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  • 2018/03/28

まだ”腫れ物”なのか? 精神障がい者「雇用義務化」の法改正で、現場は変わるか

HR(ヒューマンリソース)関連のトピックスが大きな注目を浴びている。しかし、障がい者雇用に関しては、法に基づいて「やらなくてはならない」と考えている企業が多い。2018年4月には障害者雇用促進法が改正され、法定雇用率の算定基礎に精神障がい者の数が算入されるようになる。この結果、法定雇用率も引き上げられる予定だ。これにより、どのようなことが現場に起きうるのか。障がい者雇用に特化した人材事業を2003年より展開しているゼネラルパートナーズを訪ね、法改正のポイントや現状の課題、マネジメントの心得、今後の展望などを聞いた。

Miho Iizuka

Miho Iizuka

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インタビューに応じていただいた、ゼネラルパートナーズの塩島 隆永氏(臨床心理士:写真左)と藤井 亮輔氏(写真右)。塩島氏は障がい者雇用で働く人の就労後サポートを担当。藤井氏は求職者と企業のマッチングを担当している

なぜ法定雇用率は引き上げられたのか

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 個人や集団間で異なる考え方や生き方をお互いに尊重し合うことで、円滑なコミュニケーションや生産性を求めていこうという、ダイバーシティ・マネジメントが注目されている。それに伴い「障がい」「LGBT」「ワーキングマザー」など、さまざまなトピックスが登場している。

 また、長時間労働による過労死などをきっかけに、従業員の心身の健康を最大の経営資源と捉える“ウェルネス経営”への注目も集まる中、「うつ」「発達障がい」「ADHD(注意欠陥・多動性障がい)」「統合失調症」など、“精神障がい”を持つ人の就労環境にも変化があるようだ。

 人事総務に携わる人であれば、障がい者雇用や精神障がいに関するトピックスは、業務課題として情報収集しているだろう。しかし、一般社員にとってはなかなか認知や理解が進んでいない。所属部署に該当社員の配属が決まってから右往左往する、配属後のミスマッチで業務に支障をきたす、ということも発生しかねない。

 そもそも「障害者雇用促進法」とは、一般事業主(民間企業)などに対し、従業員に占めるある一定の割合を「障がい者」から雇用しなければならないことを定めた法律である。この“法定雇用率”が達成されていない場合、事業主は国に対して障害者雇用納付金を納めなくてはならない。逆に法定雇用率が達成されている場合、その雇用数に応じて国から障害者雇用調整金等が支給される。

 厚生労働省の発表資料によると、民間企業における2018年3月時点での法定雇用率は2.0%、2017年の実雇用率は1.97%、法定雇用率達成企業の割合は 50.0%(対前年比1.2ポイント上昇)となっている。

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障がい者採用の「法定雇用率」ってどんなもの?
(出典:ゼネラルパートナーズ)

 厚生労働省の開催する労働政策審議会によって、少なくとも5年に1度は見直しが図られてきたこの法定雇用率が、2018年4月1日より現行の2.0%から2.2%へ。さらに3年以内には2.3 %に引き上げられる。また、障がい者の中でも「身体障がい者」「知的障がい者」に加え、「精神障がい者」の雇用が義務化されることが今回の法改正のポイントだ。

 2017年12月に厚生労働省が公開した資料によると、同年において民間企業で「障がい者」として就労している人口は49万5,795人(対前年比4.5%増)。特に精神障がい者の伸び率が高い。また、2017年6月に同じく厚生労働省が公開した資料によれば、ハローワークを通じた障がい者の就職件数は8年連続で増加。内訳を見ると、精神障がい者の就職件数が半数近くを占めており、増加傾向にあることが分かる。

 また、人数カウントには“独特のモノサシ”がある。現法制では「週30時間以上働く障がい者」は1人(重度の身体・知的障がい者は2人)、「週20時間以上30時間未満で働く障がい者」は0.5人(重度の身体・知的障がい者は1人)として換算されている。しかし、今回の法改正では精神障がい者に限り、5年間の時限つき特例措置がある。

 具体的には、精神障がい者は週20時間以上30時間未満で働く場合でも、雇用開始から3年以内、もしくは精神障害者保健福祉手帳を取得して3年以内の人は、1人として数えることが可能になる。ここが身体障がい者、知的障がい者と少し異なる。

 見方によっては、障がい者雇用枠の中での“差別”として捉えられることもあるだろう。それほどまで精神障がい者の雇用問題には、今後を見据えた受け皿が必要ということなのかもしれない。

当事者たちのジレンマ

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「本来の意味で個の多様化を推し進めることは、前例のない中をひとつずつ、失敗も含め地道に積み上げていくことが必要不可欠です」と語る塩島氏(写真左)と藤井氏(写真右)

 民間における障がい者雇用の実施は、制度の整った大企業中心に進められ、中小企業がそれを追っているのが現状だ。行政主導の法令遵守に基づき「やらなければならない」という背景もある。実際の現場では、身体障がい者から採用が決まっていく傾向があるという。その理由を藤井氏は以下のように指摘する。

「企業側は基本的に定着して働いてくれる人材を求めます。一方で、これまでの傾向から、精神障がい者は他の障がいよりも定着率が低いと言われているため、企業側も採用に消極的になりやすいようです。また、求職者側も安定した生活を送りたいので、できるだけ制度の整った長期就労が可能な企業を志望します。結果として、身体障がい者や大企業が有利になってしまうのです」(藤井氏)

 目標雇用率に達すれば企業側も積極的な採用活動は行わなくなるので、結果的に中小企業が精神障がい者雇用の受け皿になってきた側面はある。しかし受け入れ体制と、精神障がい者が志望する働きやすい環境とのズレが生じていることは否めない。

 その現状を両氏は以下のように説明する。

「個人差はありますが、精神障がい者はベストなパフォーマンスを出せる時とそうでない時の振れ幅があります。また、ある環境下ではコントロールできても、ある環境下では難しくなる。そのため、環境変化が激しかったり大量の仕事を1人で請け負ったりするのは難しい人が多い。そうなると裁量の広い仕事を任される中小企業よりも、大企業的な働き方のほうがあっているのです」(塩島氏)

「人事を専門にやられている人は、精神障がい者の雇用についてとても勉強されていて、やらなくてはという使命感もある。ただ、実際に配置する現場のことを思うと、なかなか(従業員の)偏見や(障がい者に対する)イメージが変えられない。また、障がい者雇用について経営層の承認が得られないといった壁はあると思います」(藤井氏)

 今のビジネス環境は変化が激しく、予測が難しい。こうした時代への適応が、どの企業でも課題となっている。さまざまな業務効率化や生産性向上を試みると同時に、障がい者が安定して働ける雇用の創出も必要──使命感だけでは何とも片付かない受け入れ側の負担に対し、マイナスイメージが強くならざるを得ないのも理解はできる。

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「予想通り」と答える中小企業と、「もっと高くてもよかったのでは」という印象もある大企業の捉え方の差がみてとれる
(出典:ゼネラルパートナーズ)

 現在、精神障がい者の採用に意欲的なのは、人材流動の活発なIT業界・サービス業界だ。職場環境もカジュアルで個性豊かな人が雑多に行き交い、新たな取り組みに門戸を開くという社風もフィットする。慎重なのは金融業界だという。業態としてリスクマネジメントへの意識が高く、信用を考慮するとなかなか踏み込めない実情もあるようだ。製造業界では外資企業を先頭に、社風や体質によって取り組みの速度も多種多様だという。

「法定雇用率の引き上げもあり、精神障がい者の採用に取り組む企業も増えてきています。もともと持っているイメージがマイナス過ぎるのかもしれませんが、実際に求職者に会ってみると意外に活躍できそうだという印象を持つ企業も多い。このバイアスをどう乗り越えられるか。まずは会ってもらうところからでいい。精神障がい者の特性について認知を広めることが現状の課題です」(藤井氏)

 企業への人材紹介を手掛ける同社だが、求職者が“自身の障がいを受け止めきれていない”と判断した場合には、求職者に対して応募の見送りを勧めることもある。自身の障がいをありのまま受け入れたうえで「自立して働きたい」と動き出せる人は、職業人としても信頼できる。しかし、無理して「健常者と変わりません」とアピールをする状態では、社会生活への復帰は難しい。現場のプロはその見極めポイントに、いくつもアンテナを張っている。こればかりは教えられて身につくものでなく、経験や学習機会がモノをいう。

 では、あなたの企業や部署に精神障がい者が配属されたとしたら、どんな風に接すればよいのか。実際に、精神障がい者が就労した後のサポートを通じてのエピソードから、ケーススタディをいくつか伺ってみた。

【次ページ】“差別をしない”という意識が過度になりすぎて、逆に周囲から隔離されてしまうという悲劇

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