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  • 2019/05/16

内訳まで詳解、なぜPoCから本格導入されたのは「たった4%」だったのか

新連載:現場から見たPoCの理想と現実

事業の現場で起こっていることは、意外とささいな導入障壁の連続です。素晴らしいコンセプトの構想や企画が、ちょっとした事情で進まなくなり、実現にたどり着かずに終わったりします。IoT/ビッグデータ/AIの領域に身を置くシステムインテグレーターとして、筆者ならびに筆者の所属企業が最近関わった75件の経過を見ると、PoC(概念実証)を経て本格導入にたどり着いたものはわずか3件(4%)でした。初回はまず、これら75件を俯瞰(ふかん)するとともに、なぜこうなったのか、現場の導入障壁に向き合いながら考えてきたことを解説していきたいと思います。

執筆:三菱電機インフォメーションシステムズ 小林 敦

執筆:三菱電機インフォメーションシステムズ 小林 敦

三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)産業・サービス事業本部。
三菱電機に入社し、コンピュータシステム製作所、情報通信システム開発センターなどのSEを経て現在、分社化された三菱電機インフォメーションシステムズの営業部長。
国際海底ケーブル網監視システム、携帯電話向け映像ストリーミング配信システム、グローバルWebプラットフォームなど通信・放送・Webメディア分野を担当する中で、オープンソースソフトウェアの導入促進に取り組み、最近はIoT/ビッグデータ/AI領域で新たなビジネス創出に挑む。
OSSコンソーシアムでは副会長(分散コンピューティング部会担当)を務める。

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PoCを経て本格導入されたものはたったの4%だった
(Photo/Getty Images)

PoC実施を経て本格導入につながった割合は?

 筆者の部門で関わった範囲のみではありますが、直近の75件の経過は図の通りです。

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全商談75件の内訳
(出典:筆者作成)

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 机上検討の段階で消滅したものが31件(41%)、長く検討が続いているもの(=残念ながらこのまま消滅する可能性が高いと思われます)が6件(8%)ありました。そして、PoCを実施した後に中断となったものが13件(17%)、PoCを経て本格導入に進んだものはわずかに3件(4%)でした。

 一方で、PoCの段階を踏まずに本格導入となったものも10件(13%)ありました。PoCの多くは、お客さまからデータをCSV形式などでいただいて、当社のデータサイエンティストが分析して結果をフィードバックするサイクルを数回繰り返すという簡易的なものでした。

 個別のお客さまの状況を書くことはできませんが、内訳についても分析してみましょう。

業種別の導入目的から見えてくる課題

 まず業種をみてみると、製造業が54件、製造業以外(通信、金融、流通・サービスなど)が21件でした。これは、我々の事業活動の偏りによるところが大きく、製造業向けの展示会への出展をきっかけにお客さまとのやり取りが始まるケースが多いためです。

 また、製造業54件の目的は、品質向上などモノ作りの現場に関わるもの(QC領域)が20件、ヒトが関わる業務の改善(PSI領域)が21件、アフターサービスが7件、マーケティング・その他が6件で、ここでは、複数の目的にまたがるものは見当たりませんでした。

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製造業におけるIoT / ビッグデータ / AIの適用先(例)

 PSIとは、生産計画(Production)、販売計画(Sales)、在庫管理(Inventory)という製造業の基幹業務のことです。最近はQC領域が減少し、PSI領域が増加しています。QC領域においては、製造現場の改善は従来からやり尽くされており、そこにさらに投資をしても夢のような成果は出てこない場合が多いと皆が気づき始めたのだと思います。

 一方PSI領域においては、いまだに属人的で非効率な机上業務が多く残っており、その精度向上(たとえば需要予測や在庫量の適正化など)や省力化が求められているのだと思います。

 そして、QC領域の20件の内訳は、プロセス系ライン向けが9件、ディスクリート系ライン向けが7件、人間作業系が4件でした。

 プロセス系ラインとは液体や半導体などの処理工程のことです。化学変化を扱うため時間的な制約があり、また上流工程から下流工程まで多量の設備が連携・連動して製品を製造するため、工程にまたがるデータ分析に基づく最適化の余地が大きいのが特徴です。

 一方、ディスクリート系ラインとは組み立て(アセンブリ)工程のことです。いわゆる「自工程完結」の考え方が浸透しており、また工程間である程度の中間在庫を持つことで最終製品の工程や品質を維持することができるため、投資のインセンティブはあまり高くありません。最近はディスクリート系ライン向けが減少し、プロセス系ライン向けが増加しており、そのほうが成果にたどり着きやすいのだと思います。

 さらに、製造業54件をIoTの形態別に分類すると、社内設備のIoT化が31件、製品のIoT化が8件、その他資源のIoT化(保守要員にバイタルセンサを持たせるなど)が15件でした。ここでも、複数の形態にまたがるものは見当たりませんでした。

 社内設備のIoT化は上述のQC領域が多く、製品のIoT化はアフターサービス領域が多く、2つの分類は似た傾向となるはずですが、社内設備は必ずしも工場の製造設備だけではなく、倉庫のゲートに設置したRFID読み取り装置や、製品を運ぶために工場に出入りするトラックなどもあり得ます。そのため厳密には一致しないのです。

 違った観点として、お客さまのご要望はデータ分析に関わるもの(データサイエンティストの要請)が45件、基盤の構築(システムインテグレーション)に関わるものが30件で、従来のIT領域にとどまらないデータ分析に関わる案件が増加しています。

 最近、世間ではデータサイエンティストがもてはやされていますが、多くのデータサイエンティストはユーザー企業側に所属して自社が保有するデータを自社事業のために分析しています。

 一方、我々のところには、自社内にデータサイエンティストを抱えていないお客さまからのお声掛けが増えており、データ分析作業を側面から支援しています。

 データサイエンティストが扱う手法(この場合は映像系ではなく数値解析系)は、従来は古典的統計手法が主体でしたが、最近は深層学習が増えています。深層学習は、ロジックで明確に結果を導ける部分が少なく、網羅的な学習データの用意に手間が掛かるうえに、結果の正当性説明が困難ゆえ「結果が外れても修正が効く」ような業務への試行導入に留まっていました。最近は、これら深層学習の特質を理解した上で、PoCを経て本格導入を目指すケースが出てきています。

 以上が、我々が最近関わった案件75件の状況です。決して母数は多くないですが、一つの参考としてまとめました。

【次ページ】8割がPoCまでで中断、その理由は?

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