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  • 2017/10/04 掲載

PTCヒーターか?ヒートポンプか? 電気自動車で「暖房競争」が起きるワケ

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これから冬に向かうと、クルマには暖房が必要になる。ガソリン車やディーゼル車はエンジンの廃熱を利用するシンプルなヒーターがついているが、今後、急速に普及が進むと見込まれる電気自動車(EV)にはエンジン自体が存在しない。現状、EVの暖房機構は「PTCヒーター」「ヒートポンプエアコン」「燃料式ヒーター」の3方式が並立し、それぞれ一長一短があり将来、どれが主流を占めるか、まだわからない。それでもボッシュやデンソーなどは、成長するEVマーケットで主導権を握ろうと、それぞれの方式で文字通り、ホットな技術開発競争を繰りひろげている。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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電気自動車の暖房をめぐってホットな技術開発競争が起きている
(© Monika Wisniewska – Fotolia)

世界の電気自動車(EV)台数は2035年までに13.4倍に

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 今年2017年は、電気自動車(EV)がにわかに脚光を浴びた年として記憶されるだろう。きっかけはフランスのマクロン新政権が7月に「2040年までに国内でのガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」という方針を明らかにしたこと。

 英国政府も同調し、世界最大の自動車マーケットで都市部の大気汚染に悩む中国政府は9月28日、2019年以降、生産・販売台数の一定の割合を 電気自動車などエコカーに割り当てるようにメーカー各社に義務づける新制度を公表。世界の主要自動車メーカーも次々と「EVシフト」の姿勢を示している。

 早ければ21世紀前半にも内燃機関だけの自動車が急速に数を減らし、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車/ピュアEV)、FCV(水素自動車)のような環境対応車全盛の時代がやってきそうだ。

 その中でも最大勢力になりそうなのが、エネルギー源がバッテリーだけで最もシンプルな電気自動車(EV)である。

 富士経済のレポート「2017年版HEV、EV関連市場徹底分析調査」によると、18年後の2035年、全世界の自動車販売台数はHVが458万台、PHVが540万台、EVが最多の630万台と予測されている。2016年の販売台数と比べると、HVは2.5倍、PHVは18.0倍、EVは13.4倍。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの自動車から環境対応車へ、急速にシフトする見通しだ。

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2035年の環境対応車世界販売台数の予測(単位:万台)
(出典:富士経済「2017年版HEV、EV関連市場徹底分析調査」)


 当初は充電インフラがまだ十分に整備されないので、電気モーターと内燃機関を併用するHV、PHVの普及が先行。電気モーターのみのEVはそれに遅れをとるものの、次第にHV、PHVからEVへのシフトも進み、21世紀の半ばになれば自動車市場の主役はピュアEV(電気自動車)になると見込まれる。

 なおFCV(水素自動車)は、車両本体も燃料の水素の供給インフラもコストがかさみ、もし本格的に普及するとしても21世紀後半になり、しかも、構造がシンプルで価格が安くなるEVを数で上回るような可能性は低いとみられている。

 別の予測でも近い将来の「EVシフト」は鮮明だ。アメリカのブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)の予測によると、英仏の目標年「2040年」を待たずして販売台数で電気自動車が化石燃料車を逆転。2040年の電気自動車の台数は5億3000万台で、世界の自動車台数の3分の1を占めるという。

 そんなEVシフトの原動力は技術開発の成果で、バッテリー(リチウムイオン電池)のコスト低下で、車両販売価格は今後8年間にガソリン車並みに安くなると予測されている。「パリ協定」の地球温暖化対策、CO2排出規制の一環として各国政府がとる優遇政策も追い風だ。BNEFは、EV普及の障害は車両価格の高さではなく、充電インフラの整備の遅れではないかと指摘している。

 大まかに言えば、21世紀はハイブリッド車の時代(前半)から電気自動車の時代(半ば以降)に移り変わっていくと予想される。今世紀の「世紀末」を迎えたら、内燃機関(エンジン)のクルマはSLのような「交通遺産」として博物館で展示され、時々、イベントで走るだけの乗り物になっていることだろう。

