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  • 2011/04/22 掲載

父が息子に贈るコンサルティング講座(3)~「仮説脳を目覚めさせる-1」 親父、母さんを無人島に誘う

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残業を終えて帰宅すると、妹の幸恵が帰っていた。こんな早い時間に家にいるのは珍しい。彼女は、コンサルティング会社に就職し、親父と同じ経営コンサルタントになった。コンサルティング会社というのは、よほど人使いが荒いところらしくて、彼女が帰宅するのはいつも深夜だ。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『正しい質問』アマゾン、『イノベーションのリアル』ビジネス+IT、『ダイレクト・コミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる 研究開発革新』日刊工業新聞、等

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

これまでの連載


「今日は、早いな」

「あ、お兄ちゃん。今日は、プロジェクトの中間報告だったの」

 幸恵は、ソファーに胡坐をかいて、ビールをグビグビと飲んでいる。本人は否定するが、親父とそっくりだ。見た目は、決して悪くないんだが。

「何のプロジェクトだ」

「M&A。米国企業の買収。お兄ちゃんは?仕事順調?」

「こっちは、しがない営業支援システムの企画だ」

 幸恵は、ニヤリと笑った。

「あら。何か悩んでるのね。はいはい。幸恵さんに相談しなさい」

 何でコンサルタントは、こうも人の悩みにちょっかいを出すのが好きなのか。

「いや、いい」

「バカね。多面的な視点を得る、建設的な批判に耐えることで、企画はどんどん良くなるのよ。何でそんなチャンスを潰すかなぁ」

 兄に向って、バカはないだろう。しかし、口で勝てるはずがない。小さい頃に、幸恵が、親父の大事なサンダーバードのプラモデルを壊したことがあった。あの時、嘘泣きして親父から許してもらった幸恵は、親父が部屋を出た後、あっかんベーをした。僕が叱ると、「多感な女心の一形態に焦点を当てて、ちょっと強調して表現したまでよ」と言った。僕はその時、なるほど、と言ってしまった。それ以来、僕は幸恵の話に、もう何百回もなるほどと返事をしている。  しかし、彼女のアドバイスは親父よりも的確だ。一つを除けば。僕は、冷蔵庫からビールを出すと、向かいに座って話し始めた。

「今日、部下から、新しい営業システムの企画内容を聞いた。営業部の部長と詰めたはずなんだけど、顧客データーベースの構築とか、営業マンの間の情報共有とか、いま一つぴんと来ないんだ」

「顧客データーベースを作って、何で売り上げが上がるの」

「それは、顧客を良く理解して、営業精度や営業効率を高めるんだよ」

「何よそれ。営業精度って何。営業効率って何。システムの投資をするからには、売り上げや利益を上げなきゃいけないでしょ。具体的にどうするの」

「そうそう。まさにそれだよ」

「何言ってんの。私は、お兄ちゃんに聞いてるのよ」

「え?」

 そう。幸恵からアドバイスを聞く時、唯一の問題は、この辛らつな言い様に耐えることなのだ。

「そんなの、実態がわからないとわからないよ」

 幸恵は、鼻の穴を開いて、フフンと言った。相手の弱点を見つけた時の反応だ。

「現状や問題がわかるまで、システムがどんな姿かわからないというのは、幻想よ。顧客データーベースを使って売り上げを上げる方法は、いろいろと考えられるわ。たとえば、顧客の需要のタイミングを捉えるためにどんな情報を知るべきか、営業マンの間で標準化して情報のヌケモレをなくし、調査結果をデーターベース化して、そのタイミングに合わせて提案を計画的に仕掛けることで、競争相手よりも早く十分な準備をして、勝率を上げるとか。または、顧客の魅力度と攻略の難易度を同じようにヌケモレなく把握して、重点顧客を明確化し、そこに営業リソースを傾斜配分することで勝率を上げられるでしょ。お兄ちゃんは、もともと営業部の実態は知っているんだから、売り上げ向上方法の仮説はいくらでも構築できるはずだわ」

 僕は、さっき頭にきたことも忘れて、感心して話を聞いていた。

「すごいな。何でそんなことが、すらすら言えるんだ」


「仮説構築脳に、栓をしていないからだ。最初から仮説構築脳を開放することは、重要なコンサルティング・テクニックだ」



【次ページ】“仮説構築脳を開放する”とは?

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