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- 2015/08/25 掲載
塩野義製薬の「エイズ薬」は、いったい何がスゴイのか
創薬企業のような収益モデルで業績拡大
塩野義製薬は8月3日に2016年3月期の4~6月(第1四半期)決算を発表した。売上高は1.8%増の638億円、営業利益は55.7%増の125億円、経常利益は7.1%増の146億円、四半期純利益は6.4%減の96億円だった。最終減益だが営業利益は大幅増益になった。通期業績見通し、予想年間配当に修正はなく、通期の売上高は8.0%増の2960億円、営業利益は43.9%増の725億円、経常利益は2.1%増の795億円、当期純利益は18.0%増の520億円で、年間配当は56円。第1四半期の通期見通しに対する進捗率は、売上高は21.5%、営業利益は17.2%、経常利益は18.3%、純利益は18.5%と出遅れているように見えるが、第3四半期(10~12月)以降の有望な収益源が後に控えている。
この薬は塩野義製薬が英国のグラクソ・スミスクライン(GSK)と共同で特許権を保有しており、2012年、そのライセンスをGSKの子会社の英国のヴィーブ・ヘルスケア(ViiV Healthcare)社に供与し、販売権の譲渡と引き換えにその発行済株式の10%を取得した。ヴィーブ社からはライセンスに基づき販売額に応じたロイヤルティー収入と配当収入を得るという、まるでR&D(研究・開発)に特化した創薬企業のような収益モデルになっている。
研究開発に対してフィー(手数料)を受け取るこのモデルは、製造原価も販売経費も、新薬の発売の際にかさみがちな販促費用もかからず、在庫を抱える必要もないので、薬を自前で製造・販売するよりリスクを低く抑えながら継続的な収入が望める。
第1四半期でもロイヤルティー収入は順調に入ってきており、前期に約200億円を得た受取配当金のほうも第3四半期以降に計上される見込みなので、それらが当期純利益を押し上げて2ケタ増益になる見通しになっている。
競合薬も多い中、「テビケイ」と、それを配合した「トリーメク」の売れ行きは想定以上といい、ヴィーブ社からのロイヤルティー収入はさらに上積みされる可能性がある。現在のところ通期見通しの営業利益、経常利益は過去最高益を更新するものの当期純利益の520億円は2013年3月期の667億円に及んでいないが、それも上方修正されて過去最高益を更新すれば、日本の製薬メーカーとして初めて、エイズ薬が業績に寄与して最終利益が過去最高益を更新するケースになる。
陽性者の死亡率には「南北格差」があるが
1981年に発見されたエイズ(AIDS/後天性免疫不全症候群)は、人間の免疫細胞がHIV(ヒト免疫ウィルス)に感染し、さらに免疫の働きが破壊されることで発症する。ひとたびエイズを発症すると肺炎などを起こし死亡率は高い。HIVに感染した人が「HIV陽性者」で、その中にはエイズを発症していない人も大勢いる。その人の体内のHIVウイルスの増殖を抑えてエイズの発症を防いで延命を図る治療が「抗HIV治療」で、効果をあげており、この治療に使われるのがテビケイのような「抗HIV薬」である。しかし現在のところは薬でHIVの陽性が陰性に変わることはなく、陽性者は一生涯、HIVに付き合っていかなければならない。もし陽性者のHIVをすべて死滅させて陰性にする特効薬が発明できたら、ノーベル医学・生理学賞の受賞は確実だといわれている。
HIV、エイズに関する統計は、国連合同エイズ計画(UNAIDS)という国連機関が毎年発行している「ファクトシート・世界の状況」でわかる。その2014年版によると、2014年末の全世界のHIV陽性者は3690万人で、2009年からの5年間で9.2%増加した。そのうち抗HIV治療を受けている人は1490万人で、5年間で144.2%、約2.4倍に増加している。HIV陽性者の受療率は40.4%まで高まった。エイズによる死亡者は2014年の1年間では120万人で、5年間で29.4%減少している。HIV陽性者は増加していても、抗HIV治療が普及することでエイズ発症による死亡者を減らす効果が出ていることが、このデータからわかる。
【次ページ】「エイズ薬市場」は今後どうなるのか
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