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  • 2018/12/26 掲載

HUAWEI(ファーウェイ)CFO逮捕が占う、デジタル・エコノミーの先行き 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(105)

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2018年は米中の貿易摩擦に翻弄される1年だった。HUAWEI(ファーウェイ)CFOの逮捕劇でかき消された感もあるが、アルゼンチンで開催されたG20の首脳宣言をみると、デジタル・エコノミーが国際社会の重要テーマであると読み取れる。実は、同じタイミングで中国とドイツのシンクタンクが共催したもう一つの国際会議でも、デジタル・エコノミーが議論されていた。今回は、そこで何が議論されたか、日本が議長国となる2019年のG20を視野に入れながら報告しよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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G20の議長国は日本だが、デジタル・エコノミーのどんな議題が挙がるのだろうか
(© sakramir - Fotolia)


緊張を映し出す米中首脳会談直後の逮捕劇

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 2018年も残すところわずかだ。今年は、米中の貿易摩擦に象徴される緊張関係が世界経済の至る所で影を落とす一年となった。それはインフォメーション・エコノミーの最前線にも及んでいるようだ。

 12月1日、中国最大手の通信機器メーカーであるHUAWEI(ファーウェイ)のCFOがカナダのバンクーバーで逮捕された。米国のイラン制裁を掻い潜る(かいくぐる)ため、米国の金融機関に虚偽の説明をした容疑で、米国から身柄の引き渡しを要請されている。

 ちょうど、G20首脳会議に合わせてアルゼンチンで実現したトランプ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談の当日だ。今年の国際社会を象徴する逮捕劇と言えよう。

 こうした出来事にかき消された感もあるが、G20で採択された首脳宣言をみると、今の国際社会が関心を寄せる重要テーマが読み取れる。そのひとつがデジタル・エコノミーだ。

G20で重要テーマのデジタル・エコノミー

 実は、アルゼンチンのG20首脳会議に合わせて11月30日までの2日間、もう一つの国際会議が上海で開催されていた。

 Global Governance and the Digital Economyと冠されたこの国際会議は、ドイツに本部を置く政治シンクタンクFriedrich Ebert Stiftung(FES)と上海国際問題研究院(SIIS: Shanghai Institute for International Studies)が共催して開いたものだ。

 FESとSIISは1980年代から緊密な協力関係を築いており、ドイツ政府と中国政府の合意により、デジタル・エコノミーの現状と課題について、2019年6月に日本で開かれるG20を見据えて、各国の専門家と幅広く議論を交わし論点整理するのが狙いのようだ。

 オープニングからクロージングまで、2日間で7つのセッションが開かれ、22人の専門家による報告をもとに活発な討論がなされた。筆者は第1セッション「G20 and the Digital Economy」の冒頭で、デジタル・エコノミーの2側面と日本の取り組みについて報告した。

画像
Global Governance and the Digital Economyのひとコマ
(筆者撮影)

デジタル・エコノミーのグローバルな課題は何か

 全体の会合を通じて印象に残った点は、国際的な共通ルールの枠組みを整えることの重要性とその実現に向けた具体的取り組みの難しさだ。

 デジタル・エコノミーの特徴は、グローバルに広がったデジタル・プラットフォーム上でビッグデータやAIなどの技術革新が次々と沸き起こる点にある。そこでは、文字通りボーダーレスな経済圏が形成されている。したがって、自由で公正で開かれた(free, fair, open)競争環境を整えるには、これまで以上に世界共通の枠組みが欠かせない。

 たとえば、ビッグデータと結びついたAI の開発競争を考えると、本人の同意なしに個人情報を使い放題の国とそうでない国との間では競争条件が圧倒的に異なる。また、実効性のある知的財産の保護が共通の枠組みで確立されなければ、模倣が得をする世界となり、公正な競争が損なわれて、投資インセンティブが削がれてしまう。

 この点は、デジタル課税も同様だ。モビリティが飛躍的に高まるデジタル・エコノミーの世界では、企業の活動拠点も、これまで以上に可動的になるからだ。各国がバラバラに対応していたのでは、タックス・ヘブンの問題が一段と深刻化するだろう。

デジタル・エコノミーのトレード・オフ問題

 とはいえ、これまでの経済学の思考法が全く通用しないわけではない。たとえば、個人情報の利用を考えてみよう。データの取り扱いを野放図にするとAIの開発は加速するがプライバシーは侵害される。だからといって、がんじがらめの情報保護が要求されるとAIの開発は停滞する。これは、まさに経済学が取り扱う「トレード・オフ」問題そのものだ。

 こうしたトレード・オフでは、二律背反のバランスとった最適解を導くのが経済学の要諦だ。独占の問題も同様だろう。知的財産権の確立は重要だが、その結果、GAFAなど一部の巨大IT企業にあらゆるデータが集中すると、「勝者総取り(Winner takes all)」になり、本人も気づかぬうちに誘導されて、意思決定がコントロールされかねない。アルゴリズムの開放が提起される所以だ。

 その一方で、アルゴリズムは、データ駆動経済(Data-driven economy)では、競争力の源泉でもあり、これを完全に開放すると、知的財産権が侵害され、模倣とフリーライドを惹起して、投資インセンティブが削がれてしまう。

 さらに、民間企業が開発したアルゴリズムを政府が強制的に開放させるやり方は、透明性や説明責任が果たされない状況では、その用途が何かという点を含めて、不公正感と不信感が払拭できないだろう。

【次ページ】透明性と説明責任のある共通ルールのガバナンス

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