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  • 2018/08/13 掲載

私鉄各社の「線路は続くよどこまでも」 京王・東武は民泊参入、京急はインドネシアへ

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夏休み。大都市近郊の駅では「スタンプラリー」に参加する子どもたちの姿が見られる季節だが、その私鉄各社は今、増加のペースが全く衰えない訪日外国人需要の取り込みに懸命だ。PRのために海外に事務所を設置したり、海外の鉄道企業と提携したり、「特区民泊」に進出したり。一方で不動産開発の海外展開も盛んになっている。世界的に「鉄道」のマーケットは拡大しているが、日本は車両の輸出や運行のノウハウの移転だけでなく、「安全・快適・便利」なサービスや、多角化してきた私鉄経営のような側面でも、世界からお手本にされるようになるか?

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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私鉄各社は今、新たなマーケットをにらんでいる(写真は京急1000形1800番台)
(©funny face - Fotolia)


訪日外国人に熱い視線を送る私鉄各社

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 私鉄各社は今、訪日外国人観光客のインバウンド需要に熱い視線を送っている。

 沿線に世界遺産の「日光」がある東武、「京都」「奈良」がある阪急や京阪や近鉄、「高野山」がある南海、「姫路城」がある山陽電鉄や、「富士山」を一望できる箱根がある小田急だけでなく、沿線に世界的な観光地がない京王も東京都内で「特区民泊」に進出するなど、訪日外国人をターゲットに、さまざまな事業戦略を打ち出している。

 なぜなら、インバウンド需要は2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、その増加のペースは衰え知らずだからである。

 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、東日本大震災が起きた2011年に621.8万人で底を打った後は6年連続で増加し、2017年は2869.1万人で6年前の4.61倍になった。平均すると年20%前後の増加率を維持している。2018年に入ってからも各月の前年同月比増加率は1月以外は2ケタの伸びが続いており、2018年通年の3000万人超えはほぼ確実な情勢になっている。

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年間訪日外客数の推移

 インバウンド対応といえば、世界的な観光地に向かう特急列車の車両やサービスをグレードアップしたり、駅の案内表示や駅員が英語や中国語など多言語に対応したり、国内の旅行代理店に訪日客の送客を働きかけるといったことは、どこの私鉄でも以前からやっている。それに加えてここ数年で目立ってきたのは「自ら積極的に海外に出て行き、沿線の観光地や車両の快適性をPRし、集客する」という動きである。

海外に事務所を開設し、海外の鉄道と提携

 海外事務所の開設に動いている代表例が京急と小田急で、京急は2016年から台湾、タイ、シンガポールに、小田急は2016年のタイに続いて今年2月、フランス・パリにも事務所を開いた。美術館が多い箱根エリアや鎌倉エリアに芸術感度の高いヨーロッパ人の訪日客を呼び込もうという狙いがある。

 もう一つの流れが「海外の鉄道との提携」だ。海外の提携先は自国からの訪日客の送客をアシストし、日本の私鉄は日本人観光客の提携先への送客をアシストするという、販促・PR企画の「相互乗り入れ」を行う。

 日本の私鉄各社と次々に提携関係を結んで“大モテ”なのが、親日国として知られる台湾で在来線を運行する「台湾鉄路管理局」で、業務提携や「姉妹鉄道協定」「友好鉄道協定」という形で、2015年から東武、西武、京急、近鉄、山陽電鉄と次々にアライアンスを結んだ。

 提携先にはローカル鉄道のしなの鉄道、いすみ鉄道、長良川鉄道、江ノ島電鉄、銚子電鉄もある。台湾・高雄市で地下鉄と路面電車を運行する高雄捷運(高雄メトロ)は江ノ島電鉄、京福電鉄と観光連携協定を結んだ。西武は2017年にマレーシア鉄道公社(KTMB)と提携し、同じ年、南海はスイスのモントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道と姉妹鉄道協定を結んでいる。

 訪日外国人は日本の鉄道について「世界一安全」という好イメージを持っている。日本の「Shinkansen」が開業から50年以上、事故ゼロを続けているのは世界で広く知られており、統計上も日本のJRは、フランス、イタリア、韓国、ドイツ各国の長距離鉄道よりも事故率が低い。

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世界各国の列車キロあたりの鉄道事故比率

 輸送密度の高い東海道新幹線でも平均遅れ時間1分未満という発着時間が正確な「定時運行性」も、海外では「几帳面な国民性」とセットでよく語られる。日本の鉄道は信頼されているので、東京-京都間(約500キロ)や東京-日光間(約150キロ)のように、自国なら空路やレンタカーが選ばれるような距離でも、日本に来れば鉄道が選ばれる。

 JRにとっても私鉄にとっても、訪日外国人観光客は収益拡大をもたらす「金の卵」である。だからこそ政府観光局や旅行代理店に任せきりにせず、自ら海外に出て行き販促・PR活動を展開している。

「民泊」の事業に参入した京王、東武

 京王はその沿線に、世界遺産や温泉地など黙っていても訪日外国人がやってくるような観光地がない。東京競馬場に来るのは競馬ファンだけ。来日前から「高尾山」を知っている訪日客は、よほどの日本マニアだろう。典型的な通勤電車で距離も短いので、東武や小田急のような座席指定の特急列車もない(「京王ライナー」は下りの通勤客用のみ)。

 そこで京王がとったインバウンド戦略は「民泊」への参入だった。ベンチャー企業の百戦錬磨(本社・仙台市)と提携し「KARIO」ブランドで民泊施設の運営を行っている。昨年2月にオープンした1棟まるごと民泊マンション「KARIO KAMATA」は、京王沿線から遠く離れた東京都大田区、京急で羽田空港と直結した京急蒲田駅近くにあり、大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業の「特区民泊」である。

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京王電鉄が運営する、一棟まるごと民泊マンション「KARIO KAMATA」
(出典:京王電鉄)

 民泊といえば6月に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)の規制が非常に厳しく事業予定者の間であきらめムードが漂っているが、大田区、大阪市など地域を限定した「特区民泊」は旅館業法の特例扱いで民泊新法の規制を受けない。民泊新法でライバルが撤退していく中、インバウンド需要を取り込んでの発展が望める。

 今年6月には東武も、東京都墨田区の東京スカイツリー近くに東武不動産が所有する商店兼住宅の建物で民泊に参入した。こちらは民泊新法の家主不在型住宅宿泊事業である。

【次ページ】東南アジアは、私鉄各社にとって今熱い市場

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