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  • 2018/01/31 掲載

なぜ明暗?5兆円節税に沸くアップル、「波」を逃したアマゾン

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤

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米トランプ政権は12月、最高法人税率を35%から21%へと大幅に引き下げるとともに、海外で税逃れ的に留保していた巨額の利益を米国に持ち帰る際の税率を、さらに低い15.5%にすることで、海外からのマネー回帰の津波を引き起こした。こうした中、アップルを筆頭に、フェイスブック、アマゾン、グーグル、ネットフリックス、マイクロソフトなどのITジャイアントの利益が急伸することが予想され、さらなる企業体質強化や巨大化が見込まれている。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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税制改革により、巨額のマネーが米に還流する
(© alfexe – Fotolia)


比類なきアップルの節税効果、なんと5.5兆円

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 トランプ米大統領は2018年1月17日、多国籍企業の海外に眠る利益の本国還流を促す、いわゆる「レパトリ減税政策」にアップルが応えて、同社が保有する現金および同等物の94%に相当する2,520億ドル(約28兆円)という桁外れの国外留保を米国に戻すと決めたことについて、「米国人労働者と米国にとって非常に大きな勝利だ」とコメントした。

 アップルは米国に持ち帰る現金の約12%に当たる300億ドル(約3.3兆円)を向こう5年間で、米国内に新社屋の建設やデータセンターの増設に投資するほか、新規に2万人の従業員を雇用すると発表している。トランプ氏はツイッターへの投稿で、「私の政策は、アップルなどの企業による米国への大量資金還流を可能にした」と自画自賛した。

 米ニュースサイト『アクシオス』は、「税制改革により、米国は法人税率の低いアイルランド並みのタックスヘイブン(租税回避地)になった」と評している

 さらにトランプ大統領は翌18日に、アップルの社員に対する一人当たり2,500ドル(約27万7,000円)の自社株ストックオプションのボーナス支給について、直々にアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)に電話を入れ、「私にとって名誉なことだ」と個人的な謝意を伝えたという。税制改革は、アップルがトランプ政権に恩を売る機会まで提供し、大きな政治的な勝利につながったと言えそうだ。

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米企業が高い米法人税率を避けるため海外に留保してきた現金保有額は、アップルが飛び抜けて多いことがわかる。
(出典:Apple 3.0


 米金融大手BTIGのアナリストであるウォルター・パイシック氏は、「アップルが還流させる2,520億ドルの現金にかかるはずだった35%の税率は15.5%にまで引き下げられ、500億ドル(約5兆5,371億円)が節税できたことになる」と指摘

 比較対象の米銀行業界全体での節税分が300億ドル(米ウェルズファーゴ銀行のアナリスト、マイク・メイヨー氏らの推計)にとどまることからしても、アップル一社の節税分の巨大さ、米ITビッグの権勢が実感できる。

税制改革で誰が一番「儲かる」のか?

 アップルは、節税分500億ドルのうち300億ドルを雇用や投資に振り向けても、まだ200億ドルのお釣りが来る。さらに、カナダロイヤル銀行(RBC)のアナリストであるアミット・ダリヤナニ氏は、「税引き後、返済すべき負債が少ないアップルには2,070億ドルの現金が残り、(雇用と投資に使う300億ドルを除いた)ほぼすべてを自社株購入や増配などの形で株主に還元するだろう」と予想する。

 UBS証券のアナリスト、スティーブン・ミルノビッチ氏も、「向こう3年間でアップルは、1,730億ドル分の自社株を買い戻す」と見る。ダリヤナニ氏によれば、1株当たり価格190ドルの買戻しで、2018年の一株利益(EPS)が3ドル上昇するという。

 「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏が率いる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイは、1億3,400万株のアップル株(時価230億ドル相当)を保有する同社の第5位の株主だが、一株利益が3ドル上がれば、それだけで4億200万ドル(約445億円)もうかり、さらに増配や株価の上昇分による収益で二重三重においしい。

 2004年から2005年にブッシュ(息子)政権が1年間限定の税率5.25%でレパトリ減税を実施した際には、米国に還流した推定3,120億ドル(約34兆5,515億ドル)のうち、「90%以上が自社株買いや増配の形で、株主に流れた」(米市場調査企業GBHインサイツのテクノロジー部門長 ダニエル・アイブス氏)とされる。今回の減税では、米国に回帰した現金の70%が投資家に渡ると、アイブス氏は予測する。

 こうして見ると、トランプ税制改革でアップルなどのIT大手が勝ち組になり、それらの企業に投資する株主が最も利益をあげることがわかる。総資産額915億ドル(約10兆1,329億円)と言われる大富豪バフェット氏は、2016年の大統領選でトランプ氏の当選を阻もうと活動したが、蓋を開けてみればトランプ氏の政策でさらに富むという、なんとも言えない結果になっている。

【次ページ】ウォルマートがアマゾンに勝つチャンス?

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