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  • 2016/09/26 掲載

ドンキホーテ、「27期連続」増収増益を果たした3つの強み

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イトーヨーカドーの大量閉店など小売業界には逆風が吹いているが、その中で、唯一気を吐く業態がある。ドンキホーテや100円ショップといったディスカウントストアである。アベノミクスによるインフレ期待が一転し、デフレ再来ともいわれる中、特にドンキホーテの躍進は著しい。かつては「若者向け」というイメージがあった同社だが、さまざまな客層を取り込み、いよいよメジャー化してきた。同社の強みはどこにあるのだろうか。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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今のドンキホーテは「安いだけ」ではない

ドンキ躍進と総合スーパー閉店は表裏の関係

 ドンキホーテホールディングスの2016年6月期の決算は業界関係者を驚かせた。売上高が前年比11%増、営業利益が10%増という良好な業績に加え、第1号店の出店以来、27期連続の増収営業増益を達成したからである。昨年度は全国で40店舗を新規出店しており、今期も出店計画が目白押しとなっている。

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ドンキホーテの売上高と営業利益の推移

 一方、小売業界全体の状況は厳しい。セブン&アイ・ホールディングス傘下の総合スーパー「イトーヨーカドー」は、今年に入って店舗閉鎖を加速させている。同社は2016年度中に20店舗、2020年度までに合計40店舗を閉鎖する計画を打ち出しており、今後も順次、閉店を進めていく予定だ。

 イトーヨーカドーやイオンのような総合スーパーは、人口動態の変化による影響をモロに受けており、売上高は年々減少が続いている。また勤労者の実質賃金は5年連続で低下しており、消費者の節約志向は今後、さらに強まる可能性が高い。以前なら、不採算店舗を抱えていても、市況の回復を待つといった選択肢があったが、現在の小売業界にはそのような余裕はないというのが現実だろう。

 ドンキホーテの大躍進と総合スーパーの大量閉店は、実は深く関係している。その理由は、ドンキホーテは、スーパーが撤退した物件に「居抜き」入居することで、低コストでの出店を実現しているからだ。同社が昨年新規に出店した40店舗のうち大多数が、スーパーやパチンコ店など他社の居抜き物件で占められているという。

低コスト戦略のポイントは「居抜き」

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 居抜きとは、以前、別の事業者が運営していた店舗をそのままの状態で引き取る形態のことを指す。通常、店舗物件は、中に何もない状態で借り、自社の販売手法に合うようコストをかけて内装工事を行う。居抜きの場合にはこれらの費用がかからないので、店舗あたりの減価償却費を大幅に削減できる。

 確かに居抜き出店は、コスト的に見れば圧倒的に有利である。しかし、店の内装が以前の事業者のままでは不都合なことも多い。大規模小売店は、自社の商品ラインナップや販売戦略に合うよう、徹底的に効率化と画一化が進められている。商品陳列の順番や密度、通路の幅や、顧客の動線など、細部にわたって細かいルールが決められているため、少しでも自社の基準に合わない内装があると効率良く店舗を運営することができない。

 ところがドンキホーテの場合には、逆に売り場の状況に合わせて商品の陳列を変えるといった柔軟な運営が可能となっている。これによって出店の制約が少なくなり、有利な場所に低コストで店を出すことができる。これが同社の好業績を支えている。

 では同社はなぜ、こうした自由な店舗運営ができるのだろうか。その理由は、同社が独特の商品陳列手法を採用しており、それが収益拡大に寄与しているからである。

ドンキは圧縮陳列を得意としてきたが・・・

 同社は、天井まで商品を高く積み上げ、あえて見通しを悪くするという「圧縮陳列」と呼ばれる手法を得意としてきた。圧縮陳列の店内に入った顧客は、まるで迷路に入ったようになり、どこに何かあるか分からないという状態になる。その結果、無目的に来店した顧客の滞留時間が長くなり衝動買いを誘発する効果があるとされる。

 圧縮陳列では、店内に整然と商品が並んでいる必要がないので、居抜きの物件でも、前のお店の特徴を生かして店舗を設計することができる。これによって自由な出店が可能になるという仕組みだ。

 こうした陳列手法は小売業界における店舗理論では御法度とされてきた。無目的にやってくる顧客だけを相手にしていては、大きなボリュームを稼ぐことはできないというのがその理由である。

 買いたい商品がはっきりしていて、日常的に来店する顧客にとっては、圧縮陳列は必ずしも魅力的とはいえない。このため、この手法を採用する大手チェーン店はほとんどなかったわけだが、同社はこれを逆手にとって成功した非常に珍しいケースといってよいだろう。

 同社の規模が大きくないうちは、圧縮陳列の手法は非常にうまく機能した。深夜営業を売りにしていたこともあり、無目的な若年層の顧客をしっかり取り込んで高い収益を上げることができた。同社は以前、住宅地への出店に際して、近隣住民とのトラブルを多数抱え込んだ。これもウラを返せば、衝動買いをする顧客層をうまく獲得できていたことを示している。

【次ページ】ドンキが「メジャー」になるにあたって採用した戦略

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