エンジンのないEVの暖房には3つの方法

 そのようにこれから「EVシフト」が進むと、クルマの居住性を左右する一つのシステムが、大きな変化を遂げることになる。それは、秋が深まって冬が近づき、吐く息が白くなる時期に恋しくなってくる「暖房」だ。

 ガソリン車やディーゼル車の乗用車は、エアコンのないクルマはあっても、暖房用のヒーターがついていないクルマはまずない。日本でもかつては、空調のエアコンはオプション装備でもヒーターは標準装備だった。なぜなら、ヒーターはエンジンの廃熱を利用して水を温めるというシンプルかつコストが安いしくみで車内を暖房できるからである。電力もほとんど消費しない。

 夏にカーエアコンの冷房を強くきかせると燃費が悪くなりバッテリーあがりも心配になるが、冬にヒーター暖房を強くきかせても、燃費やバッテリーの心配はいらない。よほどの寒冷地以外ではクルマの暖房はヒーターだけで十分なので、カーエアコンのほとんどは冷房専用で、暖房機能はついていない(バスなど大型車の冷暖房はまた別)。

 ところが、電気自動車(ピュアEV)には電気モーターはあっても、内燃機関のエンジンがない。そのためエンジンの廃熱を従来型のヒーター暖房に利用することができない。

 では、EVの暖房はどうするのか? それには大きく分けて次の3つの方法がある。

  1. PTCヒーター
  2. ヒートポンプエアコン
  3. 燃焼式ヒーター

 簡単に説明すると、「PTC(Positive Temperature Coefficient/正温度係数)ヒーター」はバッテリーの電気を電気抵抗(ヒーター)に通して熱を発生させる。それで空気を直接加熱する方法と、水を加熱して温水で間接的に空気を暖める方法の2通りがあり、空気加熱は電熱器や電気ストーブ、温水(水加熱)は電気式温水暖房機に構造が近い。名前の由来の半導体、PTC素子には温度が一定以上に上がると電気が流れにくくなる性質があり、それが温度と電力消費をコントロールする。

 「ヒートポンプエアコン」は、熱交換器で外気の熱を「冷媒」で回収し、バッテリーの電気で駆動させる空気ポンプで冷媒を加圧、圧縮。熱を発生させて温風で車内を暖める。一方、車内から回収した空気は減圧し、冷やして車外に出す。加圧と減圧を逆にすれば冷房もでき、構造は冷暖房兼用の家庭用エアコンと同じ原理である。車内外で熱を移動させることで温度をコントロールする。

 「燃焼式ヒーター」は、車内で灯油、軽油、ガソリンなど化石燃料を燃やして熱源にする。空気加熱と水加熱の2つの方法があり、構造的に、空気加熱は家庭用のFFファンヒーター、水加熱は石油やガスを燃料にする温水暖房機に近い。燃焼を制御することで温度をコントロールする。

電気自動車の暖房方式の比較表
タイプPTCヒーターヒートポンプ
エアコン
燃焼式ヒーター
熱媒体空気加熱温水(水加熱)空気または水
エネルギー源バッテリーバッテリーバッテリー、空気熱化石燃料(灯油、軽油、、ガソリンなど)
似た機器電熱器、電気ストーブ温水暖房機家庭用エアコンの暖房機能FFファンヒーター(空気)、温水暖房機(水)
搭載スペース熱媒体が空気は△
熱媒体が水は×
CO2の発生×
安全性
速暖性
航続距離への影響××
極低温性能
車種例スバル(PHV)三菱アイミーヴや日産リーフの初期三菱アイミーヴや日産リーフの最近の車種ボルボ、トラック・バス、キャンピングカー
問題点安全性。航続距離を縮める。エネルギー効率が悪い。航続距離を縮める。エネルギー効率が悪い。家庭用エアコンと同様に、寒冷地ではパワー不足で暖房性能が見劣りする。燃料補給の手間。化石燃料を燃やすのでCO2を排出する。タンクが必要でサイズ、重量が大きい。
(出典:秋田県立大学の研究レポートなどをもとに筆者作成)

【次ページ】デンソーやボッシュ採用で、一気に優勢になりつつあるのは?

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