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- 2017/11/21 掲載
デジタル・ツイン実装のポイントは「野心的になりすぎない」--ガートナーが指南
デジタル・ツインに必要な4つの要素
デジタル・ツインとは、現実世界の物理的な「モノ」と対をなす“双子”を、システム上にデジタルで表現したものだ。ジョーンズ氏は、「デジタル・ツインは、企業のIoT戦略の中で、将来的に重要な位置を占める」と述べ、デジタル・ツインが企業のIoT戦略にどのような価値をもたらすのか、その実装の手順について話した。ガートナーの調査では、IoTシステムを提供している、または今後提供しようと考えている企業のうち48%が、この先1年でデジタル・ツインを採用すると回答している。
「デジタル・ツインには、4つの主要な要素と、3つのオプショナルな要素がある」とジョーンズ氏は説明する。
主要な要素とは、「モデル」「データ」「一意性」「監視」の4つだ。「モデル」については、単純な情報モデルから複雑な物理モデル、有限要素法(FEM)モデルまでカバーしているケースもある。「データ」は、モノの状態、コンテキストなどのデータのこと。そして、一つのモノに対して少なくとも一つ以上のデジタル・ツインが存在する「一意性」を持ち、「監視」は状態をモニタリングしたり、通知を取得したりすることだ。
これに加えて、3つのオプション要素とは、「アナリティクス」「コントロール」「シミュレーション」だ。
デジタル・ツインは「アナリティクス」の機能を持っている場合が多く、アルゴリズムや予測へとつながるものだ。また、デジタル・ツインに対して、モノを「コントロール」するよう指示を出すことができる。そして、デジタル・ツインの中では複雑な「シミュレーション」を扱うことが可能だ。たとえば、風力発電の風車の例では、デジタル空間上で「もし風速が100km/hを超えたら、タービンはどうなるか」を試行することが可能だ。
ジョーンズ氏は、「デジタル・ツインをつくる目的は、売上を増加させたり、コストを節減したりといった、よりよい“ビジネスの成果”を出すことにある。その意味で、デジタル・ツイン導入の意思決定は、事業戦略の一環である」と話し、将来的にはプラットフォームビジネスにおいて、重要な要素になると指摘した。
デジタル・ツインのゴールはよりよい意思決定の支援
どのようなサービスを提供するか、概念としての「ビジネス・コンセプト」、それを実装に落とし込む「ビジネスモデル」、そしてKPI、ROIなどの数値的な「エコノミック・アーキテクチャ」がその3つだ。「IoTやデジタル・ツインで何ができるのかを考えるときに、この3つの次元で切り分けるとクリアになる」とジョーンズ氏はアドバイスした。
実際のデジタル・ツイン活用の事例として、エミレーツ航空と、同社の飛行機のジェットエンジンを製造するGEの事例が紹介された。
エミレーツ航空では、計画外のメンテナンスが非常に多いことが課題だった。計画外のメンテナンスが発生すると、サービス全体を停止しなければならず、それがたび重なって毎年億単位の費用がかかっていた。
起きていたのは、ジェットエンジンのブレードや、それを覆うシュラウドの部分が酸化して腐食し、破砕してしまうという問題。特に暑くて砂の多い地域では酸化の進行が早まるが、エミレーツ航空の飛行機が行くのは、まさに「暑くて砂の多い」地域である。
この問題を解決するために、ジェットエンジンのデジタル・ツインをつくった。ブレード、シュラウドの素材特性や、各機体が何時間飛行したか、エンジンの運用状況や、飛行ルート、温度などの環境に関するデータをデジタル・ツインに取り込んだ。そのデータを機械学習にかけて、タービンのブレードやシュラウドに、いつメンテナンスが必要になるかを予測したのだという。
「これを運用したことによって、計画外のエンジンメンテナンスは、2016年02017年の1年で56%減らすことができた」と、ジョーンズ氏はその効果の大きさを示した。
そして「すべてのデジタル・ツインが現実に忠実な物理モデルでなくてよい。デジタル・ツインは資産を視覚化するが、ベースに置くべきなのはあくまでビジネス目標。デジタル・ツインを考えるときには、シンプルなモデルから考え始めて、テクノロジーに馴染んだところで、もっと高度で洗練されたモデルへと移行していくのがよいだろう」とジョーンズ氏は付け加えた。
【次ページ】デジタル・ツインが貢献する2つのエコシステム
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