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  • 2017/10/25 掲載

観光消費1兆円の京都市、大混雑でブランド棄損の危機に

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京都市を訪れる外国人観光客の急増で、思わぬ波及効果が各方面に出ている。観光消費額は年間1兆円を突破し、市の目標を4年前倒しして達成した。市営地下鉄も1日当たりの利用者が38万人近くに達し、経営健全化計画で定めた目標に予定より2年早く到達している。その一方で、市中心部の交通渋滞はさらに悪化し、市民生活に支障が出てきた。オフィス不足や違法民泊の増加も頭が痛い。同志社女子大現代社会学部の天野太郎教授(地理学)は「市中心部は容量が限界に達し、観光客を受け入れきれなくなっている」とみている。市が解決すべき課題は少なくない。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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外国人観光客の急増で連日、混雑が続く東山区の二寧坂。中国語や韓国語、英語が頻繁に飛び交う
(写真:筆者撮影)


観光客は3年連続5,500万人を突破、宿泊客は過去最高に

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 石畳の坂道が続く東山区の二寧坂。世界遺産の清水寺に続く参道で、両側に日本家屋の土産物店や飲食店が続く。古い街並みが重要伝統的建造物群保存地区に指定された京情緒たっぷりの場所だ。

 二寧坂は以前から観光客が集中する場所だったが、外国人観光客の増加とともに、混雑がさらにひどくなってきた。中には入店待ちの客が列を作る人気店もあり、周囲に中国語や韓国語、英語が飛び交っている。

 6月にはスターバックスコーヒーが古民家を改修し、畳の上でコーヒーを楽しめる人気カフェをオープンさせた。大勢の外国人観光客を狙ったビジネスの場所としても注目が高まる一方だ。

 台湾から家族3人でやってきた男性(52)は「京都は2回目。ちょっと人が多すぎるが、日本を肌で感じられるのがいい」と笑みをこぼした。こうした観光客の急増は河原町や祇園、二条城周辺など市中心部のあちこちで見られる。

 市によると、2016年1年間に市内を訪れた観光客は5,522万人。前年の5,684万人から2.9%減少したが、3年連続で5,500万人を超えた。うち、外国人は661万人と前年を37.1%上回る大幅な伸びを示している。

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京都市の観光客、宿泊客数(単位・万人)
(出典:京都市「京都観光総合調査」2014、2015、2016年版)


 市を訪れる観光客は21世紀に入って4,000万人台で緩やかな増加を続けてきたが、2008年に初めて5,000万人を突破した。その後、リーマンショックによる景気低迷で一時減少したあと、再び増加に転じ、ここ数年は記録的に増えている。

 宿泊客は1,415万人で、対前年比3.9%増となり、過去最高を記録した。このうち、外国人の宿泊客は前年より0.6%多い318万人に達し、こちらも過去最高。宿泊客数に市内で営業する違法民泊の利用者が含まれておらず、実数はもっと多いとみられている。

 観光消費額は対前年比11.9%増の1兆862億円で、2020年の目標を早くもクリアした。日本人観光客1人当たりの消費額は1万9,669円に達し、前年を2,596円上回って過去最高を記録している。

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京都市内観光消費額の推移
(出典:京都市「2016年京都観光総合調査)


宿泊施設の客室稼働率は90%近く、業者がうれしい悲鳴

 観光客増の影響は各方面に表れている。その代表がホテルや旅館。市内の宿泊施設定員は2016年度末で前年度末に比べ、16.7%増えたものの、客室稼働率は89.1%と前年度に比べてわずか0.2ポイントしか緩和していない。途切れることなく宿泊客が殺到しているわけで、宿泊業者はうれしい悲鳴を上げている。

祇園など東山地区では、土産物店に連日、外国人観光客が鈴なりの状態。京都商工会議所産業振興部は「四半期ごとに市内の景気状態を調査しているが、最も好調なのは宿泊業や観光業。外国人観光客の増加が好影響をもたらした」と分析する。

 市内ではさらなる外国人観光客の増加を当て込み、ホテルの建設ラッシュが続いている。JR京都駅周辺では、京阪電鉄、JR西日本、アパグループなどが大型ホテルを建設、計画中だ。下京区の烏丸通ではユニホー、東山区では老舗料亭の京大和のホテル計画が進んでいる。

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JR京都駅南側で進められている大型ホテルの建設工事。市内はホテルの建設ラッシュが続いている
(写真:筆者撮影)


 このため、市中心部や有名観光地周辺の商業地は軒並み地価が高騰している。国土交通省から9月に公表された基準地価では、伏見区の伏見稲荷大社付近が29.6%の地価上昇率を記録、全国商業地のトップに立った。

府全体の商業地平均上昇率も5.7%で全国1位。全国の上昇率ベストテンに市内5地点が入るなど不動産バブルの様相を示している。宿泊、観光業者に土地を貸し出す方がもうかるとして、わざわざ商店を廃業するケースもあるという。

 市営地下鉄にも思わぬ波及効果が及んだ。2016年度の1日当たりの利用者が37万9,000人に達し、2009年度の利用者を5万2,000人上回ったからだ。市は経営健全化計画で2009年度比5万人増の目標を掲げていたが、2年前倒しで達成した。

 定期券利用者が2万人増なのに対し、定期券を持たない利用者は3万2,000人増。市交通局営業推進室は「急増する外国人観光客が一気に利用を押し上げた」とみている。

【次ページ】オフィス難や繁忙期の大渋滞は深刻さを増すばかり

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