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  • 2017/10/11 掲載

地方間の「定住者争奪戦」が勃発!新幹線補助はやりすぎか

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人口減少に苦しむ地方自治体が、さまざまな移住支援策を打ち出している。北海道上士幌町はふるさと納税で集めた寄付を多彩な子育て支援事業に活用し、人口増加を達成した。島根県浜田市は、シングルマザー向け支援制度で定住者を確保している。他の自治体も新幹線通勤への補助、大学生までの医療費無償化など知恵を絞った施策が目白押しだ。しかし、成功例の模倣が続き、自治体間の競争は激しさを増すばかり。島根大教育学部の作野広和教授(人文地理学)は「移住者の奪い合いが各地で見られる」と指摘。生き残りをかけた地域間競争が勃発している。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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兵庫県篠山市の農村地帯。市は市外からの移住者による住宅新築・購入に最大120万円、中古住宅購入に最大90万円を補助している
(写真:2016年11月、筆者撮影)


上士幌町は好調なふるさと納税を活用し、子育て施策がずらり

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 北海道十勝地方の上士幌町。農業と酪農が盛んな小さな町が今、全国の注目を集めている。ふるさと納税で集めた寄付金を子育て支援に活用し、人口増加を達成したからだ。

 総務省の人口動態調査によると、2017年1月1日現在の町の人口は4,917人。死亡数が出生数を上回る自然減は41人で、減少率が道内平均より高いものの、転入者が転出者を上回る社会増は72人に達した。転入者は道内だけでなく、首都圏からもやってくる。その結果、人口が1年間で31人増えた。帯広市を中心とする十勝管内19市町村で人口増加は上士幌町だけである。

 町は2014年度から子育て少子化対策夢基金を設け、さまざまな施策を展開している。急激な人口減少と高齢化の進行に歯止めをかけるには、子育て世代の定住が必要と考えたからだ。町の2016年度末の基金残高は約8億円。財源はふるさと納税で集めた寄付金だ。2017年度は公営学習塾開設や認定こども園無料化など約30の事業に1億7,000万円あまりを基金から投入した。

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上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金の主な事業(2017年度)

 町のふるさと納税は特産品の十勝牛や乳製品が人気を呼び、2016年度で21億円余りの寄付があった。対前年度比38%増の急成長ぶりで、集めた寄付の大半を子育て支援につぎ込んでいる。

 9月末には野田聖子総務相が町を視察し、ふるさと納税有効活用の先進例として紹介する考えを示した。町は「生涯活躍のまち」を掲げ、近くまちづくり会社を設立する計画。町企画財政課は「これからは暮らしやすい町づくりも進め、定住者を増やしていきたい」と意気込んでいる。

移住希望者争奪戦が勃発

 大都市から地方への移住は2011年の東日本大震災後、活発になったといわれている。正確なデータはないが、明治大学の地域ガバナンス論研究室などが全国の自治体を対象に実施した調査によると、自治体の支援策を利用するなどして地方へ移住した人は、2014年度では1万人を超えた。

 移住者数は2009年度からの5年間で4倍以上に増えた。移住者数を集計していない自治体や行政の支援策に頼らない移住者もあることから、実数はもっと多いとみられる。

 すでに実績を上げつつある自治体もある。島根県の持続可能な地域社会総合研究所が2010年と15年の国勢調査を使い、過疎指定された797市町村の人口を比較分析したところ、93市町村の社会増減率がプラスだったことが分かった。

 こうした背景には、自治体の移住支援策の拡充がある。共同通信社が全国の自治体を対象に2017年6~9月に実施したアンケートでは、回答した1,604自治体のうち、78.3%が移住促進策を実施していた。人口減少が続く地方へ定住者を呼び込むだけでなく、三大都市圏で新住民を奪い合う動きも目立っている。

大都市のシングルマザーを介護人材に

 島根県西部の浜田市はシングルマザーに照準を当て、2015年度からひとり親の定住支援を始めた。市内の介護施設で親が働けば、最初の1年間に限って月額3万円の養育支援金を支給するほか、家賃の半額補助、中古車の無償提供、引っ越し代の支給など至れり尽くせりのサービスがつく。介護施設の給与も月額15万円以上を保証している。

 介護人材は全国的に不足しているが、島根県西部は特に深刻だ。人口5万7,000人の市は急激な人口減少に苦しんでいる。子どものいるシングルマザーに移住して介護施設で働いてもらえれば、一石二鳥の解決策になると考えた。

 シングルマザー側から見ても、大都市でパートをいくつも掛け持ちして疲弊するより、家賃や食費の安い地方で過ごせば、子どもと向き合う時間を増やせるメリットがある。

 市はこれまでに12世帯の移住を受け入れ、うち8世帯19人が定着した。首都圏や関西からやってきた家族が多く、市政策企画課は「まずまずの定着率。11月には大阪で相談会を開き、さらに多くを呼び込みたい」と期待している。

【次ページ】差別化のカギはどこにあるのか

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