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  • 2017/02/01 掲載

自治体の「命名権ビジネス」、税収確保と住民合意のどちらを優先すべきか

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公共施設に企業や商品の名前を付ける「命名権ビジネス」が、日本に定着して10年余り。売却対象が大規模施設だけでなく、歩道橋や休憩所、公衆トイレなど小規模施設に拡大する一方、千葉市では企業から契約を途中で打ち切られる例が出たほか、京都市では住民の反対運動が起きている。鳴門教育大大学院学校教育研究科の畠山輝雄准教授(人文地理学)は「地方自治体にとって命名権売却は資金調達に有効だが、住民との合意形成もないまま進められているケースが目立つ」と指摘する。自治体の「命名権ビジネス」は曲がり角を迎えている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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2016年11月にスタートトゥデイが
命名権を取得した「ZOZOマリンスタジアム」
(写真:スタートトゥデイ提供)


徳島では動物園の休憩所、岡山は公衆トイレに命名権

 徳島県徳島市の山林を切り開いて1998年にオープンしたとくしま動物園。15ヘクタールの広い園内にテント張りの休憩所が設けられている。施設面積は224平方メートル。歩き疲れた入園客のため、木製の椅子が置かれ、ざっと100人以上が休憩できる。

 屋根に取り付けられた横断幕には「てつたろう休憩所」の文字。3年間、100万円以上の条件で売りに出され、地元で重量鉄骨の住宅を手がける建設会社が購入した。飼育動物による干支の引継ぎ式や紙芝居公演などイベント会場にも利用されている。

 命名権売却は2009年から始め、地元のふとん店が最初の6年間購入し、そのあとをこの建設会社が引き継いだ。とくしま動物園は「額は小さくても民間資金で施設運営ができる。非常にありがたい」と目を細めている。

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命名権が地元の建設会社に売却された徳島県徳島市のとくしま動物園休憩所
(写真:筆者撮影)


 岡山県岡山市は公園にある公衆トイレ2カ所の命名権を市内の企業に売却する方針を固め、優先交渉権者を決めた。契約料はともに年10万円ほどで、期間は4月から1~3年。施設に愛称名を書いたプレートを設置でき、周辺の巡回や消耗品の補充を受け持ってもらう。

 トイレの命名権売却は東京都や京都市など三大都市圏であるが、地方都市では珍しい。岡山市庭園都市推進課は「トイレで公園や街の良し悪しが変わることもある。市民や観光客に気持ちよく使ってほしい」と語った。

全国の主な命名権導入施設
命名権による愛称、呼称正式名称所在地命名権を取得した企業、団体
真駒内セキスイハイムアイスアリーナ北海道立真駒内公園屋内競技場札幌市南区北海道セキスイハイム
浦和駒場スタジアムさいたま市駒場運動公園競技場さいたま市浦和区浦和レッドダイヤモンズ
味の素スタジアム東京スタジアム東京都調布市味の素
日産スタジアム横浜国際総合競技場横浜市港北区日産自動車
島津アリーナ京都京都府立体育館京都市北区島津製作所
ほっともっとフィールド神戸神戸総合運動公園野球場神戸市須磨区プレナス
ホクト文化ホール長野県民文化会館長野県長野市ホクト
ひめぎんホール愛媛県民文化会館愛媛県松山市愛媛銀行
滋賀日産リーフの森金勝山滋賀県民の森滋賀県栗東市滋賀日産自動車
バンドー神戸青少年科学館神戸市立青少年科学館神戸市中央区バンドー化学
出典:各自治体ホームページから筆者作成

大阪府のトンネル、橋は買い手がゼロ

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 休憩所やトイレまで命名権売却の対象になると、まるで何でもかんでもという印象を受けるが、大勢に注目される大規模施設と違い、小規模施設はなかなか命名権を買ってもらえない。中にはほとんど買い手がつかない例もある。

 大阪府は2010年、全国で初めて歩道橋の命名権売却を始めた。売却対象は160カ所以上。年30万円以上で売り出したものの、買い手がついているのはわずか13カ所だけ。一度契約したが、期限が来て更新されなかったものもある。

 2016年からは橋やトンネル160カ所近くの売り出しも始めた。府の工事受注業者らに声をかけているが、こちらの買い手はまだゼロ。企業の多くは宣伝効果に疑問を感じているのだろう。大阪府道路管理課は「一気に売れるようなものでもない」と渋い口調だ。

 大阪市は2016年末、港湾局が保有する岸壁、待合所、防潮堤、歩道橋など港湾施設の命名権売却を始めた。命名期間は原則3年。140ほどの施設の中から好きなものを選び、応募できる仕組みで、対価は金銭でなく、備品の提供や清掃など役務でも構わない。

 募集が始まったばかりではあるものの、成約は1件もない。大阪市港湾局総務課は「事前の相談はあった。気長に待ちたい」という。

【次ページ】全国135の自治体が命名権ビジネスに参入

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