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  • 2013/10/16 掲載

【IT×ブランド戦略(16)】ジブリがブランドであるために

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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いまや日本人の誰もが認める「スタジオジブリ」ブランド。実はこれも、LOUIS VUITTONやAPPLEと同様に、ある転換点をきっかけに、コアなコミュニティから一般社会への浸透を果たしたブランドの一つだ。これらの現象を仮に「ブランドの伝播及び帰化現象」と名づけたときに、この考え方を通じてどれくらいの射程でブランドを考えることができるのか。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

「スタジオジブリは、ブランドだと思いますか」

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   「スタジオジブリは、ブランドだと思いますか」と聞かれて、「違うと思う」と答える人は、少ないのではないだろうか。

 言わずもがな、スタジオジブリとは、宮崎駿、高畑勲という二人の巨匠を擁するアニメーション制作スタジオだ。二人の作品を次々にヒットに導いた鈴木敏夫プロデューサの名前も有名だが、つい先日、宮崎駿氏が映画監督を引退する、という記者会見を行なって、話題を読んだことは記憶に新しい。

 スタジオジブリは、ビジネス誌などが時々実施する「企業ブランド認知度調査」のような調査・ランキングを行うと必ず上位に入ってくる常連企業だ。

 前回主張したのは、ブランドがコアなコミュニティにとどまらずに広い顧客を獲得する過程として、社会的な環境の大きな変化によって生まれた、特殊なチャネルが貢献を果たしてきたということだ。

 例えば、LOUIS VUITTONは「超円高」をきっかけとして、フランスにおける一部のコミュニティから、日本という全く異質なコミュニティへの拡張が行われた。APPLEは「インターネット接続環境の進化」をチャネルとして、「ガジェット好き」「クリエィティブな職業の人々」という既存のコミュニティを超えて、私達一般の人々の元へ伝播をしていった。

 第14回で「ブランドは人々の意識の中で育つ」と述べたが、これは動物や植物が新たな大陸に越境して、在来種を駆逐していく様を連想させる。このような現象を例えば「ブランドの伝播及び帰化現象」とでも名づけたとして、その分析モデルが他の事例にも通用するのかということで、今回は「スタジオジブリ」をテーマに論じたい。

 第四回で指摘した通り、販売や購入というシーンに限定して考えると、ブランドの持つ力の本質とは「『不確実な未来に対する葛藤』による『意思決定のストレス』が極めて低い」ということだ。

 簡単に言うと、「それを買うことで未来の自分はきっと満足できる、と経験的に理解しているので、(手持ちの予算さえクリアすれば)それを買うかどうか、迷わなくて済む」ということだ。

 これを拡張すると、その企業がブランドであれば、例えば「ここに入社すれば、きっと満足した生活を送れると想定されるから、入社するかどうか迷わなくて済む」と思う人がたくさん生まれるために、その企業が採用活動を行うときには大きなアドバンテージを持つことができる。さらには「このブランドでは最低限これぐらいの品質を出さないと恥ずかしい」という思いがすでに従業員に共有されていると、社内教育が効率的になる、という話につながることもある。

 さらには、「この事業に投資や融資をすれば、きっと回収できるだろうからお金を出すのに迷わなくて済む」とか「このブランドと仕事ができるのであれば、それが実績やノウハウ獲得につながるから値引きするのに迷わなくて済む」とか、財務活動、購買活動などさえも含めた、あらゆる企業活動全般でのメリットが生まれるわけである。

 もちろんこれは、意思決定者がそのブランドをブランドとして認知していることが絶対条件であるため、上記に挙げたようなメリットのうち、どの部分を享受できるかどうかというのは、そのドメインによる。

 例えば、アニメーション制作会社は、コアな観客にとっては大絶賛の対象で、ブランドとして見えていたとしても、銀行からすると、当たるかどうか不明確な博打のような商売をやっている、という見方をされることもある。(現在のスタジオジブリが銀行から見てどういう評価になるのかはわからないが、アニメーション業界のなかでは優位なポジションにあるだろうとは、推測できる。)

 スタジオジブリはブランドか、と聞かれると、多くの人がそうだと答える。しかしよくよく考えると、これは実に不思議な話だ。

 私達は、「となりのトトロ」のぬいぐるみを買う時、それがスタジオジブリ製だからだろうか?宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」を観るために劇場に足を運んだのは、それが「スタジオジブリ制作だから」だろうか?

 よくよく考えると、私達がこれらの消費を行う時、それが「ジブリだから安心できる」というわけではなく、「結果としてジブリだった」ということのほうが多い。

 これは「ヴィトンのバッグを買う時」と比較すると、随分話が違う。あちらは「ヴィトンのバッグを買おう」という意識が先にあって、「じゃあ財布にしようか、バッグにしようか」ということになるわけで、この順序が逆転しているのだ。

 その意味では「『風立ちぬ』を観に行こう」という意識が先にあって、「なぜならそれは宮崎アニメだから」というあり方のほうが、近いといえば近い。

 今回は、「ブランドの伝播及び帰化現象」という見方をすることでその不思議がどのようにすっきりするのか、ということを三つの論点で論じたい。

 第一の問題は、「スタジオジブリ」がブランドなのか「宮崎アニメ」がブランドなのかという問題だ。

 第二の問題は、「宮崎アニメ」は本当にブランドだったのだろうか、という問題だ。

 第三の問題は、「今後のスタジオジブリは、ブランド足りうるのかどうか」という問題だ。

【次ページ】「スタジオジブリ」≒「宮崎アニメ」問題

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