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梅雨が明ければ夏休みが近づき、本格的なアウトドアシーズンが到来する。4400億円規模のアウトドア市場は新しいスタイルの楽しみ方が次々に登場し、かつてとは様変わりしている。このブームに乗って成功した企業を見て「まだ成長余地あり」と、ヨドバシカメラやワークマンなどの異業種や、フランス企業までもが今、続々と日本のアウトドア市場に力を入れている。第2次キャンプブームに沸くアウトドア業界の現状を取り上げる。この群雄割拠を制するのはどの企業か。
アウトドアの市場規模はトータル4400億円
7月1日は海開き、山開きの日。7月15日は「海の日」、8月11日は「山の日」の祝日で、真夏、そして夏休みの日本列島はアウトドアシーズンも“たけなわ”に。5月1日に即位した新天皇・徳仁陛下のご趣味の一つは「登山」ということもあり、令和元年、アウトドアは国民の間でよりいっそう注目されそうだ。
アウトドア関連ビジネスもまた、昨今のブームで上昇気流に乗り、異業種も続々参入して商戦はいささか過熱気味になっている。
「アウトドアレジャー」と言っても、近所のウオーキングから、お金がかかるスカイダイビングまで多種多様。2018年8月に矢野経済研究所が発表した「アウトドアビジネス2018」は、マリンレジャー、ウインタースポーツを除くアウトドア市場の製品群を、次の4カテゴリー(スタイル分野)に分けている。
- 登山:本格的な登山
- ライトアウトドア:キャンプ、ハイキング、釣り(淡水)、野外フェスなど
- アウトドアスポーツ:トレイルランニング、スポーツクライミングなど競技スポーツ
- ライフスタイル:アウトドアブランドのカジュアルウェアなど
たとえば、ザイルやピッケルは「登山」、ダッチオーブンやクーラーボックスは「ライトアウトドア」、競技用のBMXやマウンテンバイクは「アウトドアスポーツ」、街で着る「ザ・ノース・フェイス」のダウンジャケットは「ライフスタイル」に属する。
矢野経済研究所の調査によると、2017年の国内のアウトドア市場の規模は4398.3億円で、前年の4261.5億円から3.2%伸びていた。4つのスタイル分野中最大で56.8%を占めるのがキャンプ用品が大半の「ライトアウトドア」で、それに次ぐのが18.8%の「ライフスタイル」。「登山」は15.2%、「アウトドアスポーツ」は9.3%だった。
アウトドア市場全体が拡大したため、4つの分野とも販売金額の実数ベースでは前年比プラスになっている。アウトドア関連ビジネスは、トータルでは成長が続いている。
人口激減の登山、安定成長のオートキャンプ
アウトドアレジャーとひと口に言っても、硬派なイメージのものもあれば、もっとカジュアルなイメージのものもある。前者の代表として「登山」を、後者の代表として「オートキャンプ」をとりあげ、2008年以降の参加人口の推移をたどってみよう。
この2つの人口推移、あなたはどんなイメージを持っているだろうか。たとえば、「登山愛好者は大学の山岳部やワンダーフォーゲル部の出身者が中心で、その数は増えも減りもせず安定している」「オートキャンプはバブルの時代に相当流行したが、その後は長期低落傾向」などの意見があるかもしれない。
しかし現状はまったく正反対だ。登山はピークの2009年の1230万人から2016年の650万人へ7年でほぼ半減した(日本生産性本部「レジャー白書」)。
オートキャンプは2012年の720万人から2016年の830万人へ、4年で15.2%成長している(日本オートキャンプ協会推計値)。2017年の参加人口は840万人で、さらに伸びた。直前ピークの1996年の1580万人の53.1%の水準まで回復をみせ、安定成長が続いている。
登山の参加人口の激減については「『山ガール』ブームが去って、彼女たちについていく男子も減った」という声もささやかれるが、それよりも納得できそうな理由が「『団塊の世代』の足腰が弱って山へ行けなくなった」だろう。
10年前の60歳前後ならまだ盛んに山へ行けたが、70歳が近づくとさすがに無理がきかなくなる。もちろん個人差はあるが、参加人口減はボリュームが大きい団塊の世代に依存してきたがゆえの宿命なのかもしれない。
一方、車があれば簡単に参加でき、訓練も経験も不要なオートキャンプはもともと世代による偏りが小さい。その上、ミニバンに乗ってオートキャンプに行ってそこで泊まるというのは、小学生ぐらいの子どもを持つファミリーにとっては春夏連休の「定番」の一つ。一時のブームが去っても参加人口が安定している理由は、そこにある。
オートキャンプに限らず、「ライトアウトドア」に属する分野の参加人口はおおむね安定している。本格的な登山よりもトレッキング。トレッキングよりも軽いハイキングやウォーキング。キャンプをしながら釣りをしたり、料理をつくったり……。
アウトドア関連ビジネスが中心的なターゲットとして想定するのも、そんな「野遊び」的な「ライトアウトドア」の消費市場である。
“ゆとり世代”がアウトドアに目覚めつつある
アウトドアに限った話ではないが、「先入観」「固定観念」は往々にして、現状の正確な把握、理解の妨げになることがある。
「登山」に、トレッキングや軽いハイキング、ウォーキングを加えた「登山・ハイキング」のカテゴリーの行動者(過去1年間に1度でも行った人)の数は、2016年は1073.2万人と1000万人を超え、東京23区の全人口よりも多い。
日本の15歳以上の総人口に占める割合「行動者率」は10.0%で、ちょうど10人に1人(総務省統計局「平成28年社会生活基本調査」)。2011年(平成23年)の前回調査から5年間で約100万人増加し、行動者率で1.0ポイント上昇した。
では、5歳刻みの年齢階級別の行動者率を2016年と2011年で比較してみるとどうか。「愛好者は50~60歳代が多く、若い世代は少ない」と考える人が多いだろう。実際、2016年のトップは65~69歳の12.5%で、2011年トップ12.4%の60~64歳の世代が持ち上がっている。これは最大ボリューム層の「団塊の世代」にあたる。
ところが、2016年の調査では団塊の世代から40歳も年下にあたる25~29歳に、過去にはなかったもう一つの「山」(11.4%)が出現した。その5年前の2011年調査時点では20~24歳で行動者率は8.5%だったから、彼らの約4分の1は20代で「アウトドア、登山・ハイキングに初めて触れ、それに目覚めた」ということになる。
この年齢層は文部科学省の脱詰め込み教育の「ゆとり教育」を受けた、いわゆる「ゆとり世代」(1987~2003年生まれ)にあたる。地域別に25~34歳の行動者率を見ると、高いのは大都市圏が含まれる関東(13.8%)と近畿(12.1%)だった。
今後、「団塊ジュニア」よりさらに年下の都会に住むゆとり世代が「登山・ハイキングは高齢者の趣味」という常識、先入観、固定観念を打ち破って「令和時代のアウトドア」を切りひらいていくかもしれない。ゆとり世代が新たな消費の担い手として、アウトドア市場を支える可能性がある。
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