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  • 2014/02/10 掲載

【IT×ブランド戦略(20)】「ブランド」と「まやかし」とは何が違うのか?

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アンパンマン、プロ棋士、スタジオジブリと、これまでのケース・スタディで取り上げてきたのは例外なく大量生産可能な商品の販売を前提としたブランドであった。しかし、これらの分析だけでは「中身に特に価値がないのに、マークがプリントされたりラベルが貼られたりするだけで、高い価格で取引されるのは変だ」という、ブランドに対する最も素朴な疑義に応えることは難しい。そこで、これらと全く性格を異にするマッチングビジネスを取り上げ、分析を行うことでその可能性を探る。

ブランド形成に必要なのは、ディレクションよりもコンセプト

 第8回以降、いくつかの企業や商品を取り上げ、そのブランドとしての在り方に着目してケース・スタディを行ってきた。ケース・スタディにおける作業仮説として、以下の原則的な見方を採用した。

・ブランドには提供者、受け手の双方にコミュニティが形成される
・ブランドコミュニティは、中心部、辺縁部、外部によって構成される
・ブランドコミュニティは、提供者、受け手の双方が一定のイメージを共有する
・イメージの共有こそが、企業運営にとってのメリットの源泉となる

連載一覧
 アンパンマンの事例では、非常に明確な意図のもとに、日本テレビを中心とした提供者サイドのコミュニティが形成され、また受け手サイドのコミュニティも理想的な世代間の循環が生まれており、そのことが極めて安定したポジションをもたらしていることを分析した。

 将棋界におけるプロ棋士の事例では、原則的には将棋連盟がコンテンツホルダーとしてのマネジメントを行っているものの、収益事業としては新聞社や、出版社など様々な企業が各々の立ち位置、意図のもとで活動を行っているため、アンパンマンに比べると、ゆるやかなコミュニティが形成されていることを確認した。

 そのなかで、「インターネット」の登場というメディア環境の激変によって、新聞という存在にべったりくっついてきた将棋界旧来のビジネスモデルに危機が訪れる一方、当のインターネットによって、また新たな展開が進行していることを取り上げた。

 この二つの事例によって問われるべき問題は、ブランドがブランドとして成立するために「運営者によるディレクションが徹底される必要はない」かもしれない、という点である。

 素朴に考えると、ブランドという一つの世界観が生み出されるためには、「一人の天才的なクリエイターによる創造」が必須のものであるように思われるが、将棋界で起きているのは、観客も含めた様々なステークホルダーによって共創的に作り上げられた、半ば自発的なコミュニティ形成であり、必ずしも強権的なディレクションはなされていない。

 むしろ、ディレクションの有無よりも重要な要素として、ブランドがブランドとして成立するための、そのブランドでなければ提供できない何らかの価値の発信、言ってみれば、「ブランドコンセプト」と表現すべき中核的な概念に着目すべきである。

 ブランドコンセプトとは、LOUIS VUITTONでいえば「旅」という言葉で表されている。ブランドコンセプトが普遍的であればあるほど、幅広い人々をコミュニティに取り込むことが可能になり、ビジネス環境の変化に関わらず、成長が可能となる。

アンパンマンでいえば、「正義とはいかにあるべきか」。プロ棋士で言えば、「奇跡の一手」という言葉がそれにあたると思われる。

【次ページ】コンセプトという「種」、コミュニティという「風土」
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