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  • 2018/05/22 掲載

「治らなければ無料」が新基準に?ヘルスケア企業は「医師」から「患者」ファーストへ

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さまざまなビジネスに変革をもたらしているデジタル化の波は、とりわけ、ヘルスケア産業に大きな影響を与えそうだ。既存の医薬品メーカーや医療機器メーカーも、「患者のアウトカムの追求」へとビジネスモデルの転換を迫られているが、そのためにはITの利活用がカギとなる。激動の中にあるヘルスケア業界の現況を、アクセンチュア 製造・流通本部 アジア・パシフィック 医薬品・医療機器産業グループ統括マネジング・ディレクター 永田満氏が説いた。
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アクセンチュア
製造・流通本部 アジア・パシフィック
医薬品・医療機器産業グループ
統括マネジング・ディレクター
永田満氏

デジタル化で明暗、数百億のコストカットか10%超の利益減か

 アクセンチュア 製造・流通本部 アジア・パシフィック 医薬品・医療機器産業グループ統括マネジング・ディレクター 永田満氏は2018年4月中旬、「ヘルスケアIT2018」で基調講演を行い、「アクセンチュアで行った全世界3,000名以上の企業経営層へのアンケート調査によれば、3年後までにデジタル化で破壊的な変化が起こる産業として、最も可能性が高いのはヘルスケア産業という意見が多かった」とのデータを示した。

 その背景には、先進国を中心とした、世界的な高齢化現象がある。高齢化に伴って医療費は増加の一途をたどっており、各国の財政を圧迫しているため医療費削減の強いプレシャーを受けていることが挙げられる。さらに、 他産業から見るとヘルスケア産業自体が多くの非効率を抱えており、これまで分断されていた製薬、医療機器メーカーと病院、患者の間がデジタル技術によりシームレスにつながることによって大きな変革機会があると見ている。

 また、米国では2015~2017年に1000件以上もの医薬品の特許が切れたため、製薬業界では新薬開発が喫緊の課題なのだが、ゲノム解析による創薬、テーラーメード医療、再生医療といった医療の高度化に伴って研究開発費も膨らむ一方だ。医薬品メーカーの負担は重くなっている。

 そこで、IT活用で治療効果を高めて医療費を削減したり、ビッグデータ解析による新薬開発を効率化してコストダウンを図ったりするというニーズが高まっているのだ。

 アクセンチュアの試算によれば、医薬品メーカー(年商3500億円規模)では、「オペレーションのデジタル化」によって140億円、「顧客体験(患者や医師への情報提供など)のデジタル化」によって80億円、デジタル化に伴う「新しいビジネスモデル(テーラーメード医療サービスや医薬品と診断の組み合わせサービスなど)の開拓」によって700億円のコストダウン=利益アップが見込めるという。とりわけ、患者向けの医療サービスでは660億円の利益が期待できると見ている。

 だがその一方で、ヘルスケア企業がもしデジタル化をしなければ、「市場でのシェアを奪われ、2022年までに最大で11%の利益が減るなど企業価値が目減りし、競争力を失うリスクがある」と、永田氏は警鐘を鳴らす。

グーグルやアップルが医師代わりになるか

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 ライフサイエンスの領域でも、AIやロボティクスが導入されるなどITの実用化が進んでいるが最近、ヘルスケア産業で注目されているのが、「これまでは製薬、医療機器メーカーからすると捉えることが困難であった個別の患者データを活用した、新しい医療サービスの創出」と、永田氏は説明する。

 たとえば、スタートアップ型事業としては、特定疾病の患者データを収集・分析することで、付加価値の高い医療データを患者や医師にフィードバックするITサービスが登場している。

 また、利用者とインタラクティブに情報交換できる大手ITサービス企業(グーグルやアップルなど)が「ヘルスケア・コンシェルジュ」の機能も備え、「ビッグデータに基づいて利用者の疾病予測・予防を行う」といった新サービスを提供するなど、既存の医療システムを変革している。

 ヘルスケア企業が、そうしたITサービス企業と提携して新サービスに乗り出すことも、あるいはITサービス企業が、M&A(企業合併・買収)などでヘルスケア事業に参入してくることも十分にありうるという。

 そうした中、医薬品メーカーや医療機器メーカーといった既存のヘルスケア企業は、「デジタル化に対応した、新しいビジネスモデルへの転換が求められる」と、永田氏は強調する。

「ボリューム」から「バリュー」へ、ビジネスモデルの転換

 既存の医薬品メーカーにとって、長期にわたる多額の投資によって新薬を開発し、新薬を上市すると医師への情報提供活動などによって拡販し、特許が切れるまでに投資と利益を回収するというのが、これまでの基本のビジネスモデルだった。

 しかし、医療にかかわる豊富なデータやノウハウを生かして、幅広い領域で患者向けの新しい医療サービスを開拓していくことが、医薬品メーカーにとっては強みを発揮でき、特許にかかわりなく事業を継続できるため、これから大きなビジネスチャンスにつながるという。

 欧米の医薬品メーカーの事例からは、たとえば、2型糖尿病患者向けのポータルサイトを構築し、食事療法をデバイスで管理するITサービスを提供するといったビジネスが想定される。そのITサービスでは、患者と医師のコミュニケーション、病院とかかりつけ医の医療連携をサポートしたりするほか、患者から匿名のビッグデータを提供してもらうことで、糖尿病の予防事業にも展開できる。

 永田氏は、「医薬品をたくさん売るといったボリュームを追求することから脱却し、患者にとってのバリュー、すなわち、治療効果やQOLのアップといった患者のアウトカムを追求することが、医薬品メーカーの新しいビジネススタイルになる」と予想する。

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医薬品の価値が、「ボリューム」から“成果報酬型”の「バリュー」へと移りつつある
(© cassis – Fotolia)



 大量の医薬品を投与しても、患者のアウトカム(成果)が得られなければ、意味がないからだ。既存の医薬品メーカーが生き残るには、「患者のアウトカムにフォーカスし、ビジネスを投薬だけではなく、トータルのライフケアサービスに拡大していくことが重要。それに対応するには、蓄積した膨大な患者データを速やかに活用し、新しいサービスを生み出せるような社内の仕組みづくりも欠かせない」と、永田氏は指摘する。

【次ページ】「治らなければ無料」米で急拡大

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