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  • 2015/07/22 掲載

ワンピースとハンターハンターを組織論の観点で比較する(前編)

連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(32)

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トップダウン型か、ボトムアップ型か――。組織における秩序形成は、そこに属するすべての個人の生き方に影響を及ぼすものだ。少年ジャンプの二大ヒット作品ONE PIECE(ワンピース)、HUNTER×HUNTER(ハンターハンター)に登場する組織も、現実社会と同様にいずれかの組織に該当する。今回は、前述の作品における組織形成を、諸子百家時代の思想をもとに解説してみたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

後編はこちら

儒家的組織を描くワンピース、墨家的組織を描くハンターハンター

photo
 人が組織を作るのは、一人では成し得ない大きなパフォーマンスを発揮するためである。そして、なぜ組織が組織としてのパフォーマンスを発揮するのかと言えば、その組織が一定の秩序のもとに働くからである。

 第30回第31回では、儒家、法家、墨家という古代中国の秩序形成における三大潮流について着目し、分析してきたが、いよいよ今回は現代少年漫画を通じて、この秩序と個人の関係というものについて考えてみたい。

 組織を描いたジャンプ作品といえば、本連載でも度々取り上げてきた超人気漫画、ONE PIECE(ワンピース)である。この作品においては、リーダーがその人望を力の源泉として、組織に属する人々の力を引き出していく、という姿が描かれている。

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 この作品に登場する各集団において秩序をもたらしているのは、各々のリーダーの「徳」であり、その威光が他に及んで自発的な服従を促している、という構造である。リーダーの徳によって、正しい秩序が広まっていくという筋書きは、まさしく徳治主義を説いた儒家的世界観に合致する物語である。

 一方、これと対照的なのが冨樫義博氏の作品、HUNTER×HUNTER(ハンターハンター)である。本作において描かれるのは自律分散的な組織であり、特定のリーダーによる明確なリーダーシップが登場するということはない。

 「ハンター協会」「幻影旅団」「ノストラードファミリー」「キメラ=アント」「ゾルディック家」「V5」等、この作品には様々な組織が登場するが、いずれもそのトップがビジョンを掲げて何かの目的を達成するということはしないのである。

 そもそも、この作品の主軸となっている「ハンター」という職業自体が、組織共通の事業目的というものを備えていない。相手の地位が何であろうと、独立自尊の姿勢が貫けないようでは、プロハンターの資格がない、という雰囲気がある。ここにあるのは党派性の否定であり、これは墨家的世界観を連想させる。

 ワンピースのようなトップダウン教化型の組織はある種、儒家的組織だ。対してハンターハンターは、自律分散したボトムアップ型の墨家的組織といえるだろう。現実にある組織も、大別するとこのどちらかに属する。いいかえると、全ての組織人はこのどちらかの秩序のなかに身を置いて日々を送っている。この両者の違いを考えることで、「これからの組織と個人の関わり方」について考えてみたい。

ワンピースで描かれる儒家的組織とは

 まずは、ワンピースにおいて描かれる組織が「儒家的秩序」に基づいていることを見てみたい。「魚人島編」と呼ばれるエピソードが、これを示す好例なので、セリフも含めて紹介する。主人公である麦わらのルフィ達は、訪れた先の「魚人島」と呼ばれる島で、偶然勃発した内戦の鎮圧に加勢して平和をもたらす大活躍を演じる。その戦争の終結後の島の王達の会話である。

(ジンベエ)
国王・・・今度わしはビック・マムの下を離れようと思う

(国王) ほう もしや・・・ルフィ君の誘いに乗るか!!

(ジンベエ)
ええ思う所あり・・・
しかしこの道 義理人情の世界 契約書もない盃と口約束での結びつき
その分かえって縁を切るには覚悟が必要で・・・
万が一じゃがこの島にビッグ・マムの怒りが飛び火せんとも限らん

(国王)
 もしこの島がビッグ・マムの旗を失ってしもうた時には
 ぜひ借りたい旗がある
 麦わら帽子をかぶったドクロの旗じゃもん

(ジンベエ)
 ワハハ成程 その旗はええですな・・・!!

(『ONE PIECE 巻66 第652話 前途多難の予感』)

 ビッグ・マムとは、軍事的サポートを通じて魚人島の平和を保証していた海賊団の名前である。登場する二人は、この国が麦わら海賊団という他の軍事的存在の力を借りて内戦を鎮圧したという事実によって、この国の政治的バランスが崩れていくことに対する心配をしている。また実際にそのような事態が発生したら、正式に麦わら海賊団の傘下に収まろうとの算段をつけている。

 ワンピースという作品においては、どのエピソードも、基本的には「主人公達が、訪れた先の様々な村や国の悪い支配者を打倒し、住民を助ける」という構造をとっている。

 ここで注目すべき特徴は、「救われた住民たちが、支配するつもりのない正義の味方に対して自発的に付き従う」という構造だ。

 麦わら海賊団は救った住民たちを自分の支配下に置こうとすることはない。旧支配者を打倒するが、自分たちがそれに取って代わるということはしない。にも関わらず、助けられた人々は皆深く感謝して、今後とも麦わら海賊団に守ってもらおう、また何かことあらば彼等のために一肌脱ごうという心意気を持つようになる。この「住民側の自発的な心服」がポイントである。

 魚人島に入る直前のこと、当の主人公は、「自分の目的は、この海を自由に旅することであって、支配領域を広げるためではない」と名言するシーンがある。しかしその「自由な旅」の内実は何かというと、施政に問題のある村や国を見つけては、その悪を打ち倒して住民に安定をもたらすという「世界に正義と秩序をもたらす旅」である。

 徳を持つ者が世界を回って混乱を正していった結果、人々が自発的に聖人に付き従うことで世界が整っていくというこのお話、まさしく儒家が説いた堯舜の伝説とぴったり一致するのである。

【次ページ】ワンピースで描かれる「徳治主義」的世界観

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