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  • 2016/10/27 掲載

「同じ商品であれば安いほうがよい」は大間違いだ

コトラー教授、コカ・コーラ元CMO、ネスレ高岡社長が指南

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あらゆる分野において市場が成熟した先進国。その中で企業が成長し続けるために大切なのは、イノベーションを続けることだ。企業が現状維持のビジネスを続けていれば、5年以内に市場から消える――。「現代マーケティングの父」とも呼ばれるフィリップ・コトラー教授はこう警鐘を鳴らす。「先進国のマーケティング」をテーマに、コトラー教授をはじめ、マクドナルド 前グローバルCMOのラリー・ライト氏、ネスレ日本 代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏らが語った。

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト。明治学院大学国際学部卒業後、週刊誌記者などを経て、2001年よりIT専門出版社に入社。「Windows Server World」「Computerworld」編集部にてエンタープライズITに関する取材/執筆に携わる。2013年6月に独立し、ITジャーナリストとして始動。専門分野はセキュリティとビッグデータ。

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(左から)マクドナルド 前グローバルCMOのラリー・ライト氏、ネスレ日本 代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授のフィリップ・コトラー氏、IMD(国際経営開発研究所)学長のドミニク・テュルパン氏(司会)

消費者のスピリットに訴える「マーケティング4.0」

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 「皆さんの会社は『マーケティングこそが会社の哲学だ』と胸を張れるか。どのくらいマーケティングに注力しているのか自己採点をしたことがあるか」。最初に登壇したコトラー氏は、聴衆に問いかけた。

 市場が急速に変化する状況で、自社が何をすべきかを見いだし、「チャレンジをチャンスに変える」ためには何が必要なのか。同氏は企業が自己採点する項目として、「新たな挑戦の継続的な模索」「最適なツールを利用したマーケティング調査・分析の実施」「消費者との適切なコミュニケーション」「流通チャネルおよび営業部門との円滑な連携と運営」「会社組織全体としてのマーケティング戦略の実施」「CSR(社会的責任)の実践」を挙げる。

 中でも重要なのは、どのような状況においてもビジネスのチャンスを見つけ出すメンタリティを持つことだという。コトラー氏は、「チャンスがないと考えてしまうと悲観的になる。しかし、どんな古い業界であっても、チャンスはある」と説く。

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ノースウエスタン大学
ケロッグ経営大学院教授
フィリップ・コトラー氏

 同氏が成功事例として挙げたのは、米スターバックスとアパレルブランドのZARA、そしてオンラインで靴を販売する米ザッポス・ドットコム(Zappos.com)だ。

 スターバックスは、それまでのコーヒースタンドを家、職場に続く「第3の場所(サードプレイス)」と位置づけ、顧客が読書をしたり、リラックスしたりする「空間」を提供し、コーヒー・リテーラーとしての地位を確立した。

 また、スペインのインディテックスが手がけるZARAは2週間ごとに商品のラインアップを入れ替え、常に最新ファッションアイテムを店舗に陳列するようにした。さらにザッポスは、顧客満足度を最優先の指針として電話対応のマニュアルを廃止し、社員に顧客サービスの裁量を委ねた。これら3社に共通するのは、成熟市場でも成長できるということだ。

 成功の要因についてコトラー氏は、「製品が提供する価値によって、顧客体験を向上させることが重要である」と力説する。そのためには、ソーシャルメディアを通じたコミュニティの形成や、キャラクターを通じた企業ロイヤリティの醸成、さらにデジタルトランスフォーメーションによるマーケティング変革が不可欠だという。

 また、最近では消費者の関心が、企業風土やCSRにも及んでいることも大きな特徴だ。コトラー氏は「消費者は自分が欲しい商品を提供している会社が『どのような経営をしているのか』までを見ている」と指摘する。

「(社内の)風倒しがよく、経営層と従業員が直接話せているか。投資家の利益だけでなく、顧客、従業員、環境、地域といったすべてのステークホルダーと向き合っているか。社員は誇りと忠誠心を持って働いているかといったことだ」(コトラー氏)

 こうした状況においては、顧客が企業の“ファン(支援者)”になるよう、「スピリット(精神)に訴えるマーケティング」が企業存続のカギになると力説する。「企業が現状維持のビジネス(モデル)を続けていれば、5年以内に市場から消える」と指摘する。

顧客の潜在的な課題を解決するのがイノベーション

 次に登壇したネスレ日本の高岡氏は、「21世紀のモダンマーケティング」をテーマに、同社が実践したイノベーションを説明した。

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ネスレ日本
代表取締役社長兼CEO
高岡 浩三 氏

 ネスレ日本では、イノベーションの定義を「顧客が意識していない問題を解決すること」と位置付けている(顕在化された課題解決はリノベーション)。そのイノベーションの好例が、「ネスカフェ ドルチェ グストによるオフィス市場の獲得」と「キットカットのハイブランド戦略」だ。

 ネスカフェ ドルチェ グストは、専用カプセルを利用するコーヒーマシンである。1杯ごとに淹れられるのが特徴だ。高岡氏は同製品リリースの背景として、「人口減少と高齢化」「(単身世帯など、家族サイズの縮小による)世帯数の増加」を挙げる。

 高岡氏によると、日本で年間消費される500億杯のコーヒーのうち、約65%はネスカフェが占めているものの、そのほとんどは家庭内での消費だという。以前は一度に複数杯のコーヒーを淹れていた家庭内での消費スタイルは、世帯人数の減少に伴い、一杯ずつしか淹れないようになった。「そうであれば、小規模な世帯でも本格的なコーヒーが楽しめるよう(1杯ずつ淹れられる)コーヒーマシンの提供を開始した」(高岡氏)

 同時にオフィス需要にも着眼し、オフィスにネスカフェ ドルチェ グストなどを導入して広めてもらう「ネスカフェアンバサダー」も展開した。その背景には、日本のコーヒー消費の50%はオフィス内であり、これまでネスレ日本は、同市場を開拓できていなかった現実があった。

「コーヒーマシンを貸し出し、ユーザーにコーヒーを社内で広めてもらう戦略で、オフィス内市場を開拓できた。これは大きな“イノベーション”だ」(高岡氏)

 さらに「ネスカフェアンバサダー」は、マーケティングには欠かせない優良なモニターでもある。高岡氏は、「彼らは顧客であると同時に、ロイヤリティの高い(ネスカフェの)ファンでもある。こうした顧客との関係性を継続していくことが、企業の成長につながっている」と語った。

【次ページ】同じ商品であれば低価格なものがよいと考えるが、これは間違いだ

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