧客は企業単位で出しますか、部署単位で出せばいいですか」

部長「・・・ああ、そうだよね、どうしようか。主要顧客は部署単位、取引が大きくないところは企業単位でいいんだけど、いい感じに出してくれない。あ、あと営業電話の件数、どうにかしてとれない」

企画「日報に項目を増やせば」

部長「じゃあそれやっといて。次の営業会議で記入方法を現場におろしといて」

関連記事
 結果、営業マン達は業務日報フォーマットの項目追加に四苦八苦することになるのであった。事務作業の増加は、現場においては、即、不満につながる。これに耳をかたむけ、ときになだめ、すかして、必死の思いでフォーマットを展開するのは良い企画担当者である。

 東に入力方法がわからない新人がいれば言って聞かせ、西にファイルをなくしたベテランがいればバックアップ方法を説き、やっとの思いで数字を集計する。しかし、それが実現したときには、トップの関心は別のことにうつってしまい、結局その数字は、一顧だにされなかった、という馬鹿らしい話はそこら中にある。

 こうした数字の集計活動は、マネジメントサイドの思いつきだけでなく、コンサル会社の提案やらシステムベンダーの提案やら、ありとあらゆるきっかけで発生する。似たような数字でも、見たい角度によってカテゴリ分けや集計ルールが違ってくるため、現場の人々は、ありとあらゆる二重入力を強いられることになる。

 こうして、あらゆる企業において、種種雑多なツール、システム、Excelシート、メールが入り乱れ、なにがなんだかわからない状況が発生する。

 それぞれ、各論だけを見るとその数字をとる意味は理解できるが、似たような集計を別の場所でも行なっており、明らかに体感としては、不要な二重入力を行なっている。全体として俯瞰すると、どうも非効率的な管理方法となっているわけだが、ではどれが不要なもので、終わらせるべきなのかを考えようとすると、うまく整理することができない。

 こうして、ながい業務運用の歴史上、営業企画チームが、「企画」とは名ばかりの「数字集計チーム」に堕してしまうことも珍しくない。

 これこそ、我が国の企業社会において日常的に繰り広げられている姿、名づけて「一度始めたことがやめられない病」である。

【次ページ】営業の無駄な数字集計を「それ、無駄」と指摘できるか

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

トップが語る リクルートの心臓、「FP&A」の舞台裏

いまや日常生活には欠かせない幅広いインフラを提供する、リクルート社。同社がカンパニー制を採用し、営業力を武器に各領域で圧倒的な成長を遂げてきたのは周知の事実です。 しかし、各カンパニーがそれぞれ競争優位を構築し企業価値を高めてきた理由の1つに「FP&A」の存在があることはあまり知られていないのではないでしょうか。 一般的にコーポレート部門はコストセンターと見られるケースが多いですが、同社ではコーポレート部門の一員であるFP&Aプロフェッショナルが事業の成長を支える存在として活躍し業績向上に貢献してきました。 今回はそんな同社を90年代から支え、本社FP&Aのトップとして業績管理を支えてきた三木氏をご招待し、リクルート社でFP&Aがどう企業価値向上に繋がっているかについて語っていただきます。 当日のテーマは以下です。 ・リクルート社におけるFP&Aの果たす役割 ・FP&A担当者が各カンパニーで行う、具体的な業績PDCAの回し方 ・経営企画の皆さまがFP&Aを取り入れて業績向上につなげるために必要なアクション 「FP&Aの概念は知っているがなかなか実践に落とし込めない」と感じている皆さまに、ぜひヒントをお持ち帰りいただける場にできればと考えております。 ぜひご参加ください。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます