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- 2021/01/13 掲載
ガソリン車禁止宣言で揺れる自動車業界、日本が「拙速な転換は不要」と言えるワケ
連載:MaaS時代の明日の都市
エンジン車禁止宣言の背景
きっかけは2020年10月に開会した臨時国会における、菅首相の所信表明演説だった。ここで「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」、つまり「カーボンニュートラル」を目指すと宣言したのだ。新政権の存在感をアピールする目的もあっただろうが、この時点ですでにEU(欧州連合)をはじめ120以上の国と地域が「2050年温室効果ガス実質ゼロ」を目標に掲げており、米国のジョー・バイデン次期大統領も同様の表明をしている。中国は2060年目標であるが、カーボンニュートラル宣言をしている点は共通だ。
背景にあるのは2015年のCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)で合意し、翌年発効したパリ協定だ。ここで掲げた「世界の平均上昇気温を産業革命以前に比べて1.5度に抑える」という努力目標を実現するには、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を、森林や海洋などの吸収分を差し引いて実質ゼロにする必要がある。
しかし日本は最近まで、2030年度に2013年度比で26%、2050年までに80%削減としており、海外から批判を受けていた。つまり菅首相のカーボンニュートラル宣言は、世界の流れに合わせる目的もあったのである。
一気に進展した2020年12月
とはいえ、このときはあまり話題には上らなかった。具体的な表現ではなかったことが大きいだろう。しかし2020年12月初め、政府が2030年半ばにガソリン車の新車販売禁止の検討を始めたという報道に続き、東京都の小池 百合子知事が2030年までにガソリン車の新車販売禁止を宣言したことで、世間は一気にざわついた。実はこちらも、欧州や中国などの流れに沿ったものではある。英仏両国が2040年までにガソリン/ディーゼルエンジンだけで走る自動車(以下、エンジン車)の新車販売を禁止すると発表したのは2017年(注1)。その後ノルウェーや中国、米国カリフォルニア州なども、設定年は違うが似たような発表をしている。
ただし、そこにハイブリッド車(HV)を含めるかどうかは国により異なる。イギリスやカリフォルニア州はプラグインハイブリッド車(PHV)と電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)に限るのに対し、中国や日本はHVを含めている。
脱ガソリンに関する各国の目標(2021年1月7日時点) | |||
国・地域 | 達成時期 | 概要 | HVの扱い |
日本 | 2030年半ば(検討中) | ガソリン車の新車販売禁止(検討中) | 販売可能 |
イギリス | 2030年 | ガソリン/ディーゼルエンジンだけで走る自動車の新車販売を禁止 | 販売禁止(2035年までに) |
フランス | 2040年 | ガソリン/ディーゼルエンジンだけで走る自動車の新車販売を禁止 | 言及なし |
ノルウェー | 2025年 | ガソリン/ディーゼルエンジン車の新車販売を禁止 | 販売禁止 |
米国 カリフォルニア州 | 2035年 | ガソリン/ディーゼルエンジン車の新車販売を禁止 | 販売禁止 |
中国 | 2035年めど | すべての新車をEVやHVなどの環境対応車に(検討中) | 販売可能 |
欧州はたしかに、アルプスの氷河減少やヴェネツィアの浸水など、明確な形で温暖化の影響が出ている。しかしそれ以上に、日本製ハイブリッド車の普及を快く思わず、クリーンディーゼル車で対抗する策も失敗に終わったことから、あえてHVを外したという戦略的な意図もこれらの目標には表れていると筆者は思っている。
ところがマスコミの中にはいまなお「電動化=EV化」と誤解する人がおり、エンジンとモーターの2つの動力で走るHVを含めるのは言語道断と考えている人がいるようだ。そこにクギを刺したのが日本自動車工業会の会長を務めるトヨタ自動車代表取締役社長の豊田 章男氏だ。
【次ページ】豊田会長はカーボンニュートラル宣言をどう見た?
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