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  • 2016/07/22 掲載

ジビエ料理ブームに、地方が「頼らざるをえない」事情

それでもシカ被害は防げない

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狩猟で捕獲した野生鳥獣の肉を調理した「ジビエ料理」が、静かなブームになっている。全国の地方自治体がジビエ料理を特産品にしようと力を入れる背景には、シカやイノシシなど野生動物の増加がある。特にシカの増加は最近著しく、農作物や森林の被害が深刻さを増す一方だ。自治体は食肉として利用することでシカの増加に歯止めをかけたい考えだが、麻布大獣医学部の南正人准教授(動物生態学)は「ジビエブームだけではシカの増加を防げない」とみている。シカの急増を防ぐには何が必要なのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。


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口いっぱいに肉汁が広がるシカ肉のネギ巻き焼き
=徳島県徳島市富田町の炙り処きの香
(写真:筆者撮影)


ジビエは地方にとって「一石二鳥」

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 赤い皿の上にネギを巻いて盛り付けられたシカ肉が出てきた。薄くスライスされた肉はしっかり火を通しているが、肉汁がじんわりと口の中に広がる。臭いはほとんどなく、よく焼いた牛肉に近い味だ。

 徳島県徳島市の繁華街・富田町にある「炙り処きの香」。ハンターが山林で仕留めた新鮮な肉だけを入手し、提供している。店主の松野佑樹さん(31)は「シカは赤身で、さっぱりしている。臭みもなくておいしい」と笑顔を見せた。

 徳島県は県産のシカ肉などを「阿波地美栄(あわじびえ)」と銘打ち、特産品に育てようと考えている。そこで、県のガイドラインに則した加工施設で適切に処理されたシカ肉などを提供する料理店を2012年度から「ジビエ料理店」として認定し、普及と消費拡大に取り組んでいる。

 2016年3月末現在で認定された料理店は計23店。認定店は県西部や南部の山間部に多いが、和食から洋食、徳島ラーメンまでさまざまな料理店が認定され、味を競い合っている。「きの香」もそんな認定店の1つだ。

 これまで駆除されたシカなど野生鳥獣は地元の人が一部を食べていたが、山林に埋めるなど放棄されることも多かった。それを食材として活用し、人口減少や高齢化に苦しむ地域の新商品に育てようとしているわけだ。

 徳島県農林水産政策課は「ジビエ料理が普及し、消費が拡大すれば、地元に金が落ちる。害獣駆除と地域振興の両方で期待が持てる」と力を込める。

ジビエの利用方法はさまざまある

 ジビエとは狩猟で捕らえた野生鳥獣の食肉を意味するフランス語。昔は貴族ら上流階級が狩猟シーズンに食べていたものだが、フランスでは今も秋の狩猟解禁とともにレストランで赤ワインといっしょに楽しむなど食文化として定着している。

 ジビエブームに乗り、消費拡大を図る自治体は徳島県だけではない。福岡県は「ふくおかジビエ研究会」を2013年に設立、肉の解体処理方法の講習会やジビエフェアを開催して普及に努めている。



 ただ、今のところ流通経路は限定されている。中心となるのは狩猟場近くの直売所での地産地消だ。このため、小売店や飲食店に呼びかけ、食肉として流通させようと計画している。福岡県畜産課は「現在、県内の大手スーパーで取り扱われているのはイノシシ肉だけだが、シカ肉も流通すれば新たなビジネスチャンスが生まれる」と期待する。

 長野県小諸市は国の地方創生先行型交付金800万円を得て、シカ肉の商品化に取り組んでいる。研究用として大学へ提供する一方、動物園のえさなどに活用しているものの、捕獲数が活用数を大きく上回り、狩猟経費が財政上で問題になってきたからだ。

 ジビエといえば人が食べるものと考えられがちだが、小諸市はシカ肉のペットフード化を目指している。最近のペットブームに乗り、近隣の自治体などと連携して新しい特産品にしたい考え。小諸市農林課は「商品化が実現すれば、地元に新たな雇用も期待できる」と意気込んでいる。

 三重県は2014年度に県産の野生鳥獣肉を「みえジビエ」として商標登録を果たした。大手スーパーでシカ肉が販売されるなど、県内を中心に普及が進んでいることを特許庁から評価されたことになる。

 日本人の味覚に合った健康的な食肉としてシカ肉を売り出しており、フランス料理だけでなく、カレーの具や中華料理の食材とする料理店が増えている。中部国際空港発のJAL国際線機内食にも提供が始まっている。

 三重県フードイノベーション課は「シカ肉は大昔から日本人が食べてきた食材。そのおいしさをより多くの人に知ってほしい。将来は本場フランスなど欧州に売り込むことも考えている」と意欲を示す。

【次ページ】ブームの背景に潜む地方特有の課題

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