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  • 2019/03/29 掲載

みずほ“6800億円の損失”が意味すること 追い打ちをかけるフィンテック

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みずほフィナンシャルグループが6800億円の損失計上を発表した。構造改革を目的とした前向きな処理であることを強調しているが、必ずしもそうとは限らない。システム費用の損失計上は、期待収益が下がったことを意味しており、今後の事業環境がより厳しくなったことを意味している。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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みずほ銀行はメガバンク他2行と比べても経費負担が重く、稼ぐ力も弱い
(写真:アフロ)

みずほ銀行では旧3行の派閥争いが激しかった

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 みずほフィナンシャルグループは2019年3月6日、2019年3月期決算の当期利益について、800億円に下方修正すると発表した。当初の予想は5700億円の黒字だったので、約9割減ということになる。固定資産の減損や有価証券の損失などで合計6800億円の損失が生じており、資産売却などで何とか黒字を確保した状況だ。

 同社は「次期経営計画を見据えた前向きな処理」と説明しているが、額面通りに受け取ることはできない。今回の損失計上で身軽になったのは事実だが、問題はその中身である。6800億円の損失の内訳は、証券ポートフォリオの見直しが1800億円、システム関連が4600億円、店舗の固定資産損失が400億円となっている。ここで注目すべきは店舗の固定資産とシステム関連資産の減損である。

 同社の中核子会社であるみずほ銀行は、2000年に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が合併して誕生した。三菱UFJフィナンシャル・グループも三井住友フィナンシャルグループも合併によった出来上がった会社だが、みずほの場合には旧3行の縄張り意識が特に強く、他の2行と比較して店舗の統廃合がスムーズには進まなかったという事情がある。他の2行も派閥争いがあったが、旧行の力関係がはっきりしていたこともあり、それほど大きな弊害にはならなかった。

 このため三菱UFJと三井住友は、みずほと比較すると店舗の合理化や統廃合が進んでいる。すでに多くの人が気づいていると思うが、両行においては、かつて銀行の象徴でもあった巨大な看板が次々と撤去されており、店舗はかなり地味な存在になっている。ビジネスのネット化が進んだことで不特定多数の顧客を店舗に集める必要性が薄れたというのが主な理由である。みずほの場合、こうした店舗の合理化はこれからという段階であり、今回の400億円だけですべて終了するのかは現時点では何ともいえない。

システムの統合に16年もかかった

 旧3行の統合で最も足を引っ張ったのがシステム統合である。情報システムは銀行業務の中核を担う存在だが、みずほの場合、仕様の異なる旧3行のシステムを今の今まで併存させてきた。システムの統合作業は3行が完全に統合された2002年から16年にわたって続けられており、その間、2回も大規模なシステム障害を発生させるなど混乱を極めた。

 2012年にようやく新システムの開発をスタートさせ、2018年にようやく完成。2019年7月にはデータ移行など終えて本格稼働する予定となっている。新システムの開発だけでも4500億円が投じられたが、投資に見合うだけの収益を上げられる可能性が低いことから、システム関連の固定資産の減損を計上することになった。

 つまり同行のリストラは周回遅れという状況であり、今回の損失計上でようやく他の2行と同じスタートラインに立ったというのが現実とみて良いだろう。負の遺産を償却したという意味ではたしかに前向きと言えなくもないが、問題となるのはこれからどのような戦略を描くのかという部分である。

 同行は他の2行と比較して経費負担が重いという特長がある。みずほ銀行の業務粗利益に占める経費の比率は人件費が29%、システムや店舗など物件費が42%となっている(2018年3月期)。三菱UFJ銀行は人件費が24%、物件費が39%、三井住友銀行は人件費が23%、物件費が30%なので、みずほ銀行の経費比率は他の2行よりかなり高い。

メガバンク3行の稼ぐ力とコストの比較
みずほ銀行 三菱UFJ銀行 三井住友銀行
業務粗利益 1,178,840 1,673,145 1,427,924
業務純益 296,411 554,364 617,171
総資産 164,124,289 212,246,573 170,923,146
人件費 337,331 403,022 330,142
物件費 489,659 657,928 431,766
(単位:百万円)

【収益力】
総資産業務粗利益率 0.72% 0.79% 0.84%
総資産業務純益率 0.18% 0.26% 0.36%

【コスト】
人件費率(対業務粗利益) 28.6% 24.1% 23.1%
物件費率(対業務粗利益) 41.5% 39.3% 30.2%
(出所:各社決算資料から筆者作成)

 システムに関する経費は開発費だけではない。銀行システムの規模になると、システムの維持や管理に莫大な費用がかかる。16年にわたるシステム移行に関する資産の除却は終えたものの、新システムが低コストで稼働できるのかは来期以降の数字を見なければ分からない。もし今後も、経費面での比率が大きく変わらない場合、まだ2行に追いつけないことになる。

 みずほ銀行の経費負担が重いことは、フィンテックの進展に向けて打ち出された各行のリストラ計画の違いからも見て取れる。

【次ページ】経費負担が重く稼ぐ力も弱い

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