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  • 2016/05/28 掲載

人気漫画「キングダム」最強の武将が語るリーダーシップ論とは

漫画と経営学用語で学ぶリーダーシップ(前編)

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戦争の目的、規模、技術、あらゆる点において、春秋戦国時代とは、戦争におけるイノベーションが起きた時代であった。この時代を描く週刊ヤングジャンプで連載中の人気漫画「キングダム」には、現代におけるプロジェクトマネージャーにとって興味深い問題提起がなされている。農地獲得合戦のなか、ハイリスクな戦争に投資をせざるを得ない戦国諸国のあり方は、社員の所得の安定、拡大を実現するために、いかにハイリスクであろうとも、新規事業投資を行い続けることを宿命付けられている、現代の企業社会に極めて通じる話である。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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人気漫画「キングダム」で描かれるリーダーシップ

「組織とリーダーシップ」の視点で漫画「キングダム」を読み解く

 歴史漫画「キングダム」は、中国大陸を歴史上初めてひとつの国家として統一した、秦の始皇帝の足跡を描いている。「項羽と劉邦」や「三国志」などのメジャーな物語ではなく、「春秋戦国時代末期」というマイナーな話を取り上げているにも関わらず、単行本発刊数2000万部を超える大人気作品となっている。

 主人公は戦争孤児で下僕の身分から立身出世を目指す少年。彼が率いる部隊は農民兵を主体とする成り上がり集団である。下剋上の世の中を、様々な先達との出会いや、名将軍との戦いを通じて生き抜いていく物語である。

 その人気の理由の一つは、昨今の少年漫画の王道である「戦略バトルもの」としての完成度の高さだ。勢力が劣る側が巨大な敵に打ち勝つための、「虚をつく」軍略、囲地、隘路等の「地の利」を活かした戦いなど、兵法好きも思わずニヤリとしてしまう仕掛けが随所に施されていて、他の「戦略バトルもの」ジャンルの名作群と比較してもまったく引けをとらない、出色の仕上がりとなっている。

 ここで必然的にテーマとなってくるのが、「組織とリーダーシップ」という問題だ。キングダムの世界では、それを「策」と呼ぶ。この人気作のなかでも名エピソードとして誉れの高い、「馬陽守城戦」の一節で語られる言葉があり、これぞまさに組織論の本質である。

昌平君
「腕力でかなわぬ相手を討つために武器を使う
強き武人を討つために人数を集める
大人数の戦いを有利にするために策を練る
万を超す規模の今の戦場では 策が全てだ」

(『キングダム 十三巻 第132話 「力」より』)

春秋戦国時代に起こった戦争におけるイノベーション

連載一覧
 本作の舞台である、春秋戦国時代とは、いわば戦争におけるイノベーションの時代だった。そのイノベーションの本質とは、戦争の目的の変化である。社会秩序の安定が保たれていた春秋時代初期では、政治的紛争が起きた時、「野戦で勝敗を決め、そこで新たな条約を取り決める」というスタイルが保たれていたのに対して、完全下克上の戦国時代に移行するにつれ、「城を陥落させ、相手の国を滅ぼすこと」が戦争の目的となっていった。

 これにより、かつては「卿、大夫、士」と呼ばれる貴族達が戦争の主役であったのに対して、農民兵を徴募した歩兵部隊を主力とする大規模戦争が主流となった。軍の規模は万の単位から数十から数百万の単位に膨れ上がった。武器、設備にも技術革新があった。青銅に取って代わる鉄が普及し、原始的な弓矢が「弩(おおゆみ)」として機械化され、「雲梯(うんてい)」等の攻城兵器が発明された。

 つまり、組織が巨大化するだけでなく、ツールやインフラにも変革があったのである。これは、戦争というものが、糧秣などのロジスティクスはもちろん、武器を運用するための訓練、徴募された農民兵を率いるための教育訓練、といった大規模な投資を必要とする「一大プロジェクト」になったということである。こうした戦争の大規模化、高度化の結果、戦争には、極めて高度なプロジェクトマネジメントスキルが必要とされるようになった。

 必ずしも成功が約束されていない戦争というプロジェクトにおいて、最終的な「城」の獲得に結びつけることができなければ、本国の資金力、体力は大きく削られて、逆に他国からの侵略を招くリスクを増大させる。リスクをとって領地拡大に成功した国はますます栄えるが、一歩間違うと亡国の憂き目にあう。

 どうしてそこまでして戦争をする必要があったのだろうか。理由は「農地」の問題である。民を飢えさせると政治の不安定化を招く。国に安定をもたらすためには、生産を拡大し、富を十分に配分することが前提である。そのためには、兎にも角にも、農地を拡大することが最大の経営課題だったのだ。

 社員の所得の安定、拡大を実現するために、いかにハイリスクであろうとも、新規事業投資を行い続けることを宿命付けられている、現代の企業社会に極めて通じる話である。

 キングダムで描かれるこの時代、戦争のグランドデザインを描いたのは、本国の最高司令であったが、個別の現場における「将軍」「軍師」が、それを実現する役割を担っていた。キングダムで描かれる武将たちとは、まさしく現代におけるプロジェクトマネージャーの暗喩なのである。

【次ページ】キングダム最強の武将が語るリーダーシップ論とは

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