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  • 2018/05/01 掲載

動き始めた全国のLRT計画、岡山や栃木はどう取り組んでいるのか

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全国の地方自治体が次世代路面電車(LRT)に熱い視線を注いでいる。岡山県では岡山市と総社市、JR西日本がJR吉備線のLRT化で合意したのをはじめ、栃木県では宇都宮市と芳賀町によりLRT新設工事が始まった。本格的なLRTを導入した国内の自治体は富山県富山市だけだが、コンパクトシティの実現で一定の成果を上げているほか、東京都葛飾区など構想を描く自治体も少なくない。関西大経済学部の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「LRTは鉄道よりコストが低く、バスより輸送力がある。存在が明確なため都市交通の軸となり、観光客にも分かりやすい。デザイン次第で街の顔になる」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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岡山市北区の備前三門駅に発着するJR吉備線の列車。吉備線は岡山市、総社市、JR西日本がLRT化で合意した
(写真:筆者撮影)

JR西日本と岡山、総社の両市が整備で合意

 岡山市北区のJR岡山駅から総社市の総社駅まで20.4キロを結ぶJR西日本の吉備線。非電化の単線路線で、桃太郎線の愛称がつけられている。岡山市の中心部を抜けると、周囲は田園地帯。車窓からのどかな景色を見せながら、ワンマン列車が1時間に1~2本程度、運行している。

 吉備線の輸送密度(1日1キロ当たりの輸送量)は2016年度で5,749人。JR西日本が発足した1987年度の6,690人に比べ、約1,000人少ない。

 沿線人口が今後、減少すると予想されていることから、JR西日本は2003年、LRT化を提案し、2014年に検討会議が計画のたたき台をまとめた。費用負担で3者の調整が難航していたが、それがようやく解決し、正式合意したわけだ。

 合意によると、運行本数は朝のラッシュ時で岡山駅-備中高松駅間が1時間6本、備中高松駅-総社駅間が4本に増え、それ以外の時間帯も3本に増やす。現在の10駅に加えて新たに7駅程度を新設する。

 費用は車両の購入や新駅の整備など初期投資に240億円程度かかる見込み。国の補助金91億円を除き、岡山市が70億円、総社市が21億円、JR西日本が58億円を分担する。運行経費は年間6億円と見積もられているが、JR西日本が5億円、両市が1億円を出す。

 運行はJR西日本が受け持ち、両市は新駅設置場所の選定などを担当する。JR西日本が既存路線をLRT化し、運営に携わるのは初めて。今後基本計画を策定したあと、建設工事に入るため、開業時期は未定という。

 岡山市交通政策課は「地域の活性化を図るインフラとして1日も早く開業できるよう力を合わせたい」、総社市都市計画課は「沿線の開発を進め、地域振興を図っていきたい」と期待を口にした。

富山ライトレールはコンパクトシティに貢献

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 LRTは「ライト・レール・トランジット」の略。国土交通省は

  1. 低床式で排気ガスの少ないタイプの車両を導入し、段差がないバリアフリーのホームを設置している
  2. 電車と同一のホームでバスやタクシーに乗り継ぎが可能
  3. 役所や観光地への案内板を設置している
などの条件を満たしたものを指すと定義している。条件に合致する路線は富山市の富山ライトレールだけだ。

 旧世代の路面電車は20世紀の高度経済成長期まで都市交通の中心となり、日本の戦後復興や経済発展を支えてきた。しかし、モータリゼーションが進むと、交通渋滞が社会問題になる。路面電車も乗客が減っていたため、次々に廃止された。

 今も北海道の函館市電、東京都の都電荒川線、大阪府の阪堺電車、広島県の広島電鉄など現役路線は各地にあるが、大都市では地下鉄、地方都市では路線バスに主役の座が移っている。

 これに対し、欧米諸国ではLRTの導入が着実に進み、2013年時点で140以上の都市で導入されている。欧州では道路拡張や駐車場増設の余地がない旧市街の基幹交通として再評価され、地域の名物になっているところが少なくない。

 国内では2006年に富山市が富山ライトレールを開業した。JR西日本から全長7.6キロの富山港線を譲り受け、LRTに転換して第三セクター方式で運行している。少子高齢化時代を見据え、中心市街地に都市機能を集約させるコンパクトシティの一環で、公共交通の整備により、中心部に人を集めるのが狙いだ。

 JR時代は乗降客が少ないことから、運行本数を減らし、さらに乗降客が減る悪循環に陥っていた。だが、富山ライトレールは昼間でも15分間隔で運行し、JR時代の1日当たり乗降客数平日2,266人、休日1,045人(2005年10月)を大きく上回る1日5,000人台の乗降客を毎年確保している。

 三セク会社の経営は補助金があるとはいえ、11年連続の黒字。富山市路面電車推進課は「高齢者の外出が増え、都市の無秩序な郊外拡大にも一定の歯止めがかかった。十分な成果が出ている」と胸を張る。

LRTをめぐる国内自治体の最近の主な動き
愛媛県松山市松山空港へのLRT新設構想で空港リムジンバス廃止など9条件を満たせば、費用対効果が見合うと検討会が3月に試算
東京都葛飾区JR新金貨物線の活用調査で2017年度、LRTの優位性を確認。2018年度から踏み込んだ検討に入る
沖縄県那覇-名護間を結ぶ鉄軌道導入構想でLRTも検討対象に
群馬県前橋市上毛電鉄へのLRT導入の可能性調査で、市は2017年、コスト負担が大きいとする結果を公表
滋賀県彦根市の近江鉄道沿線活性化のため、LRTなど代替交通手段の導入も想定した交通ネットワーク調査を2018年度に実施
名古屋市2027年のリニア中央新幹線開業を見据え、都心部にLRTとBRTの長所を生かした革新的な新交通システム導入を検討
東京都八王子市多摩ニュータウンと市中心部間のLRT新設構想で、石森孝志市長が2016年末、着工困難との見方を表明
出典:各自治体ホームページ、議会議事録などから筆者作成

【次ページ】宇都宮市と芳賀町は14.6キロの工事に着手

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