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  • 2016/11/18 掲載

「まるで空気を運んでいる」、半数超赤字の「三セク鉄道」に活路はあるか

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地方の深刻な人口減少が続く中、第三セクターのローカル鉄道経営が厳しさを増している。全国63の三セク鉄道を対象にした調査によれば、半数以上の35社が経常赤字で、徳島県と高知県を結ぶ阿佐海岸鉄道のように7000万円近い経常赤字を出しているところがあるほか、山口県の錦川鉄道や青森県の青い森鉄道のような「隠れ赤字」も存在する。各運営会社は観光列車の運行など増収に向けて懸命の努力をする一方、自治体の支援を受けてどうにか地域住民の足を支えている。北海道教育大札幌校の武田泉准教授(地域交通政策論)は「三セク鉄道の危機を救うには国の交通政策の抜本的改変が必要」と警鐘を鳴らす。地方の三セク鉄道は人口減少時代を生き延びることができるのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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厳しい経営状況の中、地域交通を支えて走る阿佐海岸鉄道
(写真:徳島県海陽町の宍喰駅にて筆者撮影)

赤字覚悟で開業、基金を取り崩して経営を維持

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 四国の南東部、徳島県海陽町の海部駅から県境を超え、高知県東洋町甲浦駅まで8.5キロの阿佐東線を運行する阿佐海岸鉄道。室戸阿南国定公園の風光明媚な海岸線を眺めながら走るが、平日の昼ともなれば乗客は数えるほど。まるで空気を運んでいるような状態だ。

 2015年度の乗客数は4万4,377人で、営業収入は前年度を29.4%下回る913万円。営業費用は7,920万円かかり、経常損益は6,549万円の赤字となった。徳島、高知両県と沿線など14市町村が積み立てた経営安定基金を取り崩し、経営を維持している。

 沿線は急激な人口減少にさらされている。海陽町は1970年の人口1万6,000人がいまや9,900人、東洋町は6,000人が半分以下の2,700人まで落ち込んだ。このため、1992年の開業以来、1度も黒字になっていない。

 阿佐東線は旧鉄道建設公団が整備しながら、国鉄再建法で放置されていた区間を3セク鉄道として開業した。当時から採算が合わないと予測されていたが、鉄道のない地域の公共の足としてあえて開業した。

 しかし、海陽町宍喰地区にあった高校が2006年に閉校したあと、通学利用の生徒が激減、事態はより深刻になる。日本の三セク鉄道で最も利用の少ない路線に何度も名前を挙げられ、開業当時に自治体が積んだ5億円の基金を使い果たした。今は新たに4億円以上を積み増してもらっている。

 経費節減には涙ぐましい努力を続けてきた。常勤の正社員は10人。営業からイベント企画など1人が何役もこなし、どうにか会社を回している。岡本真一専務は「安全運行を考えると、これ以上の人員削減は困難」と表情を曇らせた。

 増収策としてイベント列車の運行を増やしたほか、太平洋で捕れたイセエビを宍喰駅長に任命するなど懸命のPRを続けている。祭りなど地元のイベントにも積極的に参加し、マイレールを訴えているが、窮地を脱する策はまだ見えない。

帳簿上は黒字でも自治体の支援に依存

 山口県岩国市の山あいを抜けて走るのが、山口県と岩国市などの出資で設立された錦川鉄道の錦川清流線だ。路線は錦町駅から川西駅を結ぶ32.7キロで、山陽本線のJR岩国駅にも乗り入れている。1987年にJR西日本の岩日線を転換して開業した路線で、2015年度決算では781万円の最終利益を達成した。だが、この黒字にはからくりがある。

 2015年度の乗客数はほぼ前年度並みの19万8,415人。主力である鉄道事業の営業損益は人件費や修繕費などを差し引くと5,357万円の赤字。経常損益も6,846万円の赤字で、開業以来1度も黒字になっていない。

 錦川鉄道は本業の赤字を埋めるため、早くから多角経営を進めてきた。旧錦町で町営バスの委託運行などを始める一方、建設が中止された岩日北線の線路を使い、ゴムタイヤの観光遊覧車「とことこトレイン」を開業した。

 旧錦町と岩国市が合併したあとも、2013年度から岩国市の岩国城などの指定管理者となっている。その結果、2015年度決算の関連事業収益は1億7,143万円に達し、本業の赤字を関連事業の黒字で埋めている。

 磯山英明社長は「沿線人口が減り、住民の利用は減少する見込み。イベントで鉄道ファンを集める一方、多角経営で利益を上げ、経営を続けられるようにするしかない」と苦しい胸の内を打ち明けた。

県が事実上、税金で支援している

 東北新幹線の盛岡以北延伸に伴い、並行在来線としてJR東日本から経営分離され、青森県の三セク鉄道となった青い森鉄道。今は三戸町の目時駅から青森市の青森駅まで121.9キロを走る。こちらも決算上は黒字経営だが、財政上のからくりに過ぎない。

 青い森鉄道は2002年に目時駅から八戸市の八戸駅間で開業し、2010年には青森駅まで路線を延長した。線路などの施設を青森県が保有、三セク会社がその線路を使って運行に当たる上下分離方式を採用している。沿線住民の足となる在来線だけでなく、JR貨物の貨物列車も運行中だ。

 2015年度決算の売上高は対前年度2億1,147万円減の53億6,789万円。経常損益が1,992万円増の3,428万円の黒字となった。帳簿上は毎年利益を出している。

 しかし、本来ならば県への線路使用料として5億4,700万円を支払わなければならない。これでは経営が立ち行かないため、4億2,945万円を減免されている。県が事実上、税金で支援している形だ。

 青森県青い森鉄道対策室は「沿線は人口減少が激しく、減免措置もやむを得ない。会社も産直列車の運行などイベントに力を入れ、経費節減に全力を挙げている」と説明した。

【次ページ】「上下分離方式」の推進と「沿線負担の軽減策」が必要

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