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  • 2019/11/01

業界の「ホワイト化」で疲弊する運送会社とトラックドライバー、一体何が問題なのか

連載:「日本の物流現場から」

働き方改革関連法が施行されるなど、現在、社会全体がコンプライアンスを重視し、いわゆる「ホワイト企業」となるべく、大きくかじを切っている。しかし、現場では、コンプライアンスを順守することによってさまざまな問題や課題が生まれ始めている。運送業界も然(しか)り。筆者が現場で聞いた例を交えながら、運送業界におけるコンプライアンス推進が巻き起こす課題を考えよう。

物流・ITライター 坂田 良平

物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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運送の現場は「コンプライアンス順守」に苦悩している
(Photo/Getty Images)


長距離運行を止めた運送会社の部長の一言

 筆者が訪れたある物流会社では「自社車両による長距離運行を止めた」という。

 車両台数100台強、社員数500名程度のその会社はそれまで、東名阪自動車道の幹線輸送(大量輸送)を行っていたが、静岡県などに複数の営業所を設けて中継輸送を行うことにしたのだという。1人のドライバーが複数日に渡ってトラックを運行し続ける長距離輸送を取りやめたのだ。

 「素晴らしい!」と称賛する筆者に対し、同社の部長は、苦虫をかみつぶした表情で言った。

「褒められたものじゃないですよ。ドライバーがコンプライアンスを守れないから、渋々長距離運行を止めただけですから」

ドライバーを守るためのルールが逆にドライバーを苦しめる

 この部長の言葉を理解してもらうには、まずトラックによる貨物輸送におけるコンプライアンスの内容を説明する必要がある。

 労働者は、8時間の労働時間中に、1時間の休憩時間を取る必要がある。これは、労働基準法に定められている。

 しかしトラックドライバーにはたとえば以下のように、より厳しいコンプライアンスが存在する。

  1. 4時間運転したら、30分の休憩を取得しなければならない。
  2. 原則、1日の運転時間は9時間以内。
  3. 前日の出勤から翌日の出勤には、8時間以上の休息が必要。

 • こういったドライバー特有のコンプライアンスは、労働基準法ではなく、貨物自動車運送事業法を始めとする関連法律で定められている。実際にはもっと複雑なルールが定められているのだが、ここでは代表的なものだけを紹介する。

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トラックドライバーの労働時間等のルールの概要
(出典:国土交通省)

 これで何が問題となるか。小田原市内から名古屋市内までの長距離運行の例で考えてみよう。小田原市内から名古屋市内までの距離は、約290km。トラックで運行するとなると、片道4時間弱だ。名古屋~小田原は、ギリギリ1日で往復できるかできないかの距離である。しかし、途中渋滞等が発生すると、1日9時間の運転時間制限を超えてしまう。

「あと小一時間も走れば、もう帰宅できるのに……」

 そう思いながらもドライバーは、足柄SA(静岡県御殿場市)などでその日の運行を止め、8時間以上の休息を取った上で、翌日帰宅しなければならない。これがトラックドライバーに課されたコンプライアンスなのだ(注1)。

「うっかりしていました」

 ホントかウソかは分からないが、そう言って当日中に帰宅してしまうドライバーもいる。狭いトラックの車内ではなく、自宅の布団で眠りたい、早く仕事から開放されたいというドライバーの心中は察して余りある。

 ここまで極端な例ではないが、4時間ごとに取らなければならない休憩を無視して走り続けるドライバーも中にはいる。

 「コンプライアンスを守れないから」と嘆く言葉には、法律や会社の指示に背きコンプライアンス違反をしてしまうドライバー、その行動を苦々しく思いながらも心情をおもんぱかるとコンプライアンス順守を強くドライバーに迫りにくい会社、というジレンマが存在する。

注1:運行計画の立て方や運用などで本問題を避ける方法がゼロではない。

【次ページ】夜間点呼に苦しめられる運送会社社長の例

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