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- 2018/12/18 掲載
LINEが銀行業参入、最終的に狙うのは「AI融資」?
加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。
キーワードは社会のキャッシュレス化
LINEは2018年11月27日、みずほフィナンシャルグループとの共同出資で、銀行「LINE Bank」を新たに設立すると発表した。新会社はLINE側が51%、みずほ銀行側が49%の出資比率になっており、2020年の開業を目指しているという。同社はLINE Payという決済サービスをすでにスタートさせており、金融分野に事業領域を拡大する方針を打ち出している。銀行はあらゆる金融サービスの中核となる存在なので、今回、銀行業への参入を表明したことについて驚きの声はない。
現在、銀行を中心とした金融ビジネスは、何十年に一度という変革期を迎えている。7800万人の利用者を抱えるLINEの参入は、業界が動き出す大きなきっかけの1つとなるだろう。
現金が中心の時代においては、貯蓄や決済の中心に位置しているのは常に銀行だった。会社員の場合、給与は基本的に銀行に振り込まれるので、必要に応じて、街中のATMから現金を引き出して日々の買い物などに利用していた。クレジットカードもそれなりに普及していたが、ネット通販や高額決済に利用するというケースが多く、欧米のように日常的な買い物にカードを使うというところまではいっていない。
しかもクレジットカードというのは、その名前からも分かるように、利用者に信用を供与するビジネスである。買い物をした後、銀行口座からお金が引き落とされるまでは、カード会社が実質的に利用者にお金を貸し付けている状態であり、基本的にお金は銀行口座にある。
利用者にとってみれば、振り込まれた給料と引き出された支出の差分は貯金となり、これが銀行口座に長期にわたって滞留することになる。銀行にとってみれば預金は資金調達の手段であり、そうであればこそ、定期預金という商品も存在する意味があった。
電子マネーが事実上の銀行に
だが社会のキャッシュレス化が進むと、この図式が大きく変わってくる。現金決済が減り、電子的な決済が増えた場合、すべてがクレジットカードに移行するわけではない。先ほど説明したように、クレジットカードというのは利用者の信用がベースになっているので、すべての人がカードを保有するのは現実的に不可能だからである。 実際、キャッシュレス化が日本より進む欧米では、カードを持てない人が日常的な買い物から締め出されるという事態が発生した。この部分を埋める役割を果たすのが、チャージ型もしくは即時決済型の電子マネーということになる。LINE Payはあらかじめお金をチャージして使うタイプの電子マネーだが、利用範囲が広がるにしたがって、常に一定金額をLINE Payの中にチャージしておく人が増えてきた。これは事実上の銀行預金であり、これまで銀行が独占的に行ってきた利用者のお金の管理について、新しい事業者が担うことを意味している。
若年層を中心に、電子マネーの口座を銀行預金代わりに使う人が増えており、一連の流れを受けて、厚生労働省はデジタルマネーでの給与支払いを解禁する方針を固めている。
現在、給与の支払いは労働基準法で規制されており、通貨で支払うことが義務付けられている。したがって給与を支払うためには、直接、現金を手渡しするか、銀行に振り込むしか方法がなかった(つい最近まで給料袋というものが存在していたことにはこうした理由がある)。
法改正が実現すれば、企業は直接、電子マネーで給料を支払うことが可能となるので、電子マネーの銀行化がさらに進むのは間違いないだろう。
【次ページ】月末にお金が足りなくなっても自動的に融資される?
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