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  • 2017/11/28

後継者不足で損失22兆円、130年の老舗旅館が廃業せざるをえなかった事情

後継者が見つからずに経営が順調なまま廃業する中小企業が全国で増えている。廃業数は2016年、過去最高を更新したが、今後10年足らずのうちに全国250万社の経営者が平均引退年齢の70歳を迎える。このままでは中小企業の「大廃業時代」に突入し、約22兆円の損失になるとの試算も出ているほど深刻な状況だ。関西大社会安全学部の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「国を挙げた対策になかなか着手できなかったつけが回っている」と現状を分析する。国はようやくM&A(企業の合併、買収)の推進や事業承継税制の改正に動き始めたが、大廃業時代を食い止められるのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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事業承継で廃業の危機を免れた徳島県美波町日和佐浦のホテル「白い燈台」。あくまで幸運な事例に過ぎず、後継者難から存続の危機に立つ中小企業は増えている
(写真:筆者撮影)


徳島の海辺の高台に建つホテルは事業承継で廃業の危機脱出

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 アカウミガメの産卵地として知られ、観光に力を入れる徳島県美波町。NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」の舞台となった大浜海岸を見下ろす崖の上に、事業承継で廃業の危機を乗り越えたホテルがある。長年、町を訪れる観光客を受け入れてきた「白い燈台」だ。

 白い燈台は1973年の開業。29の客室があり、温泉大浴場やレストラン、宴会場を備えている。経営状態は悪くなかったが、運営会社小川屋の小川智前社長(83)が高齢で体が利かなくなり、廃業の危機を迎えていた。

 小川前社長の身内に適任者がおらず、頭を抱えていたとき、徳島県事業引継ぎ支援センターの仲介により、近くで別の宿泊施設を経営するジミー・オカダ新社長(67)が名乗りを上げた。話はすぐにまとまり、5月に経営を引き継いでいる。

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徳島県事業引継ぎ支援センターチラシ
(出典:徳島商工会議所


 場所は大浜海岸から歩いて数分。町内にある四国霊場23番札所薬王寺も近い。オカダ新社長は「絶好の場所だけに、ホテルを廃業するのはもったいない」と感じていた。事業承継後、従業員の雇用は継続され、ホテル名も残った。従業員の仁田眞衣さん(20)=徳島県牟岐町中村=は「ウミガメ観光の拠点といえる職場が残り、本当に良かった」と笑顔を見せる。

 徳島県事業引継ぎ支援センターは2015年度に開設され、年間100件を超す相談を受け付けてきた。2017年度も4月からの8カ月間で110件の相談があったが、事業承継が実現したのは2年8カ月で27件にすぎない。白い燈台は幸運な例で、大半は廃業の危機に追い込まれている。

滋賀の料理旅館は後継者なく、130年の歴史に幕

 滋賀県彦根市にある彦根城。江戸時代の御殿を使って営業してきた料理旅館「八景亭」が11月いっぱいで営業を終える。前身を含めれば約130年の歴史を持つ老舗だが、病に倒れた経営者の竹中清登さん(67)の後継者が見つからなかった。

 八景亭は茅葺きの数寄屋建築で床面積547平方メートル。江戸時代前期に造営された大名庭園の玄宮園を見渡せ、池にせり出す格好の臨池閣を中心に構成される。臨池閣は幕末に幕府の大老を務めた井伊直弼が接待に用いた記録がある由緒ある場所だ。

 竹中さんは祖父が1934年に経営を引き継いでから、3代にわたって経営してきた。庭を見ながら琵琶湖の幸を味わえるのが評判となり、彦根城の名物になっていたが、竹中さんが2016年に病に倒れてしまう。

 2人の子どもは別の道を歩んでいる。後継者を探したが、竹中さんの味を引き継げる人材は現れなかった。妻の憲子さん(70)は「周囲に迷惑をかけられないので、廃業することにした」と悔しそうに語った。

 建物は彦根市に返還され、市が実態調査のうえで保存、修復について検討に入る。彦根市公有財産管理課は「営業が終われば市で保存するが、彦根城の名物が消えるのは残念」と肩を落とした。

 後継者不在で廃業を余儀なくされたのは八景亭だけではない。長崎県長崎市では江戸時代から続き、初代首相の伊藤博文も訪れた老舗料亭「富貴楼」、新潟市では老舗みそ店「竹林味噌醸造所」が2017年、看板を下ろした。

 「チョーク界のロールスロイス」といわれた愛知県春日井市の「羽衣文具」は2015年、廃業している。最高級品質で知られた企業だけに、愛用していた国内外の大学教員らから廃業を惜しむ声が上がった。

【次ページ】廃業する会社のほぼ半分が黒字営業

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