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  • 2017/05/19 掲載

現代のプロジェクトマネージャーは、孫子の兵法「廟算」に学べ

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この世のあらゆるプロジェクトと呼ばれる活動では、「そんなことが起きるとは思ってもみなかった」ということが繰り返し発生する。しかし不思議なもので、世の中には「勘がいい人」と「そうでない人」という二種類の人間がいて、その人にとってあまり経験がない分野でも、わりとスムーズに物事を進められる人がいる。彼らの思考の違いは一体何かといえば、それは「開戦前の事前想定の精度」に尽きるのである。古代中国においては、戦争を起こす前に祖先の霊廟の前で作戦会議を開き、それを「廟算」と呼んだ。では、現代において、あらゆるプロジェクトマネージャーにとって必要な「廟算」とはいったいどのようなものか。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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プロジェクトをキックオフする時に押さえておくべき、8つの要諦
(© freehandz – Fotolia)


勘、地頭、要領が「いい人」と「わるい人」

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 たとえば、あるWebアプリケーションの新規企画を担当する人がいたとする。もしその人が手慣れた人でなければ、アプリを作ってもらうための制作会社を探すという購買業務を遂行するというだけのことでさえ、途方もない困難さが伴うものだ。

 まず、経験や知見に乏しい人は、どんな強みや実績を持った制作会社がいいのかがわからない。苦労して出してもらった見積りが高いのか安いのか、これまた、いまいちピンとこない。

 なんだかんだあって、ともかく複数の会社に相見積もりをとって、たとえば、最も金額が安かったとか、一番値引きに応じてくれた一社に決めたとして、今度は担当するプロジェクトマネージャが出してくるスケジュールがあまりにタイトで面食らう。

 果ては、コミュニケーションが取りづらい相手で、何をするにもストレスを感じる。「こんなに難しい仕事だとは思ってなかった」と、ひとり呟いたところで、あとの祭りである。

 経験の浅い人は、「とにかくどこかの会社に見積りをとって、発注書にサインをすればいいのだろう」という机上の計画と、実際に起きる現実とのギャップに思いを致すことが難しいのだ。

 しかし不思議なもので、世の中には「勘がいい人とわるい人」という二種類の人間がいて、その人にとってあまり経験がない分野でも、わりとスムーズに物事を進められる人がいる。

 「地頭がいい」とか「要領がいい」と言われたりもするが、結局のところ、それはいったいどのような能力によるものなのかといえば、それは、「未知の仕事をする前に、何に対して、どこからどこまでを考えるか」という思考の幅や奥行きによる。

デキるプロジェクトマネージャーは「事前の検討が広く深い人」

 いまから約2500年前、古代中国においては、戦争を起こす前に祖先の霊廟の前で作戦会議を開き、それを「廟算」と呼んだ。

 当時において戦争とは、祖先から受け継いだ土地を奪うか奪われるかということであり、必勝を期して会議をするには、霊廟の御前というのはまさしく相応しい場所だったのであろう。


 「孫子の兵法」という書物の名前を聞いたことがあるという人は多いはずだ。この書がなぜこれだけの長い時を経ても参照されつづけているのかといえば、この「廟算」こそが、プロジェクトの成否を左右する最重要会議である、と見切ったことにある。

 孫子の兵法が画期的なのは「五事」という、極めてシンプルなフレームワークでこれを提示したことだ。「道、天、地、将、法」この5つの要素をもってして、事前にしっかりと敵国や自国の状況を考えれば、戦う前に、どちらが勝つか見通すことができる、と言ったのであった。

 現代の記事タイトル風に言えば、「ここだけを押さえておけば絶対に戦争に勝てる!5つのポイントまとめ」といったところだろうか。

 実はこれこそまさに、今日のMBA経営学において隆盛を極め、「フレームワーク思考」の雛形なのである。ありとあらゆる情報が入り乱れるプロジェクトにおいて、重要なのはいかに情報を整理整頓するか、これに尽きる。良い整理整頓の方法論を手にしている人と、そうでない人、どちらが仕事がスムーズに進むのかは言うまでもない。

 現代のプロジェクトマネージャーとは、まさしく孫武のような軍師の役割を演じているわけだが、「デキるプロジェクトマネージャー」もまた、この「廟算」に長けている人なのである。

プロジェクトをキックオフする時に押さえておくべき、8つの要諦

 では、現代のプロジェクトにおける「廟算」とは、一般的にいかにあるべきだろうか?

 それは、「自分にとって何が既知でマネジメント可能であり、何がそうでないか」を把握しよう、ということに尽きる。筆者は、次の8つのポイントを押さえておくことをおすすめしたい。

1. 人
一緒に仕事をするメンバーは、これまで一緒にしたことがあるか、初めてか。初めて一緒に仕事をする人とは、ゼロベースからコミュニケーションルールを一緒に構築していく必要がある。これを甘く見ると、何をしてもうまくいかない。

2. 技術
取り組もうとしている技術領域は、自分が慣れ親しんだものかどうか。未知の技術領域のプロジェクトで、「とりあえず◯◯をすればいいのだろう」という手前勝手な見切りをするのは自殺行為である。

3. 予算
予算規模は、自分が経験したことのある範囲かどうか。予算の大きいものと小さいものでは、それぞれ違った困難さがある。どちらにも親しむことで、プロジェクトマネージャの腕は磨かれる。

4. 品質
いまから作ろうとしているものの品質基準は、自分がこれまでやったことのあるレベルのものなのか、それを超えているか。いかに家庭料理が上手だからといって、すぐにレストランのシェフが務まるわけではない。(逆もまたしかりである。)


【次ページ】プロジェクトで意識すべき「納期、環境、競合、外敵」

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