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- 2016/04/27 掲載
反LGBT法廃止で団結するアップル、インテル、セールスフォース等CEOたちが信じるもの
ダイバーシティ経営におけるLGBT対応
米国におけるLGBTの権利
ウィンザー氏には、40年連れ添った後、2007年にカナダで結婚した妻、テア・スパイアー氏がいた。しかし、スパイアー氏が2009年にこの世を去る。そのときにウィンザー氏に降りかかってきたのが、「遺産税」の支払いだ。ウィンザー氏とスパイアー氏の結婚は米国内で法的に「結婚」とみなされていなかった。そのため、配偶者控除を受けることができず、ウィンザー氏は「遺産税」として36万3,000ドル(約4,000万円)を支払わなければならなくなった。
そこで、同氏は米国連邦政府を相手に訴訟を起こした。そして、2012年、米国高等裁判所は、米国における結婚を「1人の男性と1人の女性を夫と妻の間の法的な団結」と定義する「結婚防衛法(Defense of Marriage Act、通称DOMA)」の一部は、すべての国民への平等な権利、特権、保護を保障する合衆国憲法の「法による平等な保護」の条項に反すると裁決を下した。さらに、結婚防衛法の一部で、連邦政府が米国内の同性間の結婚を認めることを阻む部分を米国最高裁判所が「違憲」と判断した。
このように、米国最高裁は、結婚防衛法の結婚を「男女間のもの」と定義する箇所を違憲だと判断した。つまり、連邦は「結婚は異性間のみとは限らない」と判断し、その結果、各州は同性間の結婚を禁止できなくなった。実質的に「同性間の結婚」が合憲と判断されたのだ。
「米国連邦」ではなく「州」がLGBTの権利を制限するに至った理由
しかし、話はここで終わらない。同性間の結婚などのLGBTの権利は、信教の自由を侵害する可能性を秘める。その代表例がキリスト教の教義だ。カトリックでもプロテスタントでも、一般的に同性愛は禁止とされている。そのため、宗教上の理由でLGBTの人々にサービスの提供をしたがらない人もいる。たとえば、ワシントンポストによると、コロラド州のあるケーキ店店主が、自身のキリスト教の信仰を理由に、同性愛者の結婚式のためのケーキの依頼を断った。コロラド州下級裁判所は、信仰はサービス提供拒否の理由にはならないと判断。店主は同州最高裁判所に控訴したものの、棄却された。性的指向による差別を否定したうえでの権利の平等、という意味では妥当な判断であると解釈できるが、信教の自由の観点からすると、妥当と言い切るのも難しい。
このように、LGBTを差別しない「権利の平等」と「信教の自由」の対立に対応したり、宗教などの理由でLGBTに賛同しない人々とLGBTの人々を棲み分けさせたりしようとする場合、同性間結婚を合憲とする米国憲法や連邦のレベルではなく、州レベルの法律を制定して対処することとなった。
企業と州の全面対決に発展したジョージア州、勝者は企業
LGBTの権利をめぐる企業と州の対立では、本サイトでも扱ったジョージア州の「House Bill 757」の廃案が記憶に新しい。この法案は、州内の宗教職者に、同性愛者の結婚式を含む儀式開催を拒否することを許し、税金で運営される団体には、同性愛者にサービス提供を断る権利を与える内容だった。つまり、信教の自由とLGBTの人々の権利を調整する目的の法案だ。これはジョージア州議会を通過したものの、ジョージア州経済に大きな影響を与えるテレビ・映画業界、IT業界から反対の声が相次いだ。前者からはディズニー、21世紀FOX、Time Warner、後者からはセールスフォースのCEO マーク・ベニオフ氏がジョージア州からのビジネスの撤退や縮小を示唆した。その他の業界からの反対も根強かった。ナショナル・フットボールリーグは、アメリカ最大のスポーツイベント、アメリカン・フットボールの頂上決戦「スーパーボウル」の将来的な開催を拒否する声明を発表した。また、ジュリアン・ムーアとアン・ハサウェイをはじめとする映画人は、ジョージア州知事 ネーサン・ディール氏に同法案に拒否権を行使することを迫る手紙に連名でサインした。
結果として、3月28日、ジョージア州知事ネーサン・ディールは同法案に対し、拒否権を行使することになった。ディール氏は、企業などからの圧力は拒否権発動の理由ではないとするも、企業や著名人、各界からの圧力が影響したことは否定できないだろう。
【次ページ】LGBTの権利のために立ち上がったCEOたち
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