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- 2019/05/17 掲載
米国の医療AIが抱える“複雑な事情”と苦しい打開策
医療AI先進国としての米国の動向
ヘルスケア業界に限らず、テクノロジーの最先端といえば誰しもまずは米国を思い浮かべるだろう。では、その米国が世界の医療費の半分を占めているのをご存知だろうか?米国の経済規模が世界の経済に占める割合をGDPを指標として考えると、だいたい4分の1であるのに対し、医療費では世界の半分ということになると、米国のヘルスケア市場が他に比べて桁違いに巨大であることがイメージしやすい。
その市場の大きさの魅力に牽引され、医療AIのテクノロジーの多くが米国で研究開発されている。各国がその動向を日々ベンチマークしている。では、その米国でどれほどの数のAIが実際に使用されているのだろうか?
米国ではFDA(食品医薬品局: Food and Drug Administration)と呼ばれる政府機関がAIを含む各種医療機器の管理を行っている。米国では医療AIは医療機器の一種という扱いであり、その他の国でもほとんどが同様のカテゴリで扱っているからだ。
FDAの許認可を得てからでないと医療AIの商用化は行えない。そこで、「現在実用になっている医療AI(臨床用途)」の定義を「FDA認可もしくは承諾を獲得している医療AI」と考えると、過去にこれを獲得した製品は表1のようになる。
表1:近年米国FDAの認可、承諾を取得した医療AI関連の製品(非網羅的) | |||||
会社名 | 本社 | FDA承認獲得年月 | 機器名称 | 510(k)/ Denovo |
用法・適用 |
CureMetrix | 米国 | 2019年 3月 |
cmTriage | K183285 | マンモグラフ画像のトリアージ |
Bonraybio | 米国 | 2018年 11月 |
LensHooke | K180343 | 生殖細胞の計数と分析 |
NinePoint Medical |
米国 | 2018年 11月 |
NvisionVLE (IRIS) |
K182616 | 食道組織の画像セグメンテーション |
Resonance Health |
オーストラリア | 2018年 11月 |
FerriSmart | K182218 | 肝臓の鉄分濃度の自動検出 |
MaxQ-AI | イスラエル | 2018年 10月 |
Accipiolx | K182177 | CTを使った脳出血の優先度判断とトリアージ |
Aidoc | イスラエル | 2018年 8月 |
Briefcase | K180647 | CTを使った脳出血のトリアージ |
iCAD | 米国 | 2018年 8月 |
PowerLook | K182373 | マンモグラフィを使った乳房密度の検知 |
Zebra Medical |
イスラエル | 2018年 7月 |
HealthCCS | K172983 | 冠動脈石灰化レベルのスコアリング |
Bay Labs | 米国 | 2018年 6月 |
EchoMD | K173780 | 心エコー図を使った駆出率の決定 |
DreaMed Diabetes |
米国 | 2018年 6月 |
DreaMed Advisor Pro |
DEN170043 | 糖尿病患者へのインスリン投与意思決定支援 |
Neural Analytics |
米国 | 2018年 5月 |
NeuralBot | K180455 | 脳血流による神経疾患の診断支援 |
IDx | 米国 | 2018年 4月 |
IDx-DR | DEN180001 | 眼底画像を使った糖尿病網膜症の自動診断 |
Icometrix | ベルギー | 2018年 4月 |
Icobrain | K180326 | 脳MRIの診断支援 |
Imagen | 米国 | 2018年 5月 |
OsteoDetect | DEN180005 | X線による手首の骨折の診断支援 |
Viz.AI | 米国 | 2018年 2月 |
ContaCT | DEN170073 | CTを使った脳梗塞の診断支援 |
Arterys | 米国 | 2018年 1月 |
Arterys Oncology DL |
K173542 | MRI、CTを使った肝臓・肺がんの診断支援 |
MaxQ-AI | イスラエル | 2018年 1月 |
Accipiolx | K182177 | CTを使った脳出血の分析 |
Alivecor | 米国 | 2017年 11月 |
Kardia Band | K171816 | アップルウォッチを使った心房細動の検知 |
Arterys | 米国 | 2017年 11月 |
Arterys Cardio DL |
K163253 | 心臓MRIの診断支援 |
(出典:www.fda.gov) |
米国の規制はAIのアルゴリズムが「不用意に」変化することに慎重
表1を一見すると、2017年はわずか2件しか医療AIのFDA認可がなかったが、2018年以降は月に1-2件のペースで認可、承諾が行われている。一方で総数を見れば、米国市場で日の目を見た医療AI製品は、累計でわずか20件程度しかないように見えてしまう。それに、表1には既に積極的に医療AIに取り組んでいるであろう、日本のビジネスパーソンが良く耳にする米国のITジャイアントのGAFMA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップル)や、医療機器大手のJ&JやGEなどの名前はまったく挙がってこない。この一因として、米国FDAの許認可のプロセスが非常に慎重かつ時間のかかるものであることが挙げられるであろう。
一方で、2019年4月2日に米国FDAから発行された声明によれば、これまでにFDAで認可もしくは承諾を受けた製品は、すべて「ロックされたアルゴリズムを使用している」ものであるという。
つまり、実世界でAIが使用されるに従って行われる、Adaptive Learning(適応学習)や、Continual Learning(継続学習)といった、AIならではの学習機能に制限をかけており、アルゴリズムがひとりでに製作者の意図しない方向に改善・改悪されることを防止しているのである。
現状の仕組みでは、新しいデータセットを使った学習によるAIのアルゴリズムのアップデートも、人手による確認と検証を経たうえで可能となるものしかFDAを通過できていない。
しかしながらFDAは、AIのロックを緩和することにより得られる便益が、想定されるリスクを上回る可能性と、それを見越した許認可が将来にわたって行われることをこの声明の中で述べており、それに向けたディスカッションペーパーを同4月2日に発行し、実際の「ガイダンス」の発行前に6月3日を〆切に公に意見を募っている。
ディスカッションペーパー内では許認可の条件として、市場導入前審査(Pre-market)の段階でアルゴリズムの改変の有無とその計画のチェックを行うとともに、リスクコントロールとチェンジコントロールを行い、安全性と効率性の標準(Gold Standard)を構築する予定であるとまとめている。
【次ページ】医療AIに求められる説明責任
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