• 2017/10/02 掲載

アマゾンビジネスとは何か? 何が手に入る? 日本のメーカーにも脅威となるワケ

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工具や電気設備資材、メンテナンス用品など、プロ向け資材の業界には高収益の企業が多い。一見すると単なるコモディティ商品に見えるが、ちょっとした工夫で比較的大きな付加価値を得ることができる興味深い業種である。だが、安定成長を続けてきたこの業界にも「黒船」が到来しようとしている。その理由は、アマゾンが法人向けサービス「Amazon Business(アマゾンビジネス)」を日本でスタートしたからだ。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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高収益・ホワイトの代名詞だったプロ向け製品業界にもアマゾンが忍び寄る


カユい所に手が届く工夫で利益率をアップさせたホワイト企業

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 働き方改革への関心の高まりから、社員に優しい企業がメディアに取り上げられるケースが増えている。岐阜県にある電設資材メーカーの「未来工業」は、社員に優しい「ホワイト企業」の典型と呼ばれている企業だ。

 1日の労働時間は7時間15分で残業は一切なし。育休は最長3年で何回取得してもよく、年間の休暇は140日(有給除く)。従業員の平均年収は約640万円と地方企業としてはかなり高い部類に入る。メディアで紹介される時には、多少の誇張は入るかもしれないが、まさに絵に描いたようなホワイト企業といってよいだろう。

 これだけの待遇で社員を雇うためには、会社は高い利益を上げる必要があるが、未来工業の業績は良好だ。同社の2017年3月期における売上高は約336億円と典型的な中堅企業のレベルだが、営業利益は42億円となっており、売上高に対する営業利益率は12%に達する。上場企業の多くは数%台であることを考えると、かなりの高収益体質といってよい。

 同社の主力商品は電気設備資材だが、中でも「スイッチボックス」と呼ばれる商品は市場で大きなシェアを握っている。スイッチボックスとは、コンセントの裏側にあるコードなどを収納する箱のことである。単なるプラスチック製の資材なので、物理的には付加価値のない商品に見えるが、ここが逆にビジネス上の重要ポイントとなっている。

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未来工業が取り扱う製品
(出典:未来工業ホームページ)


 かつてスイッチボックスの分野は、住宅用電設資材では圧倒的な存在だったパナソニック(旧松下電工など)のシェアが高かった。だが未来工業は、形状や寸法などを工夫し、数多くの種類のスイッチボックスを用意することでパナソニックに対抗した。作業現場からすると、ちょっとした寸法の違いなどがあり、かゆいところに手が届く製品は重宝する。きめ細かいニーズに合致する製品があれば、100円や200円程度高くてもこうした製品を選ぶ可能性は高い。

 商品1個を考えた場合、500円が700円になってもあまりインパクトがないが、これが企業全体ということになると売上高は1.4倍である。未来工業はひと工夫された単価の高い製品に特化することで高収益を実現し、それを社員に還元してきた。

 もちろんこの戦略は中堅企業だからこそ実現できるものであり、すべての企業にあてはまるものではない。だが、働き方改革の大きなヒントになることは間違いないだろう。

在庫の最適化で高収益をキープするトラスコ中山

 未来工業は純粋なメーカーだが、メーカーから商品を仕入れて販売する卸や小売の世界でも、プロ向け製品の分野では高収益企業が目立つ。卸ではトラスコ中山が、小売店ではモノタロウが有名である。

 トラスコ中山は工具や器具の専門卸で、数多くのプライベートブランドを持っていることでも知られている。同社はメーカーから製品を仕入れ、小売店やネット通販などに販売しているが、同社が取り扱う商品は100万点に達するともいわれる。

 小売店の要望にきめ細かく対応するため、同社は常に30万点の在庫を抱えている。この数字は同業他社と比較するとかなり多い。在庫がたくさんあれば品切れもなくなり、顧客満足度も上がってくるが、在庫リスクを抱えてしまう。一方で、在庫の最小化ばかりに気を取られていると、大口の販売ルートに頼ることになり、利益率が低下してしまう。

 同社は在庫のマネジメントを適切に行うことで高い業績を実現してきた企業といってよいだろう。メーカーと卸という違いはあるにせよ、この話は未来工業と基本的には同じ文脈で捉えることができる。顧客ニーズに合ったきめ細かい対応を実現できれば、顧客は相応の価格を払うことについて躊躇しない。

