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  • 2016/02/09 掲載

KAI OTSUCHI 平舘理事長に聞く、スマホ事業立ち上げによる雇用拡大への挑戦

東日本大震災復興

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2011年に発生した東日本大震災は、各所に大きな爪痕を残した。ことに、未曾有の規模に及んだ津波被害は町の有り様を大きく変えるほどで、今回訪れた岩手県下閉伊郡大槌町も、いまだ復興に向けて歩んでいる最中だった。いまは内陸に避難している人が多いという同町で2013年に活動を開始したのが、一般社団法人KAI OTSUCHIだ。新たな事業を興すことで町を活気づけ、戻ってくる人の雇用創出も狙う。
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いまだ復興に向け開発途上にある大槌町

東日本大震災からの復興最中にKAI OTSUCHI参加を決めた平舘氏

 関東に住む筆者にとって、東日本大震災といえば、首都圏における電力問題が強く記憶に残る。電力がらみで言えば、原発事故の後処理などは現在も進行形だ。しかし、原発以外の被害やそこからの復興については、忘れかけてしまっているのではないか。筆者が岩手県上閉伊郡大槌町を訪れて最初に感じたのは、そうした思いだった。大槌町は、津波により大きな被害を受けた三陸海岸沿いの町のひとつ。陸前高田市と並び、津波により多くの事業所や住宅が流された。その痕跡はいまなおくっきりと残り、復興に向けて歩んでいる最中だ。

 その大槌町で、アプリ制作やWeb制作を請け負う一般社団法人KAI OTSUCHIの理事長として活躍しているのが、平舘 理恵子氏だ。

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一般社団法人 KAI OTCUCHI 理事長 平舘 理恵子氏

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 震災当時、平舘氏は盛岡で撮影アシスタントの仕事に就いていた。盛岡は内陸にあり、同じ岩手県内といえ被害は少なかった。自分のことよりも、大槌や釜石など、津波により大きな被害を被った地域の人々のことが気にかかったという。父母の実家があり、親しい友人が大槌町役場で働いているなど、縁の深い地域だったのだ。

「何か自分にできることはないかと考え、ボランティアに参加することも考えました。でもそれでは一時的な支援にしかなりません。復興した先も大槌を支えていくために、自分に何ができるのか。そう考えていたところで始まったのが、KAI OTSUCHIでした」(平舘氏)

 大学で美術を学び、約4年間カメラマンのアシスタントを務めた経験を、アプリのUIづくりやデザインに活かせるのではないかと考え、平舘氏はKAI OTSUCHIへの参加を決意した。

人材育成と雇用先を同時に用意したKAI OTSUCHIの試み

 KAI OTSUCHIは関西大学と大槌町が連携して発足した、ICT人材の育成プロジェクトが発端となっている。ICT人材育成プロジェクトでICT技術を身につけた人材を生み、KAI OTSUCHIで働いてもらう。教育と、卒業生の受け皿を同時に用意することで大槌にICT産業を興し、新たな雇用を生み出すのが目的だった。

 町が復興し住宅が整備されたとしても、働く場所がなければ町民が戻ってくるのは難しい。堤防の構築など安全面での整備、住宅地の確保と並んで、雇用の確保は復興に欠かせない要素なのだ。その一方で、大槌町の雇用問題自体は目新しいものではないとも平舘氏は指摘する。

「大槌町の産業といえば農業や漁業、それに付随する加工業などが中心。若い人の働き口がなく、人口流出は以前からの大きな課題でした。東日本大震災により多くの事業所が閉じられ、人口も減少しました。従来からあった課題が、より深刻になったのです」(平舘氏)

 きっかけを最初に作ったのは、関西大学のある人物だった。ICTや教育の力で被災地を支援できないかと、いくつかの市町村に声をかけた。しかし震災から一年足らずの当時、どの地域も目先を生き抜くことに必死で、復興後の雇用にまで目を向ける余裕はなかった。そのような中で手を挙げたのが大槌町だったのだという。当時の町長がICTに明るかったことや、大槌町に縁のある企業が仲立ちするなど、幸運も重なった。

 ICT人材育成プロジェクトは平舘氏ら一期生7名からスタートし、2名の卒業者を輩出した。7名全員が卒業まで続かなかったのは、仮設住宅が想定より長く使われることになり、仮設住宅支援員として戻らなければならなかった人や、復興の過程で新たな仕事に移らなければならない人が居たためだ。そうした背景からも、被災後の混乱を極める中で進められたプロジェクトだったことがうかがえる。

「私を含む卒業者2名が一般社団法人KAI OTSUCHIに就職し、まもなくして理事に就任しました。2013年5月には新たに5名を緊急雇用し、私たちと同じく1年間の教育プログラムに参加してもらいました。スキルを身につけたメンバーを正式雇用して、翌年もさらに3名、同じように教育プログラムに参加してもらうメンバーを雇用しています」(平舘氏)

【次ページ】ICTでできることを増やしながら安定した雇用を増やしたい

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