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- 2016/05/06 掲載
アマゾンはなぜ「利益度外視」「低価格」か? ベゾスの頭にあった「ジョブズの失敗」
ジェフ・ベゾスに学ぶイノベーターの仕事術
1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日
今の利益を未来の事業に投資して未来の利益を追い求める

普通はこうした利益の出ない、利益予想を口にしようともしない企業に投資する人はいないはずだが、ベゾスは現在の損失は将来の大きな売上と利益を得るための戦略であるとしてウォール街を納得させている。当時、こんな言葉を口にしている。
「利益は出ていません。出そうと思えば出せますけどね。利益を出すのは簡単です。同時に愚かなことでもあります。我々は今、利益になったはずのものを事業の未来に再投資しているのです。アマゾン・ドット・コムで今利益を出すというのは、文字通り最悪の経営判断だと言えます」
では当時、利益になるはずのものを何に投資していたかというと、「将来、もっと大きな企業になることを期待して、テクノロジー、マーケティング、ブランド構築」に投資、「アマゾンというブランドから質の高いサービス、低価格、使い勝手の良さ、権威あるセレクションを連想してもらう」ように大量の資金を投じていた。
利益を無視してでも「速く大きくなる」というのが当時のベゾスの考え方であり、それはアメリカのITバブル崩壊に際しても、またその後も決して揺らぐことはなかった。
この時、ベゾスは「とても嬉しい結果を出せました」と素直に喜びを表現しているものの、一方で「まだやらなければならないことが山とあります」「世界で5兆ドルと言われる小売市場のうち、どこまでを押さえられるかです」と決して成長への意欲が衰えることはなかった。バブル崩壊の危機を乗り越えたベゾスは再び「速く大きくなる」を追うようになったばかりか、キンドルの開発やAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)といった新たな事業にまで手を広げるようになった。
こうした新規事業に関して、周囲からは「なぜそんなことをやるの?」という疑問の声が多かったが、ベゾスはこう言って反対をはねのけている。
「ビジネスにおいてよく出る疑問は『なぜそんなことをやるの?』というものです。いい質問です。でも、とするなら『なぜやってはいけないの?』という疑問も、それと同じくらい正当性があるのです」
【次ページ】アマゾンが「低価格」「利益度外視」で提供する理由とは?
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