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2016年度におけるプロ向け製品のEコマースを手がける企業の業績一覧

 ちなみにトラスコ中山の2016年12月期の業績は売上高が1770億円、営業利益は141億円で、営業利益率は7.9%となっている。卸というあまり儲からない業種であることを考えると、かなりの高収益だ。今期は物流センターへの投資などがあり借り入れを実施する方針だが、同社はこれまでは無借金経営を通してきたことでも有名である。

モノタロウは1.5カ月分の在庫を確保し、在庫切れを回避

 卸の先は小売店だが、プロ向け製品のネット通販におけるモノタロウの知名度は突出している。同社は米国のプロ向け製品の販売会社グレンジャーの子会社で、日本では住友商事との関係が深い。

 モノタロウは「プロ向けのアマゾン」という位置付けで、メーカーや卸から仕入れた商品をネットで販売している。工務店など資材を必要とする顧客は、モノタロウを使えば、あらゆる商品を一気に検索し、仕様を比較検討できるので非常に便利である。

 ここでもまったく同じメカニズムが作用している。モノタロウは一定の在庫を抱え、顧客サービスを徹底させることで利益を得る構図となっている。卸であるトラスコ中山よりは少ないが、モノタロウも1.5カ月分の在庫を確保することで品切れを少なくしている。

 一連のバリューチェーンを考えると、メーカー側はできるだけ特徴のある製品を製造して単価を引き上げることが大切であることが分かる。一方、卸は小売店の利便性を、小売店はエンド・ユーザーの利便性を、それぞれ追求することで利益を最大化できる。卸と小売は在庫リスクとの引き換えになるが、ITを使ってこの部分をどう最適化できるのかが腕の見せ所だ。

 ここで紹介した3社は理想的なビジネス・モデルとオペレーションを実現した企業といってよいだろう。プロ向け製品の場合、顧客もビジネス目的で購入するため、行動が合理的という特徴があり、これがロジカルな経営との親和性を高める要因となっている。ホワイト企業が多いというのもうなずける話だ。

アマゾンのビジネス分野への進出は、業界最大の脅威?

 だが高収益を謳歌してきたこの業界にも、とうとう“黒船”がやってきた。説明するまでもなく、黒船とはアマゾンのことである。

 アマゾンジャパンは9月20日、オフィス用品やプロ向け資材を法人に提供する「Amazon Business(アマゾンビジネス)」」のサービスをスタートさせた。アマゾンビジネスは、アスクルに対抗したサービスとイメージされている。実際にそうした側面が大きいのは事実なのだが、アマゾンの最終的なターゲットは、おそらくオフィス用品の分野ではないだろう。アマゾンビジネスが普及した場合、もっとも大きな影響を受けるのは、ここで取り上げたプロ向け資材である可能性が高い。

 アマゾンビジネスのサービスは米国では2015年に始まったが、スタート開始直後から急激な勢いで普及が進み、アマゾンで工具や資材を調達することは、当たり前の光景となった。日本でも株式市場の反応は素早く、アマゾンの発表後、モノタロウの株価は3500円から3200円まで急落した。アスクルよりもモノタロウの下落幅が大きかったことが、事の本質をよく表わしているといってよいだろう。

 モノタロウもアマゾンも外資系企業であり(モノタロウは前身の住商グレンジャーが米事務用品通販大手のグレンジャー・インターナショナルとの提携で設立)、ネット通販の主役が交代しただけとの見方もできえるが、卸やメーカーも安泰ではいられない。最近、アマゾン内において、中国メーカーがプロ向け資材を破格の値段で販売するケースが増えているからだ。アマゾンビジネスの開始をきっかけに、中国企業が本格的にこの分野に進出してきた場合、日本のメーカーにとっては大きな脅威となるだろう。

 アマゾンは卸としての役割をどの程度、担うつもりがあるのか現時点では不透明だが、アリババのような企業と提携するという選択肢もある。一般的に卸は諸外国からの参入障壁が高い分野と思われているが、この業界もグローバル化の例外ではない。

 中国メーカーは自国民を相手にするだけで14億人の潜在重要があり、規模のメリットを最大限活用することができる。日本企業は徹底的に付加価値を追求していかなければ、生き残りが難しくなるかもしれない。
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