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- 2017/04/24 掲載
日本はiPS細胞、ES細胞など「幹細胞ビジネス」を制することができるのか?
フロスト&サリバン連載 「TechVision:世界を変革するトップ50テクノロジー」
幹細胞、ES細胞、iPS細胞とは
我々の体は細胞からできているが、幹細胞は、細胞が増殖・分化する過程において、同じ能力を持つ細胞に分裂するという自己増殖と循環系、神経系、免疫系などの特定の機能を有する細胞に変化する能力を持つ。
再生医療の分野で期待される幹細胞であるが、人工的につくられる幹細胞の中で代表的なものがES細胞とiPS細胞である。
ES細胞は、1981年にマウスでの実験で成功した幹細胞であるが、受精卵(胚)を用いて作られるため、生命の萌芽を滅失するという倫理的、法的、社会的問題がある。また、移植した場合に他人の細胞であるために拒絶反応が起こることも考えられる。
一方、2006年に一躍その名を知られたiPS細胞は、体の細胞から作られる。胚を使用するES細胞と異なり倫理的問題がなく、また、患者の細胞を使用することで拒絶反応が起こりにくいと考えられている。
「倫理観」で揺れるステークホルダーたち
2016年の幹細胞の治療領域は下図の通りである。現在では、神経および心臓/血管疾患領域への幹細胞の適用が、より大きな注目を集めていることがわかる。臨床試験の結果によると、骨再生、軟骨修復、自己免疫、心血管疾患治療薬が最も成功しているようであり、今後の発展が予想される。幹細胞は、実際の医療へ応用されるための研究が注目されがちであるが、主要なステークホルダーの状況を見ると、幹細胞を取り巻く法規制や倫理観といった課題が数多く存在することがわかる。前述のとおり、iPS細胞の使用に倫理的問題はないが、まだまだ一般的な実用段階に入っていないため、ES細胞に付随する倫理的問題がまだボトルネックになる。各ステークホルダーの状況は以下の通りである。
病院/患者
ES細胞治療の受け入れや採用に対しては、倫理的課題が存在するという漠然とした恐怖が存在する一方で、いくつかの病院(主にアジア)は、特に化粧品の分野で利用を拡大している。
細胞治療企業
細胞治療は研究開発(R&D)中でもあり、遺伝子治療の状況と類似している。 しかし、ES細胞を使用することによる倫理的問題のため、これらの製品を市場に投入することは簡単ではない状況である。
研究機関
多数の研究所が幹細胞研究を行っているが、研究段階から既に倫理的境界を越えてしまう恐れを抱いている機関も存在することは事実である。
ファーマ/バイオテクノロジー(Pharma and Biotech)
これらの組織は、幹細胞の進歩、特に創薬の実現、安全性の検証、薬剤の候補選抜プロセスにおいて恩恵を受けると考えられている。幹細胞の分野のライフサイエンス企業との共同研究を目指している。
CRO/CMO(医薬品開発業務受託機関/医薬品製造受託機関)
CROは現在、幹細胞領域においてあまり活発ではない。しかし、製薬企業が薬剤の発見と治験のための安定的に増殖、培養が可能な細胞株※の自動培養ができるようになれば、大きく活性化すると考えられる。ほとんどの幹細胞を使用した治験がCROに委託され、より多くの幹細胞製品が出現する機会が出てくると考えられる。
※細胞株:生体から単離した細胞や、遺伝子などに何らかの手を加えた細胞が、一定の性質を保ったまま、長期間にわたって安定的に増殖・培養できる状態になったもの。
政府機関省庁
幹細胞が市場に出回るためには、倫理的問題もあり、標準的治療の選択肢として利用されるためには、超えるべき数多くの規制構造の課題が存在する。
幹細胞には、治療費において課題がある。幹細胞治療ビジネスの成功には、治療費の公的医療保険適用(Reimbursement)が不可欠である。しかし、幹細胞治療は高額になる可能性が高く、民間保険会社はその保険適用を行う可能性は小さく、患者においては、それらを購入する余裕がない可能性が高い。
【次ページ】幹細胞の世界市場予測
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