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  • 2019/09/13 掲載

「70歳まで働け」で労働人口確保、人生100年時代の“日本生き残り戦略”

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「老後2000万円不足」騒動がメディアなどで大きくクローズアップされている。「人生100年時代」に備えて、生涯にわたって計画的な長期の資産形成、管理の重要性を認識し、行動することの重要性が改めて浮き彫りとなった。日本政府としても、今後の経済社会システム改革に向けた政策を検討しており日本の労働慣行の転換の必要性を認識している。これからの時代を生き抜くため、企業、個人としてどのようなアクションを取るべきなのか? 政府の施策を基にそのヒントを探る。

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。現在、クラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。総務省 AIネットワーク社会推進会議(影響評価分科会)構成員 一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。

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人生100年時代、社会システムはどのように変わるのか
(Photo/Getty Images)

「人生100年時代」のライフステージとは?

 金融庁の金融審議会が2019年6月3日に公表した、金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、これからの「人生100年代」のライフステージ別の留意点を以下のようにまとめている。

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ライフステージに応じて発生する費用等の例
(出所:金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 2019.6)

 それぞれのライフステージ応じて発生する費用などを考えながら、自分自身、そして家族の資産形成と管理を考えていく必要性を示している。

人生100年時代における経済社会のシステム全体の改革

 少子高齢化がさらに進展する中、自分自身や家族の資産形成を管理するだけでは乗り越えることが困難な時代となっており、政府の政策的な後押しも必要不可欠だ。社会保障制度や雇用制度、労働市場のあり方など、経済社会のシステム全体の改革が待ったなしの状況となっている。

 経済産業省は8月9日、「第25回 産業構造審議会総会」を開催。参考資料として、人生100年時代への対応についての問題提起と経済社会システム改革に向けた政策の方向性を示している。その資料によると、2018年には70歳以上人口が全人口の2割を突破し、生産年齢人口の比率は年々斜面を下るように減少していくことが確実に予想されている。
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日本の将来人口の予測
(出所:経済産業省 第25回 産業構造審議会総会 2019.8)
 現在の高齢者は、過去の高齢者と比べて肉体的にも精神的にも元気な方が増加している。活躍できる機会を生み出せば、人生100年時代の到来は大きなチャンスになるという点を指摘している。

 また、高齢者を「支える側」の年齢は18歳以上65歳未満としているが、「支える側」の年齢を65歳から5歳引き上げ、18歳以上70歳未満とすれば、2030年代半ばまでは7000万人以上の労働力人口は維持可能としている。

 つまり、「支える側」をいかに5歳上げるかが、大きな分岐点となっている。

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(出所:経済産業省 第25回 産業構造審議会総会 2019.8)

 人生100年時代の経済社会システム改革に向けた政策の方向性は、基本的な考え方として以下の2点の方向性を示している。
1. 「個人の健康改善・生きがいの充実」「社会の担い手の増加」「成長産業の育成」を同時に実現する「明るい社会保障改革」を進め、国民1人ひとりが、より健康に、長く活躍できる社会を実現する。

2. 人生100年時代を迎えるに当たって、高齢者の活躍の場を整備することが重要。長く活躍することができる雇用制度に転換するとともに、中途採用・経験者採用や兼業・副業、フリーランスの拡大など現役の時代から多様で柔軟な働き方を進める。
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 健康で長く活躍できるかという健康寿命を延ばすことは、必要不可欠だ。そして、「支える側」を5歳上げるためには、70歳までの就労機会をいかに確保するかという点もポイントとなっている。

 政府は制度改革と併せて、年齢によらない活躍を促すために、職務の明確化とそれに基づく公正な評価や報酬制度の導入拡大を図ることの必要性を示している。

 政府は2019年5月15日に開催した「未来投資会議(第27回)」の中で、「70歳までの就業機会確保」についても議論・検討を行っている。この会議の資料では、65歳から70歳までの就業機会確保について、多様な選択肢を法制度上で許容することの必要性を示している。

 また、企業がどのような選択肢を用意するのかを労使で話し合う仕組みと、個人がどのような選択肢を適用するのかを企業と相談し、選択ができるような仕組みを検討する必要があると記載されている。

 法制度上許容する選択肢のイメージとしては、以下の7点が想定されるという。
(1)定年廃止
(2)70歳までの定年延長
(3)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
(4)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
(5)個人とのフリーランス契約への資金提供
(6)個人の起業支援
(7)個人の社会貢献活動参加への資金提供
 企業は、上記7つの選択肢の中から採用するものを労使で話し合うこととしている。

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(出所:未来投資会議(第27回) 2019.5)
 就労機会を増やすためには「多様で柔軟な働き方の実現」も重要となる。政府は、中途採用比率の情報開示や「中途採用・経験者採用協議会」を通じた雇用慣行の変革を進める計画だ。また、兼業や副業を推進する方向で、労働時間管理に関するルールなどの検討を加速していくという。

 経済産業省の「産業構造審議会 2050経済社会構造部会」が総務省「就業構造基本調査」を基に作成した資料(「資料3 労働市場の構造変化の現状と課題について」)によると、副業を希望する人は近年増加傾向あるものの、実際に副業がある人の数は横ばい傾向となっている。

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副業がある者、希望する者の推移
(出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4)

 また、兼業・副業などの多様な働き方を望む個人が増えてきており、若者のみならず、ミドルシニアも含め、年齢層に関わらず増加傾向となっている。今後は、多様な働き方を求めている人が増えている中、兼業・副業などを推進するための具体的な政策支援が求められている。

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年代別の副業希望者割合
(出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4)

【次ページ】高付加価値競争に勝つための労働慣行の転換へ

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