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  • 2019/03/22 掲載

今さら聞けない「eスポーツとは何か」? ゲームがオリンピック種目になり得るワケ

優勝賞金は10億、日本でも「1億超え」

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ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」が盛り上がっている。この新しい「スポーツ」をオリンピック種目に加える可能性を含め、世界中でさまざまな大会が開かれるなどeスポーツ市場が伸長しているが、ゲーム大国であるはずの盛り上がりはイマイチだ。なぜこのような状況にあるのだろうか。

野村総合研究所 コンサルタント 隈部大地

野村総合研究所 コンサルタント 隈部大地

2016年東京工業大学大学院修了、同年野村総合研究所入社。専門はICT・メディア分野における事業戦略およびマーケティング戦略立案支援。コンサルタントとして活動する傍ら、eスポーツプレイヤーとしても活動しており、日本代表として4度の世界大会の出場経験を持つ。

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なぜeスポーツが注目されるのか
(©Gorodenkoff - Fotolia)

eスポーツとは何か?

「eスポーツ(esports)」とは?
「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ(Electronic Sports)」の略で、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称を指す。電子機器を使う娯楽や競技、スポーツなどのこと。
(※本定義はビジネス+IT編集部)
 近年、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」が世界中で大きな盛り上がりを見せている。

 海外では、大きな規模の大会になると、1万人を超える観客が大きな会場を埋め尽くし、選手の一挙手一投足に熱狂する。その様子は、さながらプロスポーツ大会のようである。

eスポーツの市場規模

 eスポーツ市場も爆発的に拡大しており、オランダの調査会社Newzooによれば、2018年には世界全体で約1000億円に達し、2021年には1800億円超に達するとされている。

 米国の証券会社ゴールドマン・サックスによる報告書では2022年に3000億円超に達するともされている。今それだけ世界中で注目を浴び、市場規模も急速に拡大している。

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世界のeスポーツ市場規模

eスポーツがオリンピックに採用?

 それだけ注目を浴びているeスポーツであるが、2024年に開催されるパリオリンピック・パラリンピックの新種目としても採用が検討されている。

 オリンピックでの採用に向けては、一部ゲームの暴力性や利権の問題などいくつかクリアすべき課題があるものの、将来的にオリンピック種目入りすることも十分に考えられるだろう。

 オリンピックに先駆けて、2018年のアジア競技大会(ジャカルタ)では、デモンストレーション種目としてeスポーツが採用されており、2022年大会(杭州)では、正式にメダル種目として採用されることが決まっている。

 日本国内でも2019年に茨城県で開催される国民体育大会の文化プログラムとして、「都道府県対抗eスポーツ大会」が開催されることが決定している。

eスポーツの種目と大会

 スポーツに野球、サッカー、陸上競技などさまざまな種目があるように、eスポーツもタイトルをいくつかのジャンルに分類することができる。

eスポーツの種目
主なジャンル
概要
FPS/TPS シューティングゲーム。一人称視点のもの(FPS)と第三者視点のもの(TPS)に分類される。4~5人のチーム戦で殲滅戦や陣取り戦を行うものが多い。Call of dutyシリーズなど。
MOBA 4~5人のチーム戦で戦略やプレイングを駆使しながら相手陣地の制圧を目指すゲーム。世界で最も盛り上がっているジャンルであり、高額賞金の大会も多い。League of Legens、Dota2など。
RTS 軍隊などの指揮官になって戦略・戦術を競い合うゲーム。MOBAと似ているが、MOBAと異なる点として1:1であることが多い。StarCraft2など。
格闘ゲーム 一人で一人のキャラクターを操作する。日本人が最も活躍しているジャンルのひとつ。ストリートファイターや、大乱闘スマッシュブラザーズなど。
スポーツ リアルスポーツをそのままビデオゲームにしたもの。一人で複数の選手を操作するものが多い。FIFA、ウイニングイレブン、実況パワフルプロ野球など。
DCG デジタルカードゲーム。一人でも気軽にプレイでき、オンライン対戦も充実していることから、特に日本国内で盛り上がっているジャンルのひとつ。Shadowverse、HearthStoneなど。
パズルゲーム ルールが明快で誰もが楽しめる。ぷよぷよ、テトリスなどがeスポーツ種目として採用されている。


 主にはシューティング(FPS/TPS)、MOBA(Multiplayer online battle arena)、RTS(Real Time Strategy)、格闘ゲーム、スポーツ、DCG(Digital Card Game)、パズルゲームの7つのジャンルに分類される。

 この中でも世界で最も盛り上がっているジャンルがMOBAと呼ばれるジャンルだ。League of Legends(LoL)やDota2などのeスポーツの主要タイトルがこのジャンルに属する。

 LoLの世界全体でのプレイ人口は、約9000万人とされており、これはテニスのプレイ人口(約1億人)にも匹敵する。

 世界大会や国内リーグも開催されており、2018年の世界大会の優勝賞金は約7億2000万円で、賞金総額は約20億円であった。

 一方、日本の国内リーグ(LJL)の賞金総額は2700万円と、国内リーグとは言え世界大会と比べるとまだまだ大きな開きがある。Dota2の大会はさらに大きく、優勝賞金が10億円を超え、賞金総額は28億円にも達する。

 また、なかなか日本のチームが世界で勝てていないジャンルの1つでもあり、今後の日本勢の活躍が期待される。

 その他では、格闘ゲームなどがある。格闘ゲームは基本的に1:1での対戦となるため、ゲーミングハウスなどチーム環境があまり充実していない日本でも活躍しているプレイヤーは非常に多い。

 日本の著名なプロゲーマー梅原大吾氏もこのジャンルで活躍するプレイヤーである。大会形式は、格闘ゲームの祭典と言われるEVOのように、同一の大会で複数のタイトルが同時に実施されることが多い。

 また、ここ最近日本国内で急激な成長を見せているのが、DCGと呼ばれる分野である。主要タイトルにShadowverseやHearthStoneなどがある。「1人で」「スマートフォンから」もプレイできるため、誰でも気軽に遊べることが大きな要因の1つだろう。

 特にShadowverseについては、国内のプロリーグが整備されただけでなく、日本で初めて優勝賞金が1億を超える大会が2018年に開催され、2019年もさらなる規模の拡大が予想される。

国内でもさまざまな業界からの参入が相次ぐ理由

 全世界での市場規模が約1000億円に達したのに対し、日本国内の市場規模は約5億円とまだまだ小さい。しかし、2017年以降さまざまな企業が参入し、少しずつではあるが、世界に負けじと盛り上がり始めている。

 2017年3月には、KDDI「au」がプロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」を運営するSun-Genceとのスポンサー契約を締結した。

 従来、国内ではプロeスポーツチームのスポンサーには、ゲーム会社のほか、PC周辺機器メーカーや動画配信サイトなどeスポーツに直接関わりのある企業が多かったが、KDDIという通信会社が参入したことは、大きな話題となった。

 その他にも、レオパレス21やイオン、日本テレビなどさまざまな業界から参入が相次いでおり(表1)、eスポーツが少しずつではあるが身近なものとなってきている。

表1:主な異業種からの参入事例
参入企業 時期
概要
KDDI 2017年3月 プロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」とスポンサー契約を締結。
2018年8月 日本eスポーツ連合とオフィシャルスポンサー契約を締結。
レオパレス21 2018年2月 eスポーツ大会「レインボーシックスシージ レオパレス21カップ」の開催を発表。
イオン 2018年6月 ウェルプレイド社が主催するeスポーツ大会に、賞金を協賛企業として提供し、大会の様子をイオンシネマにてライブビューイングを実施することを発表。
日本テレビ 2018年6月 eスポーツ事業に特化した子会社アックスエンターテイメント株式会社を設立し、プロチーム「AXIZ」を結成。


 こうした異業種からの参入が相次ぐ背景には、eスポーツは従来のスポーツと異なり、年齢や性別などに関係なく誰もが参加できることに加えて、特に若年層への発信力の高さがある。

 1人1台持つことが当たり前になったスマートフォンでプレイできるeスポーツタイトルも多く、そのプレイヤーのほとんどは10~20代の若年層である。

 各社には、そうした若年層に対して、eスポーツを通じてアプローチしたいという狙いがある。実際、レオパレス21はeスポーツ大会を主催する理由として、「若年層に対し、入居者がeスポーツへ快適に参加できることをアピールする」としている。

 今後もさまざまな業種からの参入が相次ぎ、国内のeスポーツ産業がより盛り上がると想定される。

国内外で進む「リアルスポーツのeスポーツ化」

 また、リアルスポーツのeスポーツ化も近年の日本国内における特徴の一つと言える。

 Jリーグがサッカーゲームを用いたeスポーツ大会「eJ.LEAGUE」の開催をしたり、日本野球機構(NPB)が「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」を開催したりしている。

 eスポーツ版ワールドカップのように、世界でもリアルスポーツのeスポーツ化も進んでいる。「eJ.LEAGUE」の優勝者は、国際サッカー連盟(FIFA)が主催する公式eスポーツ大会「FIFA eWorld Cup 2018」の世界予選への参加権が与えられる。

 「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」では、一般のプレイヤーを対象に、オンライン予選大会・選考会を実施し、選抜されたプレイヤーが「eドラフト会議」にて各球団が3人のeスポーツ選手を指名する。

 この「eドラフト会議」は、品川プリンスホテルで開催されており、プロ野球のドラフト会議を彷彿とさせる(実際のプロ野球のドラフト会議も同会場にて実施されている)。

なぜ日本は「eスポーツ後進国」なのか

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 日本国内でも着実に普及が進んでいるものの、2018年の市場規模は、世界の1000億円に対して、国内では約5億円とまったく及ばない。

 かつてゲーム大国と言われ、ゲーム市場では、世界の約10%を日本が占めているにも関わらず、なぜeスポーツではこんなにも出遅れているのか。

 さまざまな要因があるものの、「認知」と「法整備」によるところが大きい。

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ゲーム市場では、世界の約10%を日本が占めているにも関わらず、なぜeスポーツではこんなにも出遅れているのか

 日本でeスポーツが普及しきれていない要因の1つが認知率の低さによるものだ。

 NRI「情報通信サービスに関するアンケート調査」(2018年)によると、全体では「eスポーツという言葉を聞いたことがある」のは約半数に過ぎず、さらに「eスポーツという言葉を知っている」のは約20%にとどまる(図表2)。

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図表2:eスポーツの認知

 ゲームが身近にある若年層では比較的認知が高いが、年齢層が上がるにつれ認知度は下がる傾向にあり、高齢層の認知度は非常に低い。

 また、eスポーツという言葉を知っていても、あまりeスポーツという概念そのものがいまだ受け入れられていないのが現状だ。

【次ページ】なぜ「eスポーツ」を受け入れられないのか

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