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従来の美の基準から自由になって、自分の体形を受け入れようという「ボディポジティブ」のムーブメントが広がっている。この動きは、レディー・ガガ氏や渡辺直美氏など有名人からのメッセージを通して広がり、世界的なおもちゃであるバービーや、ユニリーバのダヴブランドにまで影響している。ボディポジティブが生まれた背景、マーケティング上の意義、世界と日本の事例を紹介しながら、ボディポジティブが切り開く社会とビジネスの可能性を解説する。
ボディポジティブとは何か
ここ2~3年、「ボディポジティブ」と呼ばれる「自分のありのままの体形や見た目を受け入れる」ムーブメントが欧米の女性たちを中心にじわじわと盛り上がってきている。
女性を画一的な美の基準にあてはめ、痩せていることを「理想」とするような社会的な圧力が女性たちを苦しめ、その結果、このムーブメントが生まれた。
若い女性たちが、「痩せなければいけない」という強迫観念から摂食障害になってしまうことは、世界的に深刻な社会問題となっているのだ。
「ボディポジティブ」の反対に位置するのが「ボディシェイミング(Body Shaming:体形の侮辱)」だ。ボディシェイミングとは、肉体を理由に人を侮辱することだ。「太っている」あるいは「痩せすぎ」といった理由による侮辱は、ボディシェイミングの典型例だ。
こうした体形批判はこれまで、女性たちに容赦なく向けられてきた。しかし今、批判に対して、セレブたちが反論するケースも増えてきている。
レディー・ガガ、渡辺直美に見るボディポジティブ
2017年のスーパーボウル(アメリカンフットボールのプロリーグ、NFLの年間王座決定戦)のハーフタイムショーで、レディー・ガガ氏がパフォーマンスを披露したときのことだ。パフォーマンスを見た視聴者がSNSなどで「おなかがぽっちゃり」などという批判的なコメントをした。レディー・ガガ氏はインスタグラムに下記のメッセージを投稿して反論した。
「私の体形が話題になっているようね。この機会に言っておくわ。私は自分の身体を誇りに思っているし、あなたにも自分の身体を誇りに思ってほしい。あなたが誰であろうと、何をしている人であろうと、成功するために他人の要求に応える必要なんてこれっぽっちもないわ。あなたらしく、とにかく自分らしくいて。それが成功の秘訣。みんな、私を支えてくれてありがとう。愛してるわ。ガガ」
インスタグラムで780万超えの日本一のフォロワーを誇る、お笑い芸人で女優の渡辺直美氏の活躍も、このボディポジティブの文脈で語ることができるだろう。同氏は今年1月、GAPの新商品「ロゴ・リミックス・コレクション」のモデルに起用された。
渡辺氏が0:25頃に登場するGAPの動画
これに関連し、渡辺氏は
Vogue英国版のインタビューに以下のように答えている。
「私は今回、大きめサイズの女性を代表して選ばれたのだと思います。この動画を見たすべての人が、どんなサイズの人がどんな服を着たっていいんだ、と感じてもらえたらうれしいです」(渡辺氏)
ボディポジティブ、そしてアンチボディシェイミングのムーブメントはヨーロッパにも届いている。フランスでは、痩せすぎモデルの活動を禁じる法律が2017年に施行された。さらに、広告などでモデルの体形に修正を施したレタッチ写真を使用する際には、その旨の記載が義務づけられることになった。ファッションブランドのサンローランは、痩せすぎているモデルの起用に関して、近年度々英国やフランスの広告規制当局から注意喚起を受けている。
バービーの種類が増えた秘密
ボディポジティブの流れの中で、企業のマーケティングにはどのような変化が生じているだろうか。
2016年、「女の子の憧れ」ともいうべきバービー人形に、ダイバーシティ化の転機が訪れた。
バービーで知られるMattel社は「プチ(小柄の)」「トール(背が高い)」「カービー(曲線的、ぽっちゃり)」という3体型のバービーを新たに発表したのだ。「ファッショニスタ(Fashionista)」シリーズでは、4種類の体型、7種類の肌の色、22種類の瞳の色、24種類の髪型など豊富なバリエーションの中から、子どもたちがより親近感をもってバービーを選ぶことができるようになった。
発売から50年以上となるバービー人形は、長い間その非現実的な細さが批判されてきた。さらに、Mattel社は長期にわたる売り上げ低迷からの脱却を迫られていた。そうした中で、現実の幅広い身体のあり方にバービーを合わせるという方向転換を行うに至ったのだ。
【次ページ】ダイバーシティ&インクルージョンとボディポジティブの関係